24 使い魔の人生
「はい。報酬は全て均等配分で、全員口座の方へお願いします」
その後は何事もなく王都へ帰還、ヤマトとそよ風団の四人は冒険者ギルドへと戻って来た。
リーダーのタリサが代表で手続きをしている間に、ヤマトは気になっていた質問をすることにした。
「パーティー名って誰がどうやって決めたんだ?」
二人の回答は「くじ引きでランダム」だった。
三人の話し合いで複数の命名候補が出て来たものの最終的に満場一致させることが出来ず、その全てを投入したくじ引きで決着させる事になった。
結果が〔そよ風団〕
命名はヒスイ。
そんな決め方で本当に良かったのだろうか疑問ではあるが、本人たちが決めたことならば何も言うまい。
「終わったよ。報酬はそれぞれ振り込まれてるから確認して」
三人は冒険証を取り出し、確認する。
確かに口座の金額が増えていた。
しかしその増え幅は、想定よりも若干多い。
「……なんか多くないか?」
三人の疑問を真っ先にコハクは発した。
掲示された報酬額×十六体分よりも多い金額だ。
流石に気にはなるだろう。
「追加報酬が出たの。ゴレムの魔石が纏まって手に入るのは珍しい事だからって色を付けて貰えたみたい」
基本的には魔力溜まりが発生条件となるゴレムは、複数体の群れとなることが少ない。
そして自然にあれだけの数が出てくる規模にとなると、その時点で既にゴレムを超えた災害レベルの別の何かが起きている。
ゴレムの大量出現はそれだけ希少なケースのようだ。
「それでは今日は解散にしましょうか、もう暗くなり始めてますし。ヤマトさん…色々とお世話になりました。報酬の使い道も、合宿の事もちゃんと考えて決めたいと思います」
帰り際に三人からアドバイスを求められたため、ヤマトは素人考えながらも気になった点を指摘してみた。
コハクは唯一の前衛にも関わらず、数的不利になるとすぐに下がろうとする。
ヒスイは攻めよりも守りに寄り過ぎている。
タリサの指示は正しいと思うのだが、素早さを意識するあまりに言葉足らずになって伝わらない時が多い。
一応はそこを指摘はしたが、指摘だけでは解決できない部分もあるため、ギルド主催の強化合宿への参加を促してみた。
上級者による指導と実地訓練。
ヤマトのような特殊な立場の中途半端な指導よりも、きちんとした実力者から学んだ方がいいだろう。
地力が悪くないなら尚更だ。
ネックとなる参加費の高さは今回の報酬で賄えるはずだ。
最初三人は、今回の戦闘内容から報酬の均等配分も辞退しようとしていたが、そこは出発前の決め事として流石にきちんと受け取ってもらった。
「まぁ何をどうするにしても気を付けてな。それじゃお疲れさま」
こうしてヤマトの初めてのパーティークエストは終わり、ここで解散となった。
〈ヤマトさんって仕事だクエストだって若干義務感を出してますけど…実は結構楽しんでますよね〉
宿に戻り夕食と風呂を終えたヤマトは、ベットに寝転がり定期連絡を兼ねてナデシコに今日の出来事を伝えた。
その返信内容がこれだ。
正直言うなら、戦闘などの命懸けの状況は全くもって楽しくはない。
むしろ怖い。
だからこそ近寄らせず手を抜かずにキッチリさっさと終わらせようとしている。
しかしそれ以外……魔法の練習や不思議・未知との遭遇、色んな人たちとの出会いや食事や文化…その他諸々は確かに楽しいと思っている。
ギルドのクエスト掲示板を眺めるだけでも、ここが異世界である事を実感出来て楽しかったりする。
実際にクエストとして戦闘に入ればそれどころではないのだが。
『まぁお仕事優先とはいえ、ヤマト君にとっては新たな世界・新たな人生ですから楽しむに越したことはないと思いますよ?』
ここはヤマトの生きる世界。
一生を過ごす世界。
遊び半分では困るだろうが、楽しめるならそれが良い。
どうせ送るのなら仕事をキッチリこなしつつ、プライベートもしっかりと楽しみたい。
途中で終わってしまった前世。
今度こそはちゃんと最後まで、この使い魔人生を全うしたい。
〈…そういうナデシコも、案外楽しそうな生活送ってるんじゃないかな?〉
フィルを先生とし、この世界についての勉強を始めたらしいナデシコ。
日本への帰還がまだ先になる事を見越しているのだろう。
折角の時間を無駄にはせず、一時とはいえこの異世界に少しでも馴染むための努力を始めた。
そしてそれ以外にも……何やら面白い報告がフィルの方から来ていた。
第二王子に気に入られて密かにアプローチを受けているとか。
王女様と仲良くなってほぼ毎日ティータイムに招待されているとか。
地球の料理やデザートを再現しようとしているとか。
セクハラしようとして来た馬鹿貴族の跡継ぎをとっさの護身術で追っ払ったとか。
こちらも聞いてる分には楽しそうな報告が上がっている。
〈王女様は良い人ですし紅茶もお菓子も美味しいです。調理も元々趣味の一つなので楽しいです。ですけど…どうでもいい相手に言い寄られたり、セクハラ紛いの事は流石に勘弁してほしいです。護身術とか使わずに済むに越したことはないんですよ?〉
ちゃっかり〔どうでもいい〕と断言された王子には同情するが、確かに面倒事は勘弁して貰いたいものだ。
そういうものから守るための王城暮らしなのに、内側にそう言った存在が居るのは困ったものだ。
幸いなのはフィル曰く王子も馬鹿も実力行使で何かをしてくるつもりはない様子だ。
王子から正式に求婚されればとても断りづらく、断れば城の中での肩身が狭くなる。
馬鹿貴族は報復の危険性を感じるが、その様子がないのは僥倖だ。
そしてそう言ったどうしようもない相手の為に、希少な転移結晶や人目に出したくないイーバンを使う羽目になるのも困る。
ヤマト自身が直接手出し出来ないのがもどかしい状況だ。
出来たところで何を?とも思うが。
〈そろそろ寝ます。ヤマトさんも、楽しむのは大事ですけどあんまり無茶とかしないでくださいね?何事も程々が大事ですよ?〉
ナデシコの保護者の一人である立場のはずのヤマトが、逆に心配されている。
こちらの方が内外共に年上なのだが…。
ヤマトの顔に小さな笑みがこぼれた。
〈勿論、そっちも夜更かしは程々に。おやすみ〉
〈おやすみなさい。ヤマトさん〉
こうして異世界の夜も更けていく……




