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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
龍界決闘/―――
249/276

241 『ブルガー』




 ――何故か龍に付き纏われている。


 『お前、人気者なんだからあっちで遊んでればいいだろ。しっし』


 面倒なので追い返そうとするが全然言うことを聞かない。

 幸いなのは騒がず、ただ後ろを付いてくるだけな事。

 大人達が〔やんちゃな龍〕と呼ぶその評判とは違う大人しい龍ブルムンドラ。


 『またか…もう好きにしろ』


 こう大人しいのなら別に良いかと、気を許したのが間違いだったのかもしれない。

 許しを得た途端にブルムンドラは本来のやんちゃっぷりを発揮しだして…その度にブルガーは振り回されることになった。

 多分この時が静かで独りぼっちの日々の終わりの瞬間だったのだろうと…後々思う事になる。

 


 『――何のために魔法の勉強をしてるか?』


 そしていつの間にか一緒に居るのが当たり前のようになった頃に、ブルムンドラが尋ねて来た。

 なんで遊ぶ時間を削ってまで、本を読んで魔法の勉強をしているのと。


 『そんなの…俺は人より劣ってるから、弱いから、別の部分で何か強くならないといけないんだ。だからその為に本を読んで勉強してるんだよ』


 ブルガーと同世代の龍人達は勉強よりも遊びが大事の年頃。

 その中で黙々と本を読み続けるブルガーに疑問を浮かべるブルムンドラへの答えはシンプル。

 

 『でもお前とは遊んでるって…それはお前がいつも勝手にくっついてくるから、休憩がてらに渋々に――いや別にお前が迷惑ってわけじゃ…あぁもう面倒!この話は終わり!ここ読み終わったら昨日言ってたあそこ案内してやるから今は静かにしててくれ!』

 

 こうして勉強ばかりだったブルガーの日々はどんどんとブルムンドラに割り込まれていった。

 当然勉強時間は減ったはずなのに、意外にも遊び交じりの方が頭にはすんなり入って来る。

 


 

 『――で、これで出来たはず』


 そんな勉強も、ようやく一つの成果にたどり着く。

 ブルムンドラに振り回されつつも辿り着き手にしたのは《召喚魔法》に《契約魔法》。

 色々魔法を試した中で手応えを感じたもの。

 一般的な魔法に比べれば、かなりマイナーで少数派の魔法。


 『…ブルムンドラ。試しにお前と契約させてくれ』


 そうして独学で習得した魔法を、実践で試すことにした。

 まずは《契約魔法》。  

 対象のお相手と契約を結ぶ魔法。

 これは様々な場面で利用される魔法だが、ブルガーはもう一つの魔法の下準備として陣を描いて行く。


 『そうだよ。前に言ってた召喚契約。いやなら別の何かを探して試すからいいよ…ってだからお前を誘ってるんだろ!?いちいち引っ付くな!?』


 自分がやる!と言ってくっついてくるブルガー。

 多分こういう駄々を捏ねるだろうから、最初のお試し役をブルムンドラに依頼している。


 『――はい出来た。契約成立と。やっぱこういう組み立ての方が普通の攻撃魔法とかよりも楽だなぁ…』


 そして結ばれた契約。

 契約魔法は陣を描き行使する事よりも、その内容を不備なく定めて基本となる契約陣に組み込むことの方が大変な魔法。

 不備や反意、互いの認識に齟齬があれば破綻する魔法陣は…しかし今回は全く問題なく機能して、そのまま二人の契約魔法はすんなりと完遂され結ばれた。

 これでブルムンドラを《召喚》する為の下準備は整う。


 『次は召喚を…距離はひとまずこのくらいとって……』


 そしてそのまま《召喚魔法》の初陣にも挑む。

 今しがた契約したブルムンドラを、自らのもとへと呼び寄せる。


 『よし。それじゃあ早速、《召喚》!――あ』


 契約魔法が完璧に行使出来たのもあってか、召喚にも自信と期待を感じていたブルガー。 

 だが…その初めての召喚は大失敗(・・・)に終わった。





 『――このアホ!子供とは言え龍一体呼び出すのにどれだけの魔力が必要だと思ってるんだ!?』


 気を失ったブルガーが目を覚ましたのは治癒所のベットの上。

 しかも起きて早々に怒られる。


 『まぁまぁ落ち着いて。今は休ませてあげてください。お叱りはその後に』

 『失礼、つい…ブルガー。お前はブルムンドラを召喚しようとして失敗したんだ。覚えてるか?』


 どうやらブルムンドラの召喚が、自身の許容範囲を超えていたようだ。

 

 (勉強通り、召喚魔法は完璧に発動していたはずだけど…ブルムンドラの、龍の存在がそこまで重いって思わなかったな…)


 召喚魔法自体は正しく発動した。

 初めての魔法は発動に失敗する事も多く、難易度の高い召喚魔法は特に失敗を繰り返す前提で行使したが一発で綺麗に発動した。

 だが…発動してしまったからこそ、ブルムンドラの〔召喚コスト〕を賄いきれずにブルガーは倒れ、召喚そのものも失敗となってしまった。

 最近は友達感覚で接していたが、そもそも龍とは容易く御せる存在ではない。

 この世界において最も強靭な種族であり、最古から今も血を繋ぐ古き種族でもある。

 少なくとも召喚初心者が手を出して良い相手ではなかった。


 『にしても…よりによって召喚魔法か。いやまぁ、俺らの型にはまらないのはブルガーらしいと言えばそうなんだが、族長の息子が学ぶ魔法としてはあまりよろしくはないな』


 そんな出来事の中で、大人達が一番懸念を示したのは別の部分。 

 そもそも《召喚魔法》に対する認識。

 元より自身の力を誇り、他種族の助けを求めることを良しとしない龍人という種族。

 召喚魔法はその他の力を借りる(・・・・・・・)前提の魔法だ。

 龍人達のプライド、長く継いできた誇りある在り方に喧嘩を売るような魔法をコッソリとブルガーが…”族長の息子”が学び習得していたことに疑念を抱く大人達が少なからずいたのだった。


 『良いではないか。禁魔という訳でも無し。契約する相手に気を付ける必要はあるが、それがブルガーの才能であるならば、受け入れ伸ばしてやるのが大人の役目よ』

 『龍主様…族長様』


 するとそんなブルガーのもとを訪れたのはなんと龍主その人。

 そしてその傍には、龍人の族長でありブルガーの父親の姿もあった。

 龍人にとって、敬う龍の頂点である龍主の言葉は決定(・・)でもある。

 龍主が『ブルガーに召喚魔法をを学ばせるべし』と発言したこの瞬間、龍人達が表立ってブルガーの召喚魔法を否定する事は出来なくなった。

 これ自体はブルガーにとってはありがたい話。


 『だがブルガーよ。召喚魔法とは其方が思っている以上に危険性の高い魔法じゃ。一発で成功させてしまった其方の才には驚くが…ゆえにこそ、学ぶのであればきちんと大人の管理下で学ぶのじゃ。子供一人で今までのように独学で行使する事は禁ずる。良いな?』

 『…はい、わかりました』


 ただしそれも条件付き。 

 召喚魔法の実践鍛錬を一人で行うことを禁止され、大人の付き添いを必須とされてしまった。 


 『それと…体の力も見捨てずにきちんと育てよ。其方は確かに龍人の中でも一際弱い体ではあるが…だからと言って魔法だけ学んでいてはせっかくの学びも持ち腐れとなるぞ。全ての土台となる体もきちんと鍛え育てよ』

 『はい…』


 今まで、龍人でありながら弱い自分の体を、完全に切り捨て別の道を、魔法の道にのみ集中して可能性を模索していたブルガー。

 しかしその魔法の道も、結局は体の強さとは切り離せないものだと咎められる。

 魔法を学ぶと共に、ブルガーが見切りをつけたその体もきちんと鍛錬しろとのお達し。


 『はぁ…はぁ…はぁ…どうせならブルムンドラも一緒に走れよ…これ見よがしに飛びやがって…はぁはぁ…』


 ゆえにそれからは勉強と並行して、肉体の強化の鍛錬も本格的に力を入れ始めた。

 大人達の下で召喚魔法を安全に気を付けながら学びつつ、毎日体も鍛える。

 今までサボって来た分野なので、最初は毎日キツイ日々を送って来た。

 しかし…続ければ徐々に体が鍛えられる。

 龍人の当たり前には遠くはあるが、その距離がゆっくり縮まっていく。


 『…成功した。ワイバーン』


 そうしてしっかりと下準備を…召喚魔法に対する理解を深め、土台となる肉体も鍛えて再び挑む《召喚》の実践。 

 流石に一朝一夕で龍を呼べるようになるはずもなく。

 ゆえにいくつかの段階を経て、今回契約したのは〔ワイバーン〕。

 龍人達とも縁深い彼らと《契約》して《召喚》し…無事に成功を収めた。

 

 『…なんか最近ブルムンドラが、やたらと引っ付いてくるんですけど?』

 『ははは。あれだろ?ブルガーをワイバーン達に取られると思ってるんだろ。随分と仲良くなったじゃねぇか』

 『いやまぁ、無駄にずっと一緒には居ますけど…』

 

 そんなワイバーンの召喚が成功した辺りから、何となくブルムンドラが以前よりも近くにすり寄ってくるようになった。

 召喚だけならネズミとか猫とか小さい動物は既に何度か成功させていた。

 しかし…龍に近しいワイバーンは、ブルムンドラにとっては引っかかるところ。

 大人達曰くワイバーンへの嫉妬の現れだという。


 (龍って嫉妬とかするんだな。本当はブルムンドラも呼んでやりたいけど…今なら分かる、龍は破格だ)

 

 成功体験はより理解を深める。

 ワイバーンという比較対象が出来た事で、身に染みて理解出来るその圧倒的な差。

 今の自分でも絶対にブルムンドラは呼べない。

 ワイバーンと龍の間にある隔絶たる存在の重さの格差。


 (俺…本当に龍を呼べる日が来るのだろうか?)


 ”召喚師”としての技能を高めて道を進むブルガー。

 だがこの先に、龍を呼べるほどの高みに辿り着ける自分が想像できない。


 (それでも…それでもいつかは…ブルムンドラを呼んでやらないとな)


 だがそれでも、いつか召喚される日が来ると信じているブルムンドラ。

 自分を慕ってくれるその龍の、期待に応えられるようになりたい。

 そう思ったブルガーは自らの召喚師としての道の目標とする存在にブルムンドラを据えた。

 いつもくっついてくる幼馴染の期待に、いつか答えられるようにと思いながら日々の勉強と鍛錬をこなしていった。

 


 ――だがそんなブルガーに、人生の転機となる事件が舞い込む。


 『ブルガー!直ぐに来い!お母さんが倒れたぞ!!』 


 

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