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238 儀式の準備と修練場



 「――あれ?朝から何の集まりだろう?」

 「どれどれ…あら大量」


 朝の時間、宿としてる旅館の部屋から見える外の景色。

 いつも通りの景色の端に見えるのは龍の集団。

 何体もの龍が綺麗に整列し、龍人達も集い賑やかなその場所。

 トラブルという感じはないが、この数日では初めて見る光景だった。




 「――龍の集い?あぁ…そいつは調達部隊(・・・・)だろうな。朝方出発した奴らだな」


 その後、朝食後に会う龍人バリトーに今朝の光景について質問するヤマト達。

 すると返って来た返事は調達部隊という言葉。


 「調達って、何を取りに行ったの?」

 「まぁ色々だな。日常的に必要なものも含まれてはいるが…本命は儀式(・・)に使う素材がアレコレだな」

 「儀式ですか?」

 「あぁ、龍主候補の筆頭が決まっただろ?だから今度は"後継者"としての儀式が待ってるんだよ。本格的に龍主となる為の下準備ってところか?」


 龍界の外へと出向く龍と龍人達の目的は物資や素材の調達。

 それは日常的にも、定期的に行われているものであるようだ。

 しかし…今朝の一団は、その定期的なモノよりも大規模な集団。

 その理由が例の龍主の後継に伴うもの。


 「候補筆頭になって、あとは引き継いで終わりじゃないのね」

 「まぁ面倒だと思うが、昔からある伝統的な手順があるんだよ、段階的に」


 次期龍主の候補になり、その候補たちの中から筆頭になり、筆頭が儀式を経て後継者になる。

 その後継者になった者こそが歴代龍主が継いできた《最後の資格》を継ぐ者となる。


 「言ってしまえばその儀式が、候補にとっては最後の選択(・・・・・)の場になるな。今ならまだ引き返せる、龍主にならない道も選択することが出来る状況だが…儀式の場で『なる』と宣言すればもう引き返せない。儀式は覚悟を問う最後の選択の場だな」


 儀式は、俗に言う〔ポイント・オブ・ノー・リターン〕。

 まだ引き返すことの出来る場所、その先に進めば戻れない、最後の選択の時。

 儀式の場で『龍主になる』と宣言すれば二度と元の生活には戻れない。

 その先に待つのは龍主として、あらゆるものを背負い続ける生。

 筆頭候補の覚悟を問う場がその儀式。

 今はまだ辞められる"筆頭候補"の地位も、覚悟と共に"後継者"となればもはや龍主と同格となり同じ覚悟と責務を背負うことになる。

 だからこそ、覚悟の有無でその二つの呼び名はわざわざ分けられている。


 「まぁこの儀式自体はまだ準備中だ。実際に行われるのはたぶん、お前さんらが帰った後だろう」 


 ただ、その儀式もまだ先の事。

 調達部隊が帰ってきて、その素材を使って準備を完了させ、それから開かれるもの。

 何事もなければヤマトらがこの龍界を出た後の話になるだろう。



 「――と、まぁ。そんな話をしてるうちに、目的地に着いたわけだ」


 そうして今朝の話をしながら歩いていた一同。

 バリトーに案内されて、辿り着いたのは龍人達の集落にあるとある施設。


 (やっぱりここも和なんだな。武道場って…感じだな、ぱっと見)


 そこは龍人達の修練・鍛錬の場。

 日頃から龍人達が自らの力を鍛える場所。

 

 「こっちが武術の修練場だな。で…魔法をぶつけたいならこっち側だな。弓術の奥の部屋。話は通してるから自由に使えばいい」

 「ありがとうございます」


 ヤマト達がこの場所にやって来た理由は、単純に鍛錬の為である。

 この龍界に来てからの日々、最低限日課としての自己鍛錬は続けている。

 しかし本格的な鍛錬は一度も出来ていない。

 日課の手遊びのような魔法鍛錬は欠かしていないので数日程度で衰えるものでもないが、それでも一度しっかりガッツリと魔法を振るっておきたかった。


 (こっちは弓道場だな、見た目が完全に。で…こっちだな)


 そして弓道場のような施設の向こう側の扉に向かう。

 その奥にあるのが魔法用の鍛錬の場。

 頑丈に隔離されたそこはモノとしては王城のソレと変わりない。

 ただデザインが和になっているだけで勝手は変わらない。


 「じゃあ私は向こうで、ちょっと龍人と殴り合ってくるわね!」

 「そこは鍛錬とか手合わせって言いなよ流石に」


 すると精霊アリアは、来た扉を引き返し武人向けの鍛錬場に戻って行った。

 アリアはアリアで龍人と肉弾戦の手合わせをさせて貰う予定になっている。


 (なんか、王子みたいな脳筋に寄ってきてるなぁ)


 最初はヤマトとのバランスで選んだその前衛スタイルも、王子との殴り合いで見せた拳の人、脳筋の片鱗を徐々に濃くしている気がした。



 


 「――ん?あれは…ヒスイか?」


 そうして魔法の鍛錬に勤しみだしたヤマト。

 するとしばらくして、小窓から見えたのはお隣の弓道の場に現れた少女の姿。

 弓と矢を手にした、そよ風団の弓使いヒスイ。


 「お、コハクも来てるのか」


 そのヒスイに声を掛ける少年はコハク。

 リーダーのタリサの姿は見当たらないが、どうやら兄妹でこの場を訪れているようだ。

 

 「コハク、ヒスイ」

 「あ…ヤマトさんも来てたんですね」


 そこでヤマトは一度部屋を出て、兄妹に声を掛けた。

 

 「二人も鍛錬?」

 「はい。俺は龍人の人達に武術の指導を受けてるんです」

 「私は自己鍛錬ですね。ここではあまり弓を扱う人はいないみたいなので」


 どうやら今日に限らず隙を見てここに通っていたらしい二人。

 コハクは武を龍人に習い、ヒスイはいつもの鍛錬の場として。


 「…そういえばタリサは来てないの?」

 「タリサはメルトさんとおでかけしてます」


 対してリーダーのタリサは別件で、メルトと何処かに行っている様子。

 この場にやって来たのは兄妹だけ。


 「さてと、俺は隣に居るから何かあった時は遠慮なく声をかけて」

 「あ、はい。ではまた」


 そうして軽く挨拶だけして、再び魔法部屋に戻っていくヤマト。

 その後、小窓越しに見えるヒスイの弓の鍛錬の姿。


 (――やっぱり構えも軌道も、どれも綺麗だな)


 次々放たれる矢の軌道。

 それを放つ為の構え、所作。

 その弓は以前よりも更に綺麗なものになっていた。


 (弓道としてなら、もうかなりのモノな気がするな。ただ…実戦だとどうなるか…あの弓の扱いは)


 競技としての弓道ならばかなりの腕前と言えるだろう。

 しかしこの世界における弓は、当然戦いの道具。

 訓練鍛錬で綺麗な姿を見せても、実戦で発揮できるのかはまた別。 

 ただし、実戦は置いておくにしても、以前よりもかなりしっかりとしているヒスイの弓の腕。

 あの弓(・・・)を扱う土台は出来ているように思える。

 だがそれは最低条件に過ぎない。


 (…と、俺も自分のことをっと)


 そうして余所に逸れそうになった意識を呼び戻し、視線も再び前へ向けて、久々の魔法鍛錬に勤しむヤマトであった。

 


 

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