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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
龍界決闘/―――
242/275

234 龍の戦い



 「――いやぁ、面白いものが見れた!それなりに長く生きてはいるが久しぶりに興味深いものが見れた。あんがとな!ヤマト!」

 「えっと、どういたしまして?」


 龍人バリトーに感謝されるヤマト。

 彼が見学していたのは女神の使い魔としてのお仕事。

 とは言えやっていることは空間の調整、人目には何をしているかもよく分からない振舞いだったはずなのだが、彼としては何か楽しい要素でもあったようだ。


 「で、これでヤマトへの用事は終わったのか?」

 「そうじゃのう、元は光、卵のことが本題。骨の違和感は副産物。お越しいただいた用件は済んでおる。――この度はこのような場所にご足労頂き助かりました。ありがとうございました」

 「おっと…ありがとうございました」

 「いえ、お気になさらずに」


 骨の正体、卵の回収、場の調整。

 おまけもいくつかあったがここへとヤマトが呼ばれた用件は片が付いた。

 墓守は改めて身を正し頭を下げる。

 それに合わせるようにバリトーも礼を示した。




 「――そんじゃなじいさん。報告はこっちでしておく」

 「お邪魔しました」

 「気を付けて帰りなされ」


 そうして用を済ませたヤマトらは、再びバリトーを先頭にして墓守に背を向け帰路に就いた。

 そのまま来た道を、洞窟の道を戻り進む。


 「…ここどっちだ?」

 「来た道こっちでしょうに」


 すると先ほど来た道を戻るだけなのだが、分かれ道で迷うバリトーの方向音痴疑惑が浮上したりもした。

 だが流石にヤマト達は覚えているので問題なく出口に辿り着く。



 「――ねぇ、この感じ…何処かで何かあってるの?」


 そうして数時間ぶりの外の空気を感じる一行。

 洞窟を出て山の中腹から眺める景色。

 そこには視覚的には何の問題も感じないが…微かに漂ってくる気配には違和感があった。

 特に精霊のアリアは、より繊細に感じ取る、


 「何かの危機!みたいな感じじゃなさそうだけど、何だかやたらと強い力がぶつかりあうような?」

 「あぁ、それなら多分試し(・・)の方だろう」

 「試し?」


 その気配の理由を知るらしいバリトー。

 彼の見つめる先には視覚的には何も見えて居ないが…確かに違和感はそちらの方から感じる。 


 「なんなら行ってみるか?見学ぐらいは問題ないだろ」


 バリトーはその中心地へ、ヤマト達を案内するかと確認する。

 ヤマトとしては問題や危機でないのなら特に興味を持つことでもないのだが、アリアは気になる様子。

 

 「特に予定があるわけでもないし、行ってみる?」

 「そうね、ちょっと確かめたいわ」

 「そんじゃ案内するから付いてきてくれ」


 こうして一行は気配の下へ、バリトーによって案内される。

 来た山道を戻り下山し、陸地を徒歩で進んでゆく。

 だが…進めば進み程、目的地に迫る程に強くなる気配と音と振動。

 何かが強くぶつかり合う音、そして地面や空気を揺らす振動がどんどんと大きくなる。


 「あれは…龍同士で戦ってるのか」


 そして見えてくるその景色。

 二つの巨体がぶつかりあう。

 その姿も近づくほどにしっかりハッキリと露わになる。


 「ん?なんだ?龍主様じゃないのか?」


 だがその目視出来た姿に、事情を知るバリトーの方が驚く。

 ぶつかり合う二つの姿に龍主が含まれないのが予想外だったようだ。

 

 「おーい!」

 「ん?おや、バリトー殿」

 

 するとそのまま、この景色を見守る龍人の一人に声を掛ける。

 こちらに気づいて振り返るその男性。

 そのお隣にはただただひたすらに瞬きもせずにその戦いを見守るブルガー。

 こちらに一瞥もせずに、まっすぐに目の前の出来事を目を逸らさずに見続ける。


 「これどういう流れだ?龍主様はどうした?」

 「此度の儀は龍主様は参加していません。私どもも直前に知らされましたが、ブルムンドラの相手はベルゼルオウです」


 戦う二体の龍。

 その片方はブルガーの友であるブルムンドラ。

 そして、彼と戦うもう一体の龍は【ベルゼルオウ(龍族黒種/"暴れん坊")】。

 二体の龍が飛び交いぶつかり合う大喧嘩を見守る人々。

 

 「ねぇ、どういう事なの?これは」

 「ん?あぁ、今日ここで本当ならブルムンドラへの成龍の儀が行われるはずだったんだ」


 バリトーの語る元々の予定。

 それはブルムンドラへの〔成龍の儀〕。

 龍主の示す試練を乗り越え、龍としての独立を認めてもらう為の試し。

 ここでブルムンドラが試練を達成できれば、彼は晴れて自由の身に、大好きなブルガーの下へと自分の意志で自由に向かうことが出来るようになる。

 そんなブルムンドラへの試練が行われるはずだったこの場で、龍人達にも想定外の出来事が起きた。


 「ですが龍主様がこの試しの相手に、龍主様の代わりにベルゼルオウを指名したのです」

 

 本来は龍主自らがブルムンドラに向き合う成龍の儀。

 しかし今回、彼の相手役には龍主ではない別の龍が指名された。


 「どうやら龍主様は、この儀をブルムンドラだけでなく、ベルゼルオウへの試しともするようです」


 それはもう一体の龍にとっても試しとなる戦い。

 成龍の儀の主役はあくまでブルムンドラ。

 だがその敵役として指名されたベルゼルオウにも、何か試される理由がある様子。


 「ベルゼルオウはこの試しに勝てば龍主の筆頭に、負ければ彼ではなくシュルトリアが筆頭となると宣言されました」

 「候補筆頭をこの勝負で決めるつもりなのか!?龍主様は」


 事情を知るバリトーが驚くその言葉。

 知らぬヤマト達は首を傾げるのみ。


 「お客人にご説明しますと、現在次期"龍主候補"としてブルムンドラ・ベルゼルオウ・シュルトリアという三者が名を上げていました」


 そして語られるのは龍主の後継候補のお話。

 三体の龍の名が挙がり、彼らが次期龍主の候補者となっていた。

 つまりこの三体の中から、龍主の地位と役目を継ぐ者が現れる。


 「先日まで三者は横並びの候補でした。しかし今回の勝負の結末で”候補筆頭”が決まることになりました」


 それは人の国に当てはめると"王太子"のような立場。

 三人の王子が次期王様候補として存在する中で王太子は最も高い立場、つまりは次の王様として最前列に立つ者に与えられる称号。

 次期龍主の"筆頭候補"は正に王太子の地位であり、何事も無ければそのまま王位を継ぐ、次の龍主となる存在。

 目の前の戦いはその筆頭の行方を左右するものであった。


 「でもそれだと、ブルムンドラはもう筆頭にはならないのか?」

 「そうですね。この勝負に勝てば成龍の儀を成し自由になる身でもありますし、そもそも龍主の後継には興味ないでしょうが」

 

 ブルムンドラもその横並びの候補者の一人だったが、この戦いに勝てど負けども既に筆頭の資格はなし。

 この地を治める者を決める候補者争うに、この地を出ていきたいと本気で思う者が混ざれるはずもなく、勝負の結果に関係なく彼は最早候補から外れるのは確定した。

 そして残るは今ブルムンドラと戦う、ベルゼルオウという龍に、ここに居ないシュルトリアという龍の二択。

 この勝負の結末で、二体の龍のどちらが筆頭に付くかが決まる。

 

 「ベルゼルオウはこの戦いの勝敗に自分の命運が掛かっています」

 「それはまぁ俺らにとっても、ではあるな」


 ベルゼルオウは勝てば筆頭候補、負ければ筆頭を他者に奪われる立場にある。

 この一戦は正に命運を決める。

 だがそれは戦う龍たちだけに限らず、新たな龍主に従う龍たち、そして彼らの眷属のような立場の龍人達にとっても大事。

 目の前の戦いは正にこの龍界にとっての重大な分岐点となる戦いであった。



 

 


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