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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
龍界決闘/―――
240/276

232 骨の正体



 「――ふ~む。聞く限りでは、やはり普通のワイバーンとは変わらぬようには思えるが…うーむ」


 聞けば聞くほど唸り出す墓守。

 王都を襲撃したワイバーンの骨。

 賢者と共に違和感を持つ老人に対して、実際に対峙したヤマトが戦闘の経験を語る。

 だがその結果として、悩みは更に深くなる様子。


 「そもそも…この骨、他のワイバーンと何処が違うの?」

 「似ているが僅かに違う。例えばここ、この付け根の部分の形状。されにこの背骨部分のコブの数に――」

 「うん、全然分からないわね」


 そんな目の前の骨の、通常のものとの違いを事細かに説明してくれるのだが…素人には全く分からない違い。

 

 「これらは環境による個体差や変異と言えなくもないが…わしは骨を見ればそれがどういう環境で育ち、どうしてこういう変化を起こしたのかが判別できるのだが、これに関しては全く分からん!」


 骨を見ればその成長環境、変化の理由を見破れるプロの目。

 しかしそんな墓守のおじいさんにも判別できない目の前の骨。

 分かるはずなのに分からないその変異の理由。

 それが違和感となり分かる者である彼らを悩ませる。


 (違いか…ワイバーン…飛竜…ん、飛竜?)


 見つめる鑑定の眼。

 そこに映る〔飛竜〕という文字。

 

 「飛竜…そういえば…あれ?別種?」

 「ん?どうかしたかヤマト?」

 「いや実は…」

 

 ヤマトはその情報を告げる。

 それは本来目に見えない相違点。

 この場においては《鑑定眼》を持つカイセのみが見極められたもの。


 「ヒリュウ?お前の眼にはそう見えるのか」


 そこでヤマトは認識のズレを理解する。

 今目の前に存在する骨は【ワイバーン(飛竜種)の骨】というアイテム。

 だが今までに視た生きたワイバーン達は全て【ワイバーン(翼龍種)】。

 同じワイバーンでも別種のような表記。

 しかしそれらにはヤマトだから…いや、使い魔にしか視えていない情報も含まれていたようだ。


 この世界の人々にとって、ワイバーンはあくまでもワイバーンなのだ。

 翼龍と呼ぶような事はあれど、飛竜と言う名には誰も心当たりがない。

 何故ならそれはヤマトだからこそ知れた情報なのだから。


 「そう…そうですよ!私も失念していました!?」


 すると小人のティアが騒ぎ出す。

 自身の失念、分かりやすい見落としに気づいて慌てだす。


 「使い魔の眼とこの世界の鑑定眼、仕組み自体は同じですが〔アクセス先のデータベース〕が別なんですよ!」

 「でーたべーす?」


 そしてここで知る鑑定眼の正確な仕様。

 元々《鑑定眼》とは、世界の持つデータベース、言うなれば〔アカシックレコード〕へのアクセス権利である。

 この世全ての情報を記憶すると言われる世界の記憶盤(アカシックレコード)

 《鑑定眼》は眼にした対象の情報をそのアカシックレコードからダウンロードして知ることになる。


 「この世界に生まれ育つ人々が持つ鑑定眼は〔この世界のアカシックレコード〕がアクセス先になっていますが…女神の使い魔に与えられた鑑定の眼は〔神々の領域のレコード〕がアクセス先になっているんです。まぁ制限はされてますけど」


 しかし使い魔の眼がアクセスするのは〔神々の領域のレコード〕。

 大幅に制限は入るため、基本的な使い勝手は通常の鑑定眼と同じ程度。

 だがそこには確かに差異があった。

 少なくともこれらに付随する飛竜の名は使い魔の眼だからこそ視えるもの。


 「それで、お兄ちゃん。その飛竜という名はこの世界には無い表記なのです」

 「この世界にない表記?それって…」

 「本来は他の世界(・・・・)において、同じようなワイバーン系存在を示す呼び名なのです」


 そしてその飛竜という名称自体、本来この世界には存在しないもの。

 それはこことは違う世界にてワイバーンを示す呼称。

 神々の領域のレコードは、ご近所世界と共用されるデータベース。

 複数世界の情報を内包する記録から鑑定情報を引き出すヤマトのそれには、場合によっては異世界の情報が表示されることがあるらしい。


 「勿論、普通にこの世界のものを鑑定する分には起こりえないことなのですが…余所の世界から来たものを鑑定する時には余所の世界の鑑定情報が引き出されると…」

 「あら、つまりこの骨、余所の世界のワイバーンの骨?」

 「そうなります」


 つまりこの世界に無いはずの〔飛竜〕という文言が表記される目の前の骨は、余所の世界由来のワイバーンの骨であるという証明でもあった。


 「なるほど。これは異世界のワイバーンの骨なのか!違和感の正体はそれか。環境個体差にしても何故こうなるのか説明出来なかったのは、そもそも異なる世界での成長の――」


 するとその答えで霧が晴れた墓守のおじいさん。

 自分たちの常識では説明しきれなった目の前の骨の違和感。

 自分の常識の外にあったその骨の正体がまさしく自分の常識の外に、この世界とは別の世界にあったと知って合点が行った。

 この世界に住む人々が気付くはずもないその答え。

 そして…この世界に存在しないはずのワイバーンの骨が自分の目の前にあるという現実にはしゃぎだす。


 「異世界のワイバーン。そうかそうか…ふむふむ!」

 「なんか楽しそうね」

 

 自身の触れたことのない異世界のワイバーン。

 その骨、標本が手元にあると知って湧き上がる好奇心。

 それはどこかオタクらしさを感じる。


 「他世界の骨…いつのまに持ち込まれて…どこから…いやそれよりも…ブツブツ」


 対して暗い表情でブツブツと呟きだすティア。

 女神サイドとしては困った状況。

 何せいつの間にやら異世界の代物がこの世界に紛れ込んでいた。

 運営としては一大事で、それに気づく片鱗が目の前にありながら気づかなかった事にも失点となる。


 (異なる世界のワイバーン。例の余所の神域宝具とも関連あるパターンなのか?それとも迷い人案件?)


 女神の使い魔であるヤマトには、異世界のモノと聞いて浮かぶのは二つ。

 一つはナデシコのような迷い人案件。

 女神も意図せぬ原因で余所から迷い込んだ人やモノ。

 もう一つは例の異世界の神域宝具。

 謎の存在の使用していた、持ち込まれた手段が全く不明の異世界存在。

 程度の差はあれ、異世界から舞い込んだモノであるという点は変わらない。


 「うぅ…また女神(わたし)の仕事が…」


 そして増えた女神様の仕事に、本体の自分の嘆きを憂うティアである。


 「――と、そろそろ時間だの」


 そんな予想外の出来事もあったが、この場の本題は別にある。

 ヤマト達がここへ呼ばれた理由。




 「――ここ。ここで待っとくれ、もうすぐのはずなのじゃ」


 案内されたのは更に奥の、一種の物置部屋の中。

 示されたのはその岩壁。


 「…来た」

 

 すると突然、揺らめく光を放ちだす岩癖。

 小さな光は少しずつ大きくなり、今は人の顔ぐらいの大きさになった。


 (…何も分からないな、眼じゃ)


 ヤマトは鑑定眼でその光を見つめるが何も情報は出ない。

 これはまだ何であると示せるものではない何か。


 「…これは、ぐぅ…」


 だがティアだけは、目の前の光に嫌な顔(・・・)をした。

 

 「ティア?これが何か分かるの?」

 「……はい」


 嫌な顔をしながらもハッキリと肯定するその正体。

 

 「これは…雑な言い方ではありますが〔ダンジョンの卵〕とも呼べるものです」


  



 

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