23 ゴレムの群れと魔力溜まり
冒険者パーティー〔そよ風団〕
下級冒険者三名からなる、新人新鋭パーティーである。
唯一の男であり前衛職の剣士、琥珀色の瞳に赤み掛かった茶髪のコハク。
コハクの双子の妹であり、多属性の《魔法矢》も扱う弓矢使い、翡翠色の瞳で茶髪ポニーテールのヒスイ。
そしてパーティーの指揮役で魔法使い、深緑のショートヘア少女タリサ。
そんな兄妹+幼馴染三人組は、現在窮地に立たされていた。
目の前には【ロックゴレム】十五体。
「多い多い多い多い!!!」
「だからって前衛のコハクが真っ先に下がらないでよ!」
「支援するからこれ以上下がるな、そこで踏みとどまりなさい!」
まずは自分達でというから見ていたヤマトであるのだが、最初は一体だった〔ロックゴレム〕は、戦闘開始後に続々と数が増え、今では目算十五体にまで達していた。
身長ニメートル程の岩体マッチョ。
それがこの数は圧迫感がある。
彼らそよ風団は、ヤマトのような半分下級詐欺な冒険者では無く、真っ当な下級冒険者だ。
流石にここまでの数は相当に厳しいだろう。
『この規模の魔力溜まりでこの数は異常ですね』
観測上は発生初期の魔力溜まりは周囲への影響は確かにあれど、ゴレム複数体分の魔石を生成するまでの規模ではないはずだ。
にも関わらず、これだけの数が目の前に居ると言うのであれば、魔力溜まりが数値では測れない異常事態の可能性もある。
「おーい。そろそろ手助けしてもいいかー?」
「「「お願いします!!!」」」
三人揃踏みで許可が出たので、パーティーの臨時要員としてようやくヤマトも参戦する。
数は十六……また増えてる。
本当は臨時パーティーとして援護支援役に徹するべきなのだろうが、数が数だ。
三人には申し訳ないが、キリがないので魔法使いらしく一気に殲滅と行く。
杖を構えるヤマト。
「下がって!」
ヤマトの指示で一斉に後退する三人。
全員がヤマトの後方まで下がった事を確認し、行動を開始する。
「《氷矢の雨》」
目標の集団ゴレムの上空に、数十本の氷の矢が現れる。
その全てがゴレムの群れに降り注ぐ。
「…何体か残るな。《風斬乱舞》」
複数の風の刃がゴレム達を襲う。
魔力を増し、通常よりも強めに放った風斬は、ロックゴレムの岩の体すら易々と切り裂いていく。
「《陥没》」
ゴレムの足元に突如出現する大穴に、目視できる全てのゴレムが落ちていく。
「《水弾(大)》」
そしてその穴を目掛けて、穴のサイズに合わせて大きめに作った水弾を叩き落とす。
森の中に小さな池が出来上がり、透き通った水の底には動かなくなったロックゴレム達の残骸が沈んでいた。
「ちょっと手数が掛かり過ぎたけどそこは今後に生かすとして、一応は無傷だから良しとするかな?後はグルグルと……」
ヤマトの杖の動きに合わせて、出来立ての池の水が渦巻き始めた。
渦巻く水の中で、ボロボロになっていたゴレム達の亡骸はさらに砕け、砂へと帰っていく。
その中から形を維持したままの、赤い石が微かに姿を現す。
「しまったな。水が濁って見づらくなったか。まぁ魔石の反応だけ選りすぐれば……それ!」
池の中から、複数の何かが飛び出て来た。
ヤマトの目の前に落ち、集まったのは十六個のゴレムの魔石だった。
「全部あるな。折角だから砂の方も固めて出しておくか。そいっと!――さて解除と。流石に出した魔法を操り続けたり細かい操作をすると神経使うなぁ」
兎にも角にも、遭遇したロックゴレムはキッチリと倒すことが出来た。
パーティーを組んでいるにも関わらず、一人で片づける羽目になってしまったが。
「――それで、そっちは大丈夫か?」
「あ、はい!」
「私も大丈夫です!」
「…動けます!」
どうやら問題は無いようだ。
直接相対した剣士のコハクには掠り傷はあるが、弓と魔法のヒスイとタリサは、少々の疲労のみで済んでいる。
これなら更に一~二体出て来たとしても問題は無いだろう。
「そうか、ならちょっと周囲を確認してくるからこの場は頼んだ!魔石と砂の回収も任せた!」
ヤマトは返事を待たずに別行動を始めた。
一応あの場の周囲に他の気配がないのは確認出来ているので、ヤマトが居なくなった途端に戦闘が始まる事は無いだろう。
しかし時間が経てば寄ってくる可能性は高いので、早々に済ませて戻る事にしよう。
『ヤマト君、そこの茂みの向こうです』
そして目的の場所。
ゴレムの発生源、〔魔力溜まり〕を発見した。
目には見えないが、確かに周囲よりも空気が重く、僅かだが圧迫感のような物を感じる。
これが魔力濃度が通常よりも濃い空間というやつなのか。
『やはり濃度自体は濃くなってますが初期段階…ですが流出した魔力は初期ではあり得ない程多い……ヤマト君、この空間に杖をかざしてみてください!』
ヤマトは女神様に言われるままにセイブンの杖を適当な場所にかざす。
『……細工がされてますね。魔力溜まり自体は自然に発生してしまった物のようですが、そこに誰かが細工をして魔力を無理矢理汲み上げ、濃度が一定以上になると自動で魔石に変換し、ゴレムの誕生を強制的に促す術式が設置されています。自然発生ではなく人為的にというのであれば、あの数は確かに……ただやはり魔石生成の際の魔力消費は当然大きく、純度の低下もありますから通常ならば全く割りに合わない術式ですが……元の魔力が龍脈から汲み上げているため幾らロスがあろうと損はないと……術式の設置費用のみで材料費・維持費無料のゴレム生成装置……修復と共に術式を破壊しましょう』
遭遇したゴレムの異常発生は、何者かの細工によるものだったようだ。
一体誰が何のために…という推察は今のところ情報が乏しく、しようがない。
なら今出来る事をするだけだ。
『データは取りました。ヤマト君、手筈通りにお願いします』
女神様の調査は終わり、使い魔の出番となった。
この魔力溜まりに溜まった余計な量の魔力を解消し、龍脈の穴を修復する。
本来なら上に居る女神様でも問題なく行える操作ではあるのだが、現世現地から直接手を加えたほうが圧倒的に早いらしく、時折要請の来る使い魔の通常業務の一つとして既に仕込まれていた。
まずはこの場に溜まった魔力を杖にまとめ上げ、魔力溜まりの濃度を通常値まで下げる。
ヤマトはまとめ上げた余剰魔力を、そのまま利用し修復のための魔法を起動する。
「代理権限行使――《大地を癒すは女神の光》!」
魔法と言うには法則の異なる、世界の仕組みそのものを修復・調整するための女神様の力。
地上においては女神の使い魔たるヤマトのみにしか行使を許されない魔法。
そしてヤマト自身の好きには出来ず、あくまでもお仕事のためだけに習得した魔法。
使い魔の使用申請により許可不許可を検討する《女神の盾》と異なり、個人的事情では絶対に使う事の出来ない、お仕事専用魔法。
ヤマトは使い魔として、女神様の代理としてそれを行使し……そして龍脈の傷は癒え、魔力溜まりは綺麗に消え去った。
異物と認識された謎の術式も消滅した。
「――さて、使った後でも魔力がちょっと余ってるんですけど、これどうします?」
『ちょっと弄れば龍脈に戻せますけど……せっかくなのでそのまま魔石にしますので今回の報酬として貰ってください』
返事をする前に、杖に留まっていた魔力が魔石へと変わりヤマトの手元に落ちた。
古代龍の魔石程ではないが、龍脈から漏れ出てからそう時間が経っていないために純度が高く、余りものとはいえど量も多い。
そして本来あるはずの、魔力の魔石化に伴うロスや変質も全くない。
ここは流石女神様というべきか。
「分かりました。貰います」
一般に出回っている魔石よりも、純度が高く量も多いのであれば使い道はいくらでもある。
いざとなればそれなりの金額でお金にも替えられる。
ヤマトに特に不満は無かった。




