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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
龍界決闘/―――
238/276

230 その頃、成龍の儀



 「――ヤマト達はそろそろ着いた頃か」


 自身の支度を整えながら、山へ向かったヤマトらを気にする龍人ブルガー。

 彼らが向かった先に何があるのかを知っているゆえに少し気になる。

 

 「龍墓…龍たちの墓場。なんであんな所に向かわせた?」


 龍やそれに連なる者達の辿り着く場所。

 とは言えば聞こえはいいが、そこはただの墓場。

 余所者には何の縁もないような場所だった。

 だからこそ族長が…ブルガーの父がヤマト達をそこへ招いた理由が気になっていた。


 「まぁそれは隙を見て本人に聞くか。良し」


 そしてブルガーも部屋を出る。 

 彼自身も龍人であり、ここへは里帰りも同然なのだが事情も事情でありまだ実家には顔を出せずにおり、ひとまずは客人向けの宿で一夜過ごした。

 そんな彼は本日、呼び出しを受けて部屋を後にした。


 「――お待ちしておりました。若様」

 「…お久しぶりです」


 すると出迎えの龍人が外に待っていた。

 彼は族長の補佐官の一人。

 ブルガーの父親の部下であり、昔からブルガーを『若様』と呼び続けている。

 昔はそれが当たり前だったが、あの一件があってからは徐々に呼ぶ者が少なくなった呼び名でもある。


 「まだ俺を若様と呼ぶのか?」

 「私にとって若様はいつまでも若様です。もし族長となられるのでしたら呼び方も変えましょうが、そうでない限りはいつまでも、何があろうと私にとって若様は若様です」


 若様以外の名でブルガーを呼ぶ時は"族長"の役目を与えられた時だけ。

 しかしブルガーが族長になる目はほぼなく、本人も望んでいないので実質的に彼はブルガーを一生若様呼びすると宣言したようなものだった。


 「…これでも成長はしているんだけどな」

 「ええ、少し見る間により凛々しく。ですがただただ、私どもにとって若様は、いつまでも若様だというだけの事です」


 その若様呼びには、今はもう将来への期待は含まれない。

 ただただ昔から呼び慣れた名として、親愛の気持ちで深い意味はなくそう呼ぶだけ。

 

 「…そう思わない奴らも良そうだけどな。族長に付くお前の立場で、いつまでも俺を若様と呼ぶことを邪推する奴らが少なからずいるだろ?微妙な不和の元にならないか?変に波風立てない方がいいんじゃないか?」


 ただしそれは身内の認識。

 外部からは「彼らはまだブルガーを後継として見ているのでは?」という余計な懸念を浴びかねない呼び方。

 族長一族と相対する一派には、若様呼びも不安材料になりえる。

 そんなあえて波風立てるのは、族長に近い役目を持つ彼らのするべき行動ではないだろう。


 「おや?大波起こして後始末を結局私達に放り投げて去った若様が何を言っているのでしょうね?」

 「ぐ…いやそれはすまんけど…」


 だがそもそもの元凶であるブルガーにそれを指摘する権利があるかと言えば微妙なところ。

 仕方ないとはいえ爆弾を落として不和を招き結局は自身では何も解決できずにあやふやのまま去って行ったブルガーは困った顔をする。


 「ふふふ。少し意地悪でしたね。後始末を、とは言いますが、それは子供でなく大人の役目ですからお気になさらず。むしろこのように不甲斐なく申し訳ありません。とは言え、この通り私どもはこの呼び方を変えるつもりはありませんのであしからず」

 「はぁ…まぁ好きにすればいい」

 「はい、好きにさせていただきます。若様」


 こうして変わらぬ若様呼び。

 久方ぶりの再会を果たした二人は歩き出し本題の下へと向かう。

 



 「――それで、俺への用ってのは?」

 「はい。若様には見届け人(・・・・)となっていただこうと思います」

 「見届け?それって…もしかして〔成龍の儀〕か?」

 「はい、その通りです」


 そして本日の要件の本題。

 ブルガーが呼ばれたのは〔成龍の儀〕。

 この龍の領域において特別な出来事(イベント)の一つ。


 ――龍にとっての成人、大人の龍として認められるには単純にそれ相応の年齢になることが必要だ。

 逆に言えば時がくればどんな龍でも大人として認められる。

 だがそんな流れとは別に、ここには〔成龍の儀〕と呼ばれるものが存在する。

 それは龍にとって〔特別な資格〕を得る為の儀式であり試練(・・)

 

 「…いやもしかして、挑むのって…」

 「はい、ご存知ブルムンドラです」


 そんな試練に挑む予定なのはどうやら子龍ブルムンドラ、ブルガーの幼馴染とも呼べる龍であった。


 「あいつまだ大人にもなってないんだぞ!?」

 「暗黙の了解として、挑むのは大人になってからとされてはいますが本来の掟には挑むのに年齢制限はありません。つまり生まれたばかりの赤子でも、望めば試練を受けることが出来ます」


 ルール上は問題のない挑戦。 

 だが今までの前例としては、大人になる前の龍が挑んだ試しはない。

 ブルムンドラはその第一例になろうとしていた。


 「…龍主様は、受けるんだよな?」

 「はい。あの方はどのような者が相手でも、試練となれば拒まずに受けますので」

 「ちなみにそれはいつ決まったことだ?」

 「昨晩遅くに。若様が龍主様と対面している時にはまだ誰も予想だにしていなかったでしょう」


 昨日、龍主と向き合った際にはまだ申し出すらなかった試練への挑戦。

 つまりブルガーにだけ秘密にされていたというわけではなかった。

 むしろ大人たちも突然の出来事に慌てて準備を進めている様だ。


 「…原因は俺だよな?」

 「言葉にはしませんが、どう考えても若様でしょうね」


 ブルムンドラはその理由を語らない。

 しかし誰がどう見ても、龍人達にはブルガーが原因だというのは分かりきっていた。

 

 「アイツ…俺に付いてくる気なんだな」


 ブルムンドラの思惑。

 それは正にブルガーと共に在るため。

 その資格を得る為の挑戦。


 「試練を越えればブルムンドラには本当の意味での自由(・・)が与えられる。その後にここを出てブルガーについて行きたいと言えば、もはや龍主様でも止める権利はなくなる」


 龍というものは例え大人になって相応の自由を得たとしても、龍主の影響下からは抜けられない。

 大人になろうとも立場的にはいつまでも龍主の眷属のようなものであり、龍主の命令は絶対となる。

 例えブルムンドラが今後大人になり、外に出る許可を得て旅立ったとしても、何処かで龍主の命令一つあれば何の最中だろうとも従い戻らねばならない。

 大人になっても真の意味での自由はそこには存在しない。

 だがその代わりに、龍主という大きな存在の加護を無償で受け続ける資格を持つ。

 

 「恐らく、大人になりさえすればブルムンドラの旅立ちを龍主様は認めるでしょう。ですがブルムンドラはそれでは足りないと考えているようですね。若様について行くために、龍主という鎖を断ち切ろうとしている」


 これから行われる〔成龍の儀〕。

 その正体は完全なる独立(・・・・・・)

 龍主の庇護下を抜け出して、恩恵を全て手放すことになるが、代わりに龍主にも縛られぬ本当の意味での自由を得る。 

 独立すれば龍主の命令を絶対順守する必要もなくなり、望む時に望む場所へと向かうことが出来る。

 つまりブルムンドラは、龍主の庇護下から完全に抜けようとしている。

 龍の群れを抜けて群れの縛りから解放される。

 それは確かに自由であるが、同時に龍主やそれに属する龍たちを頼ることが出来なくなる。

 その後の生は全てが自己責任。


 「だから若様は必ず見届けるべきでしょう。例えどんな結末(・・・・・)になろうとも」


 ゆえにブルガーは呼び出された。

 ブルムンドラが試練に挑む理由となる龍人。

 見届けるにふさわしい者は他に居ない。


 「…ブルムンドラ」


 そして辿り着いた平原。

 何もないただただ広い土地に、彼は静かに佇む。

 気配からブルガーがやって来たのは理解しているだろう。

 しかしいつもと違い振り向くことなく、これから起こる出来事に向けて静かに集中する子龍。

 その覚悟を決めた佇まいは普段のやんちゃな姿からは想像が出来ない程に真面目なものだった。


 

 

 




 

  

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