227 ブルガーの苦労
「――おう、戻って来たか!なんかちっこいのも増えてるけど」
「初めまして、ティアと申します!」
「俺はバリトーだ。よろしくなちっこいの!」
「受け入れ早いなぁ…」
龍との面談を終え、龍宮を後にしたヤマト達。
そして外で待っていた面々に合流。
そこで小人モードのティアは、初対面となる龍人バリトーと挨拶を交わす。
てのひらサイズの人型存在、小さな人間に驚くこともなく一瞬で受け入れるバリトー。
「ちなみに…なぜブルガーさんは地面に寝転がっているのですか?」
そんな対面の直後にティアが指摘するのは、地面に転がりぐったりしているブルガーの姿。
「ん?あぁちょっと待ち時間が暇だったからな。せっかくだから有効活用して久々に腕試しで殴り合いをな」
「龍人、というか龍関係者って脳筋しかいないのかしら?」
「流石に龍に龍人の連戦は…」
「ブルガーさん生きますか-?」
二戦目となる戦いの後のブルガー。
龍主に、龍人との連戦の模擬戦闘。
風習なのか、単純に個々人の気まぐれか。
いずれにしても龍の頂点に叩きのめされ、その後は叔父にも吹っ飛ばされ力尽きたブルガーは地面に伏していた。
「…なるほど、龍主様とも殴りあった後だったのか。それは悪いことをしたな。覇気がなかったもんだから『たるんでる!』と、喝を入れる為に強めにボコしちまった」
「それ一戦終えて疲れてただけじゃない?」
「だろうな。龍主様の手合わせは遠慮も躊躇もない。相手したら大体ボッコボコにされる。むしろボコられた後でこんだけ動けるんなら前よりもちゃんと強くなってやがるな。良かった良かった」
「当人たまったものじゃないでしょうけど。龍主と戦った後だって言ってなかったの?」
「む?なんか言おうとしてたが…まぁ問答無用だったな、俺は」
ブルガーの話も聞かずに拳を向け始めたらしいバリトー。
結果、弱った状態で戦い、そのままこうして地に伏せる結末を迎えた。
「えっと、治癒いります?ブルガーさん。得意ではないですが無いよりはマシだと」
「なんなら私がする?」
「おっと待った!龍人の腕試しは基本的に治癒の使用は制限されてんだ。それに…このくらいなら問題ないだろ。今日はグダグダだろうが明日にはちゃんと動けるようになるだろ。龍人の回復力なら」
「…問題は大有りなんですけど…まぁ、治癒は大丈夫…ゴホ」
「大丈夫そうには見えないけど、厳しいならちゃんと言ってくださいね」
「あぁ…勿論…ぐっ」
ぷるぷる震えながら立ち上がるブルガー。
体を魔法で癒すことは許されず、ボッコボコにされた後の体の負担を圧してゆっくりと立った。
「そっちは…終わったのか?龍主様への用事は」
「あ、はい終わりました」
「バッチリです!」
「…小さい、女の子?」
するとようやく気が付いたのか、小人ティアに視線を迎えて首をかしげる。
とりあえず掻い摘んでティアの再誕について告げる。
「また賢者様が興味深々になりそうなネタが…」
「おーい。そっちのアレコレはようわからないが、用事も終わったなら戻ろうぜ?多分皆待ってるだろうさ」
「あ、はい。そうですね。用は終わってます」
そして一同は、龍主の龍宮での用事を済ませ、宮に一礼をしてから去っていく。
一足先に戻った王女一行の後を追う。
「――お?あれはまさか…」
するとそんな一行を、正確にはとある一人を待ちきれずに迎えてくれたのは、龍人ではなく一体の龍。
それも全速力でこちらに突撃してくる。
「あ、止まりきれねぇなこれ。ここに突っ込むぞアイツ。全員回避ー!!」
バリトーはそう判断して、全員に回避を促した。
元気なヤマト達はすぐさま道を開ける。
だが…一人逃げ遅れる人物がいた。
「まだそこまで体は回復してな――ぐふぉ!?」
「あ、轢かれたわね」
龍は地面に足を付け、ブレーキを掛けて急停止する。
だが勢いを殺しきれずに…そのまま逃げ遅れたブルガーを頭で跳ねた。
ダメージのせいで機敏な行動が取れなかったブルガーは、交通事故にでもあったかのように綺麗に跳ねあがった。
「なんかこう、帰って早々踏んだり蹴ってりじゃない?ブルガーって」
「ブルガーさぁああんん!!?大丈夫ですかぁあ!?」
「流石にあぶなくない?」
再び地面に転がるブルガーに、駆け寄るヤマト達。
ただでさえダメージがあった体に、龍の突撃の衝撃を受けたせいで真面目に限界間近に陥る。
「流石にしんどいか。使えるなら癒してやってくれ」
「じゃあ手っ取り早く私が…それ!」
そして流石にそのダメージを、魔法でゆっくりと癒していく。
「さて、そんじゃこっちは…この…ブルムンドラぁ!!いい加減に後先考えずに猛進する癖治せ!!お客さんに怪我させたらどうするつもりだぁあ!!」
「グゥ…」
「ブルガー吹っ飛ばしたのは怒らないのかしら?」
「まぁ…ある意味いつものことで…はぁ」
「大変ですね。ブルガーさん」
その最中にバリトーは、突撃して来た龍、ブルガーの幼馴染ブルムンドラにお説教をし始めた。
龍と言えども成人前はただの子供扱い。
龍人もしっかりと龍を叱りつける。
「――今までで一番死の危機を感じた…」
「身内が最大の脅威なのでは?」
こうして事故の前よりもしっかりと元気を取り戻したブルガー、
人生で一番の命を感じた、身内が最大の脅威だったと言っても過言ではない里帰りの初日の出来事。
ここに来てから精神的にのみならず、肉体的にも必要以上に叩かれ続ける彼の苦労。
「だがそれほどにブルムンドラも心配してたってことだからな?」
「そこはまぁ理解してるけども…あ、こら!?甘噛みすんな!?」
「ハグハグ」
当のブルムンドラはお叱りも気にする様子無く、龍の大きな口でブルガーの頭を甘噛みしていた。
「おうブルムンドラ!迎えに来てんだから、そのままコイツら全員乗せて飛べ!」
「グァ…」
「ブルガー以外は嫌とか言うな。乗せねぇならお仕置き部屋に――」
「グガァ!!」
「乗って良いってよ」
「龍も怖いものがあるのね。脅しに屈するぐらいに」
結果、残りの帰路の行程をブルムンドラの背に乗り空を飛び帰ることになったヤマト達。
若干嫌々ながらも、度重なる勝手に怒るバルトーの〔お仕置き部屋〕の言葉に反応し、素早くしゃがんで待つ。
「いいか?龍人以外も乗ってんだ。いつもより静かに飛べよ?途中で落としたりしたらその時もお仕置き部屋だからな?」
「グァ…」
そのまま再びの空の旅で、龍宮を、龍区画を後にする一行。
流石に念押しされたブルムンドラは静かに優しく空を飛び…そのまま無事に王女一行と合流することが出来たのだった。




