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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
龍界決闘/―――
231/275

223 ブルガーの過去




 「――空の旅も久々ね」

 「まぁ前回は空を楽しむ余裕あんまりなかったけど、運航側だったし」


 龍の領域。

 船に乗って辿り着いたその場所で、今ヤマト達は空を移動している。

 再びのワイバーンの空の旅。

 客人の出迎えに龍人側が用意していた移動手段として、以前に一度体験したワイバーン輸送の出番となった。

 

 「ヤマトは前は運ぶ側だったものね」

 「正確には燃料タンクだったけど」


 以前のワイバーンの空旅は、ブルガーの《召喚》したワイバーン達が運び、ヤマトはそのコストとなる魔力タンク役だった。

 しかし今回は現地のワイバーンで召喚も使われていない。

 更に運ばれる側であり、暇を持て余しカゴの中から下の光景を眺める余裕がある。


 「龍界には馬はいないのでしょうか?」

 「本には『龍界の移動手段は主に空』と書かれてたけど…全くいないのかどうかは分からないわね」


 なおこのワイバーンの編隊は馬車の時のように一行を三つに分けて乗せている。

 組み分けも同じなので、ここにヤマトとアリア以外にも使用人のライラの姿もある。

 ただし、ブルガーの姿だけはない。


 「ところで…ブルガーは大丈夫かしら?」

 「うーん…」


 客人と荷物を載せる縦並びの三騎のワイバーンを囲むように菱形で飛ぶ四騎のワイバーン。

 更にそれに連なる空飛ぶ龍人たち。

 その護衛網の先頭を飛ぶ一騎のワイバーン上に跨るのが、件のブルガー親子(・・)の二人。

 久方ぶりの親子水入らずの空の旅。


 「はは、まぁアイツらには気まずい時間だろうな」

 「あら?」

 「よっと、失礼する」


 そんな懸念の中に、カゴの中に乗り込んできた一人の大男。

 運ぶワイバーンと並行して飛んでいた、一行の守護の龍人の一人。


 「俺はバリトーだ。一応族長補佐とかもしてるが、一番わかりやすく言うならブルガーの叔父(・・)だな」

 「ブルガーさんのお身内?」


 その巨躯の龍人の正体はブルガーの血縁者。

 叔父である【バリトー(龍人族:族長補佐/"族長の右腕"】。


 「あ、冒険者のヤマトです」

 「精霊のアリアよ」

 「王女付従者のライラと申します」

 「おうよろしく!…て精霊?しかもそんだけ人の姿に、珍しいもんが来て…と、そうだそうだ。いきなり邪魔して悪いな。じつはちょっと話をしたくて(・・・・・・)な。面倒でなければ付き合ってくれ。ブルガーは人の国で元気にやってたか?」

 「え?あぁまぁ、少なくとも不自由している感じはありませんでしたし…」

 「あとまぁ、ブルガーのお話なら花が咲く(・・・・)かも、みたいなお話もあるわね」

 「ほほう?あいつがか、一体どんな――」


 彼の求める話とは全てブルガーのこと。

 故郷を離れていた甥っ子を心配しての質問の繰り返し。

 そしてバリトーは大雑把にではあるがブルガーの人の国での生活が決して悪いものではなかったのだと判断したようで安堵する。

 

 「どうやら元気にやってたみたいだな。たまーに届く手紙なんかも、かなり簡素で感情が全く読めなかったからな」

 「手紙は出してたのね。故郷に対して気まずそうだったけど」

 「まぁ…ここでのアイツの立場を考えると帰りづらいのは当然だろうさ。ちなみに…お前らはアイツの事情はどこまで知ってる?」

 「えっと、やらかして出て来たから帰りづらい…程度に?」

 「まぁ自分から話すような事でもないか。――よし!話の礼に…なるかはわからんが、なら俺がここで話してやる!」

 「えっと…いいんでしょうか?」

 「自分から話さないだけで聞かれたからと怒るようなヤツでもないだろう。いざとなったら俺の責任だ。タダなんだから聞いてけ聞いてけ」


 するとバリトーはブルガーの身に起きた出来事を語り出す。

 彼が故郷に気まずさを覚えている理由の根幹。

 

 「――まずは、そもそもの話からになるが、俺ら龍人ってやつはな、種族全体として〔強者の誇り〕を持ってるんだ。自分たちは龍の血が混じってるのだから、他の種族よりも強い種なのだと」


 龍人はそもそもが人族と龍の交わった末に生まれた、種族ハーフが始祖。

 生まれたのは人の身に龍の特徴を露わにした半人半龍の種。

 そもそも龍というのは、この世界で最も強き存在。

 ゆえに彼らの血が混じる龍人は、人型種族の中ではトップクラスに強い肉体を持つ。


 「まぁそっちの賢者だかみたいに極まった人間なんかは、俺ら龍人を越えた力を持ってたりするだろうが、単純に種族として語るなら人族よりも、この世界のどの人型種族よりも強靭で強い肉体を持っていると自負している。何せ龍の血が混じっているのだからな」


 敬う強き龍の血を持つゆえの自信。

 個々の技能による強さはともかく、人型種族としては最強筆頭の龍人族には、龍の血を引くゆえの強者の誇りが種族全体に染みついていた。


 「それでまぁ。その誇りもあって俺ら龍人はいくつか暗黙の了解というか、種族としての理念みたいなものを持ってるんだが…その一つが『他種族を頼るな』ってやつなんだ」


 だがその誇りゆえに龍人達は自分たちよりも弱い種族(・・・・)を頼ってはならないという誇りゆえの理念があった。

 弱者に頼られることはあっても、弱者を頼るのは龍人の名折れ。

 誇りが長い年月を経て、余計な鎖を生み出し自らを縛り出した。


 「そんなわけで龍人は、自分たちではどうにもできない問題が起きた時は潔く滅ぶ(・・)のもいとわない。例え他種族に解決策が、救いの手段があるのが分かっていたとしても種族のプライドで、頼るよりも滅ぶを選んじまう。そういうお国柄ってやつなのさ。俺たち龍人は」


 例え龍人の存亡の危機が起きたとしても、立ち向かうのはあくまでも自分たちだけ。

 他種族には助けを求めない。

 仮にそれで龍人が滅ぼうとも本望であると。

 

 「だが…ある時、ブルガーの母親が病に倒れた。当然俺らは持てる手を全て使って救おうとしたんだが…しかしここにある薬や魔法では助けることが出来なかった」


 そんなプライドを持つ龍人族。

 だが彼らも無敵というわけではない。

 ある日、ブルガーの母親が病に倒れ死の淵に陥った。

 当然救おうと努力はしたが、しかしこの龍界に存在する手段では彼女を救うことは出来なかった。


 「俺らの力では救えない。これは龍人の誇りからすれば〔天命〕なんだ。手が尽きたその時こそ終わりの時。定められた天寿を全うし、眠りの時がきたのだと…当然のように龍人の誰もが諦めた(・・・)。だが…」


 だが里の中で唯一、たった一人だけ諦めなかった子供が居た。


 「ブルガーは母親の死を拒んだ。天命などではないと叫び、そして母親を救う手段を求めてこの領域を無断で去った。半年に一度の人族との交流船の帰り道に密航(・・)して、そのまま人族の国に行ってしまった」


 母親の死を覆すために、たった一人動き出した少年ブルガー。

 周りが全員天命と諦めた母の命を救うために、龍人の誇りを放り投げて他種族の力を頼ったのだった。


 「実はな…龍人にも力の差があるんだ。大元が龍と人のハーフな分、龍の側面が強く出る者もあれば人の側面が強く出る者もある。結果強き龍人の中にも明確な力の差が露わになる。俺とかはまぁ、鱗があったりして龍の側面が強く出てんだが、ブルガーは特に人の側面が強い龍人だったんだ。ゆえに同世代の中でも特に力が弱く、その翼も自力では跳べなかった。まぁ跳べないやつは他にも何人かいるんだがな」

 

 龍人にも個人差こそあるが、角と翼と尻尾の存在は全員が共通する要素。

 それに加えて鱗があったり牙があったりと、龍に寄った龍人ほど龍の特徴を発現する。

 そしてそれは龍人としての、基礎的な力のより強い証でもあった。

 しかし、ブルガーは人の側面が強く、最低限の肉体要素しか持たない。

 どころかその翼は自力では空を飛ぶ事が出来ない程に小さく弱い。

 バリトーがワイバーンと並行飛行出来る反面、ブルガーは龍に跨るしか空を飛ぶ方法がなかった。


 「だからこそ、アイツには龍人の誇りみたいなもんが持てなかったんだろうな。自分は強くなんかないからと。それで余計なプライドも持たず、素直に他種族に助けを求めて母を救おうという決断が出来た。ある意味で誰よりも自由な龍人だった」


 周囲の龍人よりも弱い自分があったからこそ、プライドの不自由に縛られず、臨機応変に動きだせたブルガー。

 そうして龍界を離れ一人旅をして、辿り着いたのが賢者シフルのもと。


 「で、ブルガーは頑張った末に母を救う手段をここに持ち帰り、見事に救って見せたのさ」

 「そう聞くと美談に思えるけど?」

 「そうだな。だが…現実はめんどくさい。いや、誇りやプライドってやつがめんどくさいって話だな」


 龍界に戻り、母を救ってハッピーエンド。

 とは行かずに待つ余計な物語。


 「そのプライド、龍人の誇り、強者の誇りを特に強く持ち大事にするやつらもあってな。そいつらがブルガーを責め立てたんだ。『龍人の誇りも知らぬ恥さらしの弱者』とかなんとかな」


 人から聞けば美談のそれも、長く当たり前の諦め(・・・・・・・)の理由となっていた誇りを持つ者達にはあり得ない行動で恥ずべき行動だと映った。

 弱き者を頼り、強き者の誇りを貶めた阿呆。

 強き龍人族の恥さらしだと。


 「まぁ…実際そこまで思っていなかった他の奴らも、やっぱり戸惑った奴が多かった。何せ俺らにとってはあそこで終わりを受け入れるのが当たり前の常識だったからな。薄情だと思うかもしれないが、龍人は大昔からそれを常識として生きて、今の世代もそう習って来たんだ。龍人にとってはブルガーの行動の方が常識はずれで異端だったんだよ」


 場所が変われば常識も変わる。

 他種族からは馬鹿らしいと思われたとしても、ずっとそれを芯にして来た龍人にとっては誇りを捨てて母を救ったブルガーの方がおかしいのだ。


 「でまぁ、しばらくはここも大変だったさ。一番の問題はその常識破りをしたブルガーが族長の子供(・・・・・)だった点だ。龍人の誇りを守るべきリーダーの身内が破ってりゃ当然と言えば当然だが」


 ブルガーが族長の息子であり、将来の龍人族を率いていたかもしれない人材だったのも混乱を助長させた。

 結果それからしばらくの間、種族内に揉め事が増えていった。

 

 「そして、大人達があーだーだ言い合っている内に月日が経って年月が経って、結局種族としてブルガーの行いを是とするべきか否とするべきかの答えが全く出ないまま…ブルガーは成人を迎えて、今度は合法的にここを出て行った」


 龍人は、いや龍も含めて龍界では成人までは領域を出ない風習があった。

 どうしても出なければならない場合は、保護者同伴の監視下での出立。

 実はこのルールも破っていたブルガーだが、誇りの一件が重すぎてこちらの咎めもあやふやになっていたらしい。

 だが…成人を迎えたブルガーに、その縛りはもはや存在しない。


 「『恩人に恩を返しに行く』ってアイツは言ってたが、それはまぁ本心なんだろうが、それはそれとして…やっぱ居づらかったんだろうさ。ここに」


 母を救う術を授けてくれた賢者シフルへの恩返しの為に、成人したばかりのブルガーはすぐさま故郷を去って行った。

 だがその内心には居心地の悪さもあったのだろう。

 自分の行いで周りがいつまでも諍う肩身の狭さ。

 前向きな理由と後ろ向きな理由、両方を抱えて故郷を出た。

 

 「とまぁ、そんなこんなでブルガーはそれ以来の帰郷になるわけだ。手紙はたまーに送って来たが、自分がってのは数年振り…いやまぁ正直予想よりも早く帰って来たとは思ってるんだがな」 


 そんな旅立ちの時から数年、初めての帰郷。

 ただ、ブルガーだけだったならこんなにも早く帰っては来なかっただろう。

 恩人に頼まれた仕事だから、渋々帰って来たといったところか。


 「そんな事情があるわけだから、ブルガーも、あいつの親父も色々気まずいところがあるだろうさ」

 

 そんな帰って来づらい事情を持ちながら、今まさに父親と一対一の対面。

 ワイバーンの上で行われる親子の会話の如何ほどか。


 「と…そろそろ着くな。もう少し話したかったが、まぁおおむね語ったから良いか。あとは個人的な感情の話だし。そんじゃ俺は仕事戻るわ。これからもブルガーをよろしくな」

 「あ、はい」

 「お話ありがと…何か見えて来たわね」

 「あれが俺ら龍人と龍主様方の住まいの境界線だ。つまりあの向こうに」

 「龍が居るのね」


 そうしてブルガーの昔話を、叔父に自ら聞き及んだヤマト達。

 するとそのお話の合間に、空の旅は終わりに近づいていた。

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