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216 出航と荒波



 「――ラッシードラゴン、出航だぁああッ!!」

 「「「おおおお!!!」」」


 全ての準備を終た告げられる号令。

 船乗りたちの雄叫びと共に、いよいよ船は動き出す。


 「わっと、わわわ!?」

 「無理せずどっか捕まっておいた方がいいぞ。海に落ちたくなければな」

 「わ、はい!」


 動き出した船はゆっくりと港を離れだす。

 するとその揺れに、船の上だからこその独特の揺れに戸惑いを見せるそよ風団の三人。

 そんな海初心者にブルガーはシンプルにアドバイスをする。 

 なおそのブルガー当人は、支えもなく二本の足でしっかりと船の揺れの中も佇んでいる。


 「こういうとこにも強いのね、龍人って」

 「本当に全く微動だにしない相手に言われてもな」

 「まぁ私は…ね?」

 「アリアは事情が違うからな」


 堂々たる佇まいのブルガーと同じく、揺れの中でも平然と立ち続けるアリア。

 だがアリアの場合は自力というよりも精霊という存在なのもあるのでまた別のお話。

 ちなみにアリアが精霊だという事実は絶対の秘密ではないが言いふらすようなものでもないので、船員に聞こえるこの場においては主語だけ伏せて答える。

 

 「ヤマトも、普通に支えはなくても大丈夫なんじゃない?」

 「いやまぁ安全第一で。今はともかく更にとなったら自信ないし」


 対してヤマトは二人と違いしっかりと片手で支えを掴んでいる。

 確かにこのぐらいの揺れなら仁王立ちでも対処は出来るだろう。

 だが二人と違いある程度余裕が削がれ、不意の揺れでバランスを崩し海に落ちても馬鹿らしいのでしっかりと安全第一でゆく。



 ――こうして一行の船は港を離れ海を進む。

 この世界の船は〔海流〕と〔風〕と〔魔力〕で進む。

 主体は当然海と風の力に、自然を利用することになるが必要な時には魔力頼みにもなる。

 燃料や電気の代わりに魔力をエネルギーにした装置が中型船以上には組み込まれており波や風に逆らい進むこともできる。

 とは言えそれはあくまでも補助と備え。

 盛大に活躍するのはあくまでも緊急時のこと。

 本当ならば全て魔力で動かせれば自由度は跳ね上がるのだが、魔力装置は当然ながら魔力を多く必要とする。

 そしてそれは当然予算に人員などの問題だらけ。

 ゆえに常に魔力を減らしながら広大な海を進むなど無理な話なので、基本的に船は自然の力が頼りになる。

 


 「――話は聞いてると思うが改めて、魔力が多いお前さんらはもしもの時にはこれ(・・)に魔力を注いで貰うぞ。王女様の許可は得てるからな」

 「分かりました」「はい!」


 そんなもしもの装置への魔力の供給役として、非常時のお役目を仰せつかったヤマトとタリサ。

 共に魔法使いとして、人並み以上の魔力量を誇る人材は正に船にとっては非常時の防衛戦力であると同時に電池(・・)とも言える。

 基本的に船員だけでも対応できる構成にはなっているはずだが、何事にも例外や非常時は存在し、もし通常の供給で足りないことがあったならば客人にも手を借りることになるのは乗船前から織り込み済み。

 船の上では一蓮托生。

 船員、客だと括りをつけて、何もせず沈んでは元も子もない。

 本当に最悪の場合によっては、王女様や近衛騎士すらも引き出される。


 「ちなみにお前らは重要な戦力(・・)でもあるからな。どう働くかは都度指示を出すから従ってくれ」


 なお当然ながら海の上では飛び技(・・・)の使い手も重要な戦力。

 海の上での襲撃は海の生物か空の生物ばかり。

 戦いになると近接戦闘能力よりも弓や魔法が重要になるのは言わずもがな。

 ゆえに"魔法使い"の存在は船にとっては二重の意味で大事な存在。

 船ではより重宝…もといこき使われるのが魔法使いの海での定めである。


 


 「――ちょっと荒れてるな。おっと」


 そうして船は進み、港町の姿は遠く小さくなる。

 すると徐々に波は高くなり、船はより揺れ動くようになる。

 心なしか空模様も暗い雲が目立ちだす。


 「三人は?」

 「お部屋でお休み。兄妹がダウンしてるからリーダーの子が看病してるわ」


 そんな波にやられたそよ風団の三人の少年少女。

 そのうちのコハクとヒスイの兄妹が船酔いでダウンした。

 今はタリサが二人を世話している。

 初めての海、初めての船。

 慣れない環境で揺らされて酔ってしまうのも仕方ないこと。

 一応船酔いは治癒系の魔法で治せる。

 しかし治しても揺れが続く限りまた再発するので、余程重くない限りは自力で慣れて貰うしかない。

 

 「さて…メルトさん、交代です」

 「あ、はい分かりました――コンコン、メルトからヤマトに交代します」 

 「了解しました」


 そんな三人を尻目に、ヤマトとアリアはとある部屋の前にやって来た。

 そこにはメルトが立っており、ヤマトの言葉で扉をノックし情報を伝え、中から返事が返ってくる。

 王女様の護衛のお仕事。

 船の中でもそれは継続だが、護衛対象の王女様は基本的に部屋に籠ることになるのでその規模は陸に居た時よりも少なく、雇われ護衛である冒険者サイドはむしろシフト外の自由時間の方が多くなっている。 


 「それでは後をお願いします。あ…その、三人は今どうしてますか?」

 「そよ風の三人なら今はお部屋よ。二人船酔いでダウンしてるから休んでいると思うわ」

 「ありがとうございます。では失礼します」


 そうしてメルトは休息時間に入り、代わりにヤマトと、セットのアリアが部屋の扉の前で守護に就いた。

  

 「…っと、この揺れ…本格的に荒れて来たかな?」


 だが扉の前に立っていると、船の揺れはより大きくなってくる。

 波が荒れ船が大きく揺さぶられる。

 勿論このぐらいは海ではよくあること。

 この程度で転覆などありえない。

 しかし船に乗る者たちへの負担になるのは確かなこと。


 「あら、雨まで降って来たわね」


 船内で見えないのだが精霊であるアリアは降雨に気が付いた。

 港から見た感じでは晴れていた海も、あっという間に悪天候。


 「…やっぱテルテル坊主でも吊るしておけばよかったかな、部屋に」

 「快晴のおまじないだったっけ?なんだか変な人形の」


 テルテル坊主が変かと聞かれれば…まぁあまり胸を張って良いデザインと言えるものでもないのも確か。

 可愛いと捉えるか不気味と捉えるかは人次第。


 「それ本当に効くの?」 

 「特に魔法的な効果はないけどね」

 

 おまじないとは言えど魔法のような何かが付与されているわけではないので基本的に気休め。

 魔法世界とは言え手製の道具一つで天気を左右できるはずもなく。


 「さてさて、なんとか安全に着くといいのだけどね」

 

 


 

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