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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
龍界決闘/―――
223/276

215 船と船長



 (――昔、学校で一度だけ食べたクジラっぽいな。この味と触感は…もぐもぐ)


 今この港町で激安(・・)で販売されているシードラゴンの料理。

 討伐され、持ち帰られたその死骸から素材を回収し残った肉が食用として港町全体に配分された。

 そして各々に大量のシードラゴンの肉を調理し、他の魚たちよりもかなり格安で販売している。

 その中の一つを口にしているヤマトだったが…その味は何処かクジラ肉に近かった。

 

 「坊主!大量買いは嬉しいが、そんなに買って食い切れるのか?」

 「あ、大食いが居るので大丈夫です」


 なおそんな中で普通の(・・・)お魚の料理や魚そのものをそこそこ大量に買い込んでいくヤマト。

 〔魔法袋〕は収納としては優秀だが、《次元収納》のような時間停止効果が存在しないためナマモノや料理の保管には向かない。

 なのでお店のおじさんは、買った食べ物を袋に詰め込んでいくヤマトの姿に疑問に思うのも当然だった。

 実際は袋の入り口付近に収納の出入り口を展開して直接《次元収納》にしまっているのだが、人目には魔法袋にしか見えないのだから消費期限を気にするのは当然の流れだ。


 (漁が復活して、出発前に買い物出来てよかった。これでしばらく魚料理には困らないな…ちょっと買いすぎた気もするが)


 先日まで漁に出れない影響で、せっかく魚が豊富な港町でまともに備蓄も出来なかった。

 だが昨日から船を出せるようになり早速市場が魚で潤い、なんとか出発前に買いこむことが出来た。


 「そうか、なんならこっちのシードラゴンも買ってくか?更に安くするぜ!」

 「あ、もう充分です」


 そんな爆買いのお客さんヤマトにチャンスとばかりにシードラゴンを勧める店主。

 ただでさえ他の魚より安いのに、更にまとめ買い割引を提示する。

 量が余っているというのもあるが、そもそもシードラゴンの肉は物珍しくともあまり売れ筋ではなく、安くしているのに捌けが悪いようだ。

 ちなみにヤマトも一食で充分だった。


 「――ヤマト、終わったの?」

 「うん。それじゃあ船に行こうか」


 そうして準備を終えたヤマトは、アリアと共に海に向かっていく。

 やって来たのは漁港。

 出航禁止の期間にはほぼ全ての漁船が停泊する壮観な景色があったそこには、今は半分の船しかない。

 今居るのは夜の漁から帰って来た船。

 逆にいないのは朝一番に漁へ向かった船である。


 「――えっと…集合場所はこのへんで…」

 「おうヤマト!こっちだこっち!」


 そんな港で、漁船の停泊所を通り過ぎてその先に向かったヤマト達。

 すると先んじて集合場所に辿り着いていたブルガーの招く声が聞こえた。

 

 「…まだ王女様は来てないのか」

 「集合時間前だからなまだ」


 そこにはまだ肝心の王女様一行はおらず。

 護衛の当番として、今の時間に付き添っているそよ風団とメルトの姿もまだなく。

 

 「貴方は買い物は済ませたの?」

 「まぁ俺はちょっとしたお土産程度しか用がなかったので」


 与えられた自由時間で準備を済ませて集合場所に集まる非番チーム。


 「と、噂をすればかな?」


 するとその直後には姿が見え始める本隊一行。

 王女と近衛騎士、そして世話役や冒険者護衛も、今この場にいないメンツが勢揃いで歩んでくる。


 「お待たせしました。皆様もお揃いのようですね。では早速私達の船のもとへ(・・・・・)向かいましょう」


 そして合流してすぐに、集合場所から本命の目的地へと移動する。

 港を歩んで向かう先。

 そこにあるのは一隻の中型船。


 「お、来ましたかい。時間通りで真面目なこって。まぁ良いことなんだがな」

 「お世話になります。ドレイク船長」


 すると船の上から見下ろしながらこちらに声をかけて来たのはガタイの大きな初老の男性。

 白髪交じりの髪と髭を持つその男は船長帽(・・・)を被っていた。

 【ドレイク(人族:船長/"船馬鹿")】。

 これからお世話になる、一行を龍の領域へと運ぶ船と、その船長のお出まし。


 「早速ですが、私共の乗船を許可していただけますでしょうか?ドレイク船長」

 「許可する。ようこそ我〔ラッシードラゴン号〕へ」


 そして王女リトラーシャは船長であるドレイクに乗船許可を願い、船長が受諾して船へと招き入れる。

 本来なら身分が上の王女が最上位者になる旅路だが、こと船の上においては指揮権の混濁を防ぐために基本的に船長の方が上の立場になる。

 ゆえに王女であろうとも、船長にお伺いを立てねばならない。


 「ラッシードラゴン?それがこの船の名前なのかしら?」

 「おう、そうだ綺麗な姉ちゃん。ラッシーってのは俺の親父の名前で、この船の初代船長の名だ。俺は親父から継いだ二代目でな。で、その親父がこの船を手にする時に、当時のシードラゴンの討伐を指揮した功績の報酬として手にした素材を使って作った船だからと、自分の名前とドラゴンの名前を使って命名したもんなんだよ。センスの良し悪しは気にしないでくれると助かる」

 「あら?私は結構好きよ。その名前」

 「そうかい、親父が喜ぶだろうさ」


 そうして船に乗船した一同。

 そこでアリアはその名の疑問を尋ねてみれば、船長ドレイクは声高く答えてくれた。

 彼の父親でこの船の建造時の所有者の名前であるラッシーと、船の素材として使われたシードラゴンを掛けてつけられたラッシードラゴンの名。

 センスとしてはちょっとアレかもしれないが、討伐指揮の功績を示す名誉ある名であるとも言える。


 「そんな立派な船なのに、あくまでも中型船なのね」

 「大型船は民間での所有が認められてないからな。元々は海兵団に居た親父が引退して自分の船としてこの船を手にしたわけだが、あくまでも個人の船だから中型までしか作れなかったんだよ。そもそも大型船の核になる素材は全部国の管理下になるしな」


 現状存在する大型船は全て国と海兵団の管理下。

 民間で手にできる船は最高で中型までという縛りがある。

 戦力の制限(・・・・・)の意味もあり、そしてそもそも大型建造に必要な素材の希少さの問題が一番なのだろう。


 「てなわけでこいつは中型船だが…親父がこだわりまくって"大将"格の退職金を全部つぎ込んだ船だからな。民間の中型船の中では最高クラスの船だ。まぁ乗ってる男どもはむさっ苦しいのばかりだが、王女様御一行を運ぶに足る船の格はあると自負してるぜ」

 「ふふ、えぇ、立派な船です」


 確かに、港に停泊する他の中型船と比べれば一目で格の違いを感じる船だ。

 勿論王族専用の船というものも存在しているのだが、片や重武装の戦艦、片や船団護衛前提の見栄え重視の絢爛船。

 龍界へ向かうのに重武装は物騒で、単独船前提なのでお供ありきの絢爛船も不適格。

 ならば海兵団の船を…と言えば先の戦いで今はほとんどがメンテナンス行きで、残る無事な船も穴を埋めるべくにフル稼働。

 結果民間頼みになる旅路。

 

 (船…海か。小さい頃に一回乗ったっきりだな、確か)


 それも前世の経験の思い出。

 とは言え向こうの世界とこちらの世界の航海の危険度は雲泥の差。

 こちらの世界にはシードラゴンのような存在が海の中を泳いでいるのだから。


 (後は…天候か。てるてる坊主でも作っておくかな?)

 


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