214 船団の帰還
「――よくそんな棒で食べれるわね」
「まぁ慣れだから…あむ」
港町カイロスへ辿り着いて数日。
船を出航させることが出来ない状況が続く中で、今日もまた宿泊する宿で朝食を取るヤマト達。
今日の朝食に選んだ魚の干物を、箸を使って慣れた手つきで食していく。
(同じ国の中でもこんなに食文化違うんだなぁ…あむあむ)
この町で過ごすこと数日。
宿で出てくる食事を始め、和食中心の料理を堪能して来た。
勿論この世界で和食洋食の区分けは存在しないが、今目の前に並んでいる朝食は魚の干物にお米に味噌汁のようなスープに漬物に和え物と卵焼き。
どう見ても和の朝食と言って良い献立。
王都での食生活でお米を食する機会はカレーかオムライスの時ぐらいだったのだが、ここではごはん中心のメニューも普通に多く存在していた。
当然それ以外にも、洋のメニューも多く存在するが、懐かしさゆえにほぼ和食メニューばかりを注文し、当たり前に用意されていた箸を使って食す。
なお対面する席に付く精霊アリアは、城でも食べていた洋の朝食を注文している。
アリアはあまり魚は好みではない様子。
「それにしても…日に日に魚料理のメニューが消えて来てるわね」
「まぁ魚が入って来ないからね」
ただその魚料理も、昨日まではもっと選択肢に幅があった。
しかし今日に至っては刺身のような生魚のメニューは完全に欠品となり頼めない状況になっている。
というのも、例のシードラゴンに伴う船の出航禁止の影響で漁が出来ずに、新たな魚の入荷数が激減している状態なのである。
いつでもどこでも獲れたて新鮮な生の魚を食べられることが売りの一つになっていたこの町だが…新たな魚が入らなければそれも維持できず、僅かに入る魚は必然高騰し、ゆえに今は干物など加工品類が町中の商売の中心となっていた。
「いっそヤマトも釣りしてみれば?王女様みたいに」
なおそんな生魚が枯渇する中でも、漁に行けずとも釣りで引き上げることは出来る。
実際手が開いてしまった漁師の殆どは、釣り竿を持って釣りをして、少しでも魚をと頑張っている。
そして…そのおじさんたちの中には、釣りにハマった王女リトラーシャも混じっている。
「アレ王女様だから特別に許可出てるけど、漁が出来ない今の期間は関係者以外釣り禁止だからね?普段も釣りの権利買わないと、勝手に釣りすると違法になるみたいだし」
普段であればお金を払って許可を得れば、指定スポットでの釣りは許可される。
だが現在漁が出来ない中で釣りは漁師たちの生命線。
ゆえに今の期間は一般への釣りの許可は出ない。
しかし…まぁ相手は王族ということもあり特別な許可の下、足止めされるこの数日毎日釣りを楽しむ王女様。
勿論周りにはその身分を隠しているが…釣りに来ている漁師のおじさん達のちょっとしたアイドルのようになっていた。
そして釣り上げた魚は、王女様本人の食事に使われる。
なのでこの生魚枯渇状況でも、王女の食卓には問題なく新鮮な魚が並ぶようだ。
「――ヤマト様、アリア様。おはようございます」
「あらおはよう」
「あ、おはようございます」
するとそんな二人の食事の場にやって来たの王女の従者の一人である【ライラ】。
「お食事中に申し訳ありませんが、お二人にご連絡です。本日、討伐船団が凱旋するそうです」
そんな彼女が伝えてくれたのは、例のシードラゴンの討伐に向かった海兵団の船が本日中に港に帰って来るという情報。
凱旋…それはつまり無事に討伐が完了したということ。
「その為、恐らく明日にも出航禁止が解かれます。我々もその翌日である明後日に船を出すことになると思いますので準備をしておいて欲しいということです」
そしてそれは海の危険度が下がり船を出せるようになるということ。
本日中に帰還して、明日には禁止令の解除。
更にその翌日には王女一行も、ようやく船に乗って出航する。
そんな予定を伝えられる。
「――あれがシードラゴン…大きいですね」
その後、その日の午後の時間。
王女様を筆頭に、一行のほぼ全員が集ったとある建物の屋上。
勿論護衛としてヤマトらも付き添うその場からは賑やかな港が一望できた。
更に…海に視線を向ければ、見えて来た複数の船の船団。
港にどんどんと近づいて来て…拡大されてゆくその姿。
するとその船団が率いてくる魔物の死骸も見えて来た。
「うわぁ、あんなのが海には泳いでるのね。海を自由に歩けない生き物には脅威ね」
複数の船で曳いて帰ってくるその荷物。
その巨体こそが、今回討伐されたシードラゴンの亡骸。
海ではスライムに食わせることが出来ず、かといって放置すれば病の元や、他の魔物に食われて糧にされかねないので大変でも持ち帰る。
〔魔法袋〕に収まるなら楽だが、あの巨体は相当に分割しないと収まらない。
しかし海での解体作業は困難を極める為、結果そのまま曳くしかなく、その分帰還にも時間が掛かっていた。
「ちなみに、持ち帰ったあれって食べるの?」
「生は厳しいみたいだけど、きちんと処理すれば食えるには食えるけど…食用としてよりも素材としての価値の方が高いらしい」
この数日で知ったシードラゴンの使い道。
肉を食べる事も出来るらしいが、それよりも大事なのは素材として用途。
この世界の船は大なり小なり魔物素材を活用して造られている。
特に大型船に関しては素材の都合上増やそうと思って増やせるものではない。
だが今回持ち帰ったシードラゴンの素材があれば、新たな大型船を造る事も可能になる。
ゆえに余程のことが無い限りはきちんと持ち帰り次への糧にする。
それが失ったものへの手向けにもなる。
「…中型船が二隻足りないな」
そして全容が見えた船団の姿を見てブルガーが呟く。
そこには戦いの爪痕が見え、船そのものが無事ではあっても破損や応急処置の跡が見える。
更には…そもそも出航した船の数が合わない。
二隻減らして帰っているということは、その分犠牲者も出ている証明。
だがその追悼は今は後。
まずは生きて帰った帰還者達の労いが先になる。
「おぉ…すっげえ歓声」
港に戻って来た船団。
船から降りてくる海兵たち。
すると彼らを出迎えに港に集まった大勢の人々から拍手と歓声が鳴り響く。
同時に小舟を出して、海龍の死骸に船を寄せる人々も。
戦いから帰還した英雄たちの出迎えと共に、シードラゴンの引き揚げが始まるのだった。




