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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
王都混乱/魔女と聖女
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204 龍人の里帰り



 「――ようブルガー。里帰り(・・・)の準備は万端みたいだな」

 「ラウル…ラウル様。おかげ様でしっかりと」


 いち早く集合場所にやって来て待っていた男性。

 勇者パーティーの召喚従魔士にして龍人族の【ブルガー】。

 今回の旅路の水先案内人となる人物。

 そんな彼に声を掛けるのは、同じパーティーの仲間であり、同時にこの国の王子の一人でもある【ラウル・ユスティファーナ】。


 「ブルガー。仲間相手に様付けは他人行儀じゃないか?」

 「人前ですので」


 同じパーティーの中でも歳の近い二人。

 勿論身内だけの場ではもっと砕けたやり取りをするのだが、今は人目のある場所での邂逅。

 いくら執務壊滅の脳筋王子が相手とはいえ、王族相手に呼び捨ては出来ない。


 「まぁいい。真面目なブルガーに無理は言えまい。それで、久々の里帰りな訳だがどんな気持ちだ?」

 「何ですかその質問?」

 「いやまぁただの興味本位だ。お前、パーティー入りしてから一度も故郷に帰ってないだろ?だからもしかしたら帰りづらい気持ちでもあるのかとか思ったりしたんだよ」

 「ん…まぁ、掟という話でもないですけど、ウチの種族の暗黙の了解を破ってるのでちょっと帰りづらい気持ちがあるのは確かですが」


 そんなラウルの私的な質問に、ちょっと表情を曇らせたブルガー。

 

 ――彼がこれから案内役となるのは、本物の龍の住まう領域である〔龍界〕。

 そして…実はその龍の眷属的種族(・・・・・)であるのが〔人と龍のハーフの末裔〕である龍人族という人々。

 彼らの故郷はその龍界の一部。

 つまり龍人族であるブルガーにとって、今回の龍界への道行きは同時に故郷への里帰りの側面を持っていた。

 ただし…ブルガーにとってはちょっとばかし気まずさもある里帰りのようだが。

 

 「それってあれか?天命(・・)云々の話しか?」

 「そうですね…」

 「でもそれは別に掟でも法律でもないんだろ?」

 「そうですね。でも…今の『王族相手なら知り合いだろうと人前では丁寧に話す』というような暗黙の了解みたいなものが、龍人の誰もが持つ龍へのリスペクトゆえに少し強いんですよね。故郷は」


 龍の眷属となる種族としてのプライド。

 暗黙の了解として龍人達に染みついている中で、その一つを破ってしまっているブルガー。

 致し方のない選択だったし、また同じことがあれば同じ選択をする。

 その方針は変わらないのだが…それはそれとして、やはり気にならないはずもなく。

 しかもそんな一件以降、手紙のみで一度も故郷には帰っていない為、なおの事龍人族(みうち)の人々の反応がちょっと怖かったりもする。


 「ところで…ラウル様はこんなとこに居ていいんですか?」

 「仲間の旅立ちの見送りの為だから問題ない」

 「と言う建前で抜け出してきましたか?お仕事を」

 「ぐ…いや、そもそもあんなのは俺の領分じゃ…お役御免になったはずなのに何故か未だにいくつか俺に…」


 なおこうして見送りに来たと宣言するラウル王子だが、その実お仕事を抜け出して来ての事。

 活動できる唯一の王子として慣れない仕事に激務されていた一時期からは解放されたラウル。

 だが…何故かその後も時々、お役御免になったはずの彼のもとに押し付けられるいくつかの仕事が不定期で舞い込むようになってしまった。

 今日もまたそんな面倒なお飾りを押し付けられていたらしいのだが…『仲間や家族の見送り』という大義名分をかざして抜け出してきたらしい。


 「それで…他のやつらは?」

 「まだ集合の一時間前ですから。むしろ抜け出すにしても早く来過ぎですよ」


 なおその旅立ちも、まだ集合時間の一時間前。

 出発そのものは更にその後なので、見送りとして抜け出してくるにはいささか早過ぎる時間。

 それだけ早く抜け出し、自由な時間を確保しようという目論見ではあるのだろうが。


 「いや、そういうブルガーこそ、なんで一時間も前に居るんだ?お前今ここに居座っても特にやることないだろ」

 「……まぁ」


 なおそんな一時間前の時間に、道案内役のブルガーがここに居座っていることもまた不思議。

 彼らの視線の先には旅路に使う馬車の点検を行っている人々やその指揮を執る近衛騎士の姿がありはするが、その他の旅路の主要人物はまだ誰も来ておらず。

 そもそも来ていたとしても一団の準備のお仕事としては特にやることもないはずなので、今はまだ城の中で仲間との交友や個人の最終準備に勤しんでいるはずだ。

 なのにわざわざこの何も用のない集合場所に、一時間前から陣取っていたブルガー。


 「お前、ちょっとメルトに対して過保護過ぎないか?今の状況的に仕方ないかもしれないが」

 「なぜそこでメルトの名前が?別に何も思うところはありませんけど?」

 「普段から視線や態度で、メルトを意識してるのモロバレしてんだよ。それでも誤魔化すとか思春期の子供かお前は」


 そんな彼が何故こんな時間からこの場所に居るのかと言えば、ラウルの推測はメルトを気にしてのこと。

 彼女がやって来た時に何か困りごとがあればすぐに手を貸せるようにとの待ち伏せ待機。


 「…いえ別に。ただ、しばらく離れる王城の外観をこの目に焼き付けておきたかっただけなので」 

 「その意味わからない誤魔化し方も子供のソレだけどな。まぁ言いたくないなら別にいいが」


 若干呆れ気味のラウル。

 とはいえ必要以上に人の距離感を茶化すつもりもないので深く突っ込みはしない。

 ただ…何となく煮え切らないラウルには普段からヤキモキしているのも事実。


 「でもせっかくの旅路だ。何かしらの機会は多くあるはずだろうし、そこでガンバレ」

 「何を頑張る必要があるんですか?」

 「うんとにかく頑張れ」


 そしてめんどくさくなり、適当に話を終わらせる。

 ラウルとしても、ブルガーは信用できる仲間であり友でもあるのだが、この辺りの異性関係のめんどくささはちょっとがんばれと思うところ。


 「あら、やっぱり(・・・・)早いわねブルガー。それと…ちゃっかり抜け出してきたわね、ラウル」

 

 するとそんな二人のもとに合流するのは賢者シフル。

 ブルガーの早い待機は予想通りと言った反応で、ラウルの姿にはちょっと呆れ気味。


 「ちゃんと伝えてから来てるから問題ない」

 「どうせ伝えた時間弄ってるでしょ?彼らがこんなに早く解放する訳ないし」

 「ぎく」


 なおここに来るために見送りを理由にしたラウル王子だが、通達済みの出発時間は別として、人員の集合時間は誤魔化して文官達に告げて早めに抜け出したことも見抜かれていた。


 「まぁいいわ。せっかくだからちょっとこっち手伝いなさい」

 「書類仕事は無しで!」

 「肉体仕事なら得意分野でしょ?」

 「それなら良し!」

 

 合法的にこの場に居る理由が出来たラウルは元気に引き受ける。


 「ちなみに…ブルガー。そよ風団が…メルトたちが出発前に確認したいことがあるみたいで探してたけどカードのメッセージは読んでな――」

 「ちょっと行ってきます!!」

 「わー、はっや」


 そしてブルガーはシフルの言葉に、身分証(カード)を確認しながら駆け足で城の中に戻っていった。

 

 「アイツにとっては、里帰りよりも道中の方が一大事かもしれないな」

 「かもね」

 

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