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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
王都混乱/魔女と聖女
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200 巫女と聖女の語らい



 「――ふぁ。やっぱりお姉様のベットは気持ちいいです…良く寝れそうです」

 「それは良いことだけど、行儀悪いから飛び込むのだけはやめてね」

 「はーい」


 寝間着姿でベットに飛び込む妹分を窘める"巫女"のフィル。

 ここは王城内のフィルの自室であり、人のベットに飛び込んだのはお泊り予定の"守護聖女"サラ。

 諸事情で再び王城でお世話になることになった少女。


 「そもそも、教会の聖女用のお部屋にがこれ以上のベットはあるでしょう?」

 「うーまぁあります。かなりフカフカで広すぎるベットが」


 そんなフィルの部屋のベットにはしゃぐサラであったが、彼女の今の守護聖女と言う役目を鑑みればこのベットぐらいのものは生活の標準装備になっていて然るべき。

 実際聖女用にあてがわれた新たな部屋には、むしろより大きなベットが備え付けられているという。


 「でも、あれは流石に広すぎて、逆に落ち着かずゆっくりできません」


 だがそんな広いベットに不満を持つサラ。 

 ただの一般的な聖職者から、教会内でも上位の地位に大出世を果たした彼女は、生活面の質もかなり跳ね上がったはず。

 しかしその跳ね上がった質がむしろ、彼女にとっては気楽さを失わせる要因にもなっている。


 「ベットがフカフカなのはとても良いことです。だけど広さが…もっとこう…このベットの三分の二ぐらいの広さで十分です」

 「それはそれで少し狭くないですか?」

 「そもそも私にとってベットは一人で使うものじゃない(・・・・)ので、狭いのが当たり前で育ったのでその方が落ち着くんですよ。孤児院(・・・)の時とか、このぐらいの広さのベットに三人で寝転がったりしてましたし」


 サラのそれは染みついた習慣ゆえの不慣れ。

 今でこそ守護聖女という大役を任された存在だが、その出自は平民であり、なおかつ孤児院(・・・)の出身。

 身寄りを無くした子供たちの最後の砦とも呼べる生活の場。 

 物心ついた時には既にその孤児院で他の孤児の子供らと共に共同生活を送っていたサラ。

 そしてその孤児院ではベットの数も据え置きで、人が増えても寝床は増えたりすることもなく、少なくともサラの過ごした院ではベット一つに二人や三人で眠るのが基本だった。


 「時々寄付とかで臨時収入もありましたけどそういうのってもっと別の必要な部分に最優先で回されるので。食べ物とかは勿論、他にもよく割る食器や、直ぐダメにする子供服とか。ベットの優先順位はだいぶ後ろの方だったので本当に駄目なぐらい壊れた時か、余程人が増えた時ぐらいしか買ったりしなかったんですよね」


 ベットの数は基本固定。

 ゆえに人が増えればその分並んで眠る為にベットが窮屈になる。

 つまり常に誰かと添い寝していた形になるサラの生活。

 そこに慣れたのならば確かに、広すぎるベットに違和感を覚えるだろう。


 「教会に入ってからはちゃんと一人一つのベットだったんですが、最初はそのくらいでも何となく落ち着かなくて、最近やっと一人で寝るのも慣れてきたなと思ったら、今度はやたらと広いベットに寝かされて…いくらふかふかでも落ち着かなくてゆっくり眠れません!」

 「それ周りの人達に相談しました?」

 「しましたけど、『聖女様を粗末なベットに寝かせられません』とかなんとか…別に質を下げろって話じゃなくて、広さをどうにかして欲しいって言ってるだけのなのに…」


 この世界における高級・高品質のベットの認識は質と広さと豪華な装飾を兼ね揃えたもの。

 大きなベットそのものがある種のステータス。

 聖女を寝かせるベットへのこだわりが、肝心の配慮を疎かにしている様子。

 

 「お姉様はどうでした?巫女として、初めて迎えられた時とかって、こういう今までと全然違う変化ばかりで大変じゃありませんでしたか?」

 「私?まぁ…いきなり環境が変わって、周りに増えた大人にも子供心に怖くはありましたけど…その後はむしろ慌ただし過ぎて、やること覚えることも多すぎて、その辺りを気にする余裕はすぐになくなった気がしますね」


 "巫女"であるフィルの、巫女としての始まり。

 それは十歳の時の〔洗礼の儀式〕。

 この国において十歳を迎えた子供たちが受ける祝福。

 それ自体はちょっとしたイベント程度の事で、そこで劇的な何かが起こる事もない。

 ただ…その儀式で唯一、人生が変わることになるのが"巫女"という存在の資質を持つ者。


 「洗礼で『貴方は"巫女"の資質を持つ』と神父様に告げられても全然ピンと来ませんでしたが、その直後から周りに立派な恰好をした大人たちが大勢集まるようになって。ただ事じゃないんだなと自覚したのは覚えてますね」


 当然自覚などまだないその時に、周りに集まりだした見知らぬ大人達。

 教会支部の責任者、護衛役の騎士、町や国から派遣された役人たち。

 毎日のようにそんな大人達に囲まれ、よくわからい話しばかりをされ恐怖を覚えた記憶。


 『全く、大の大人が寄ってたかって子供を囲んで。怖がらせてどうするのよ?』


 そんな当時のフィルの前に現れたのが、当時から既に賢者の地位に身を置いていたシフルその人。

 巫女の資質を持つ少女の発見に、どうせこうなるだろと大急ぎで駆け付けた。

 その時こそが巫女と賢者の出会い。


 「選ばれた時ですかー。私も全然ピンと来ませんでしたね。『私が聖女に?神父様は何を言ってるの?』って感じでしたし」


 巫女として見出されたフィル同様に、守護聖女として見出されたサラもそれは唐突な打診だった。

 いつの間にか候補者にリストアップされ、いつの間にか決まって指名される。

 その過程にサラの意志は確かめられぬまま、いきなりやるやらないの最終決断を迫られた。

 

 「役目は物凄く大変そうでしたけど、でも生活環境やお給金もグっと良くなりますから実際は即答しちゃいましたけど。色恋沙汰にも正直興味ありませんでしたし」


 大きな決断をしたサラだが、そこには当然多くのメリットもあり、しかしデメリットも存在する。

 普通の神官であったなら問題なかった婚姻(・・)も、守護聖女である間は禁則。

 任期不明で辞めたくなっても辞められるか怪しいお役目の中で、例え今後好きな人が出来てもお役目的に結ばれてはならない。

 だがサラ自身に、少なくとも現時点ではそこへの興味はもともとなかった様子。

 ゆえに現状ではデメリットに数えず、メリットを受け入れての決断。

 ただ誤算だったのは、そのメリットが少々過大過ぎた点だろうか。  


 「そういえば…巫女って恋愛は自由でしたよね?お姉様は、誰か気になる人が居たりするんですか?」

 「え、あー…」


 すると話はいきなり女子会らしい話題に移る。

 結婚禁止の守護聖女には出来ない話題だが、教会の外の巫女には出来る恋愛のお話。


 「お姉様の身近な男性っていうと勇者パーティーの中?勇者様は婚約者が…でも想うのは自由?聖騎士は…既婚者だけど…泥沼の三角関係あり?確か勇者パーティーには王子様が…そうなると玉の輿も?あと確かもう一人…誰か忘れました」


 フィルの所属する勇者パーティーの中で勝手に想像していくサラ。

 若干一名忘れられているようだが。


 「そういう人はいませんよ、パーティーの中にも外にも。全く…」


 想像というか妄想を膨らませ、勝手にカップリングを探っていくサラの思考を中断させるフィル。

 今の自分に想うような相手は居ないとハッキリ断言する。

 するとワクワクで目を輝かせていたサラの気持ちが明らかに沈む。


 「あれだけイケメン揃いのパーティーで…流石真面目なお姉様と言えばその通りなんですが。ただ、もしかして初恋もまだだったりします?」

 「そこは一応…流石に」

 「ほほう」


 フィルのそんな正直な言葉に、再びサラは目を輝かせる。

 憧れの人の初恋噺。


 「どんな人ですか?!年上?年下?同い年?故郷のお人?こっちに来てから?」

 「言いませんよ、もう!!」


 こうして二人の女子のパジャマトークは、いつもの就寝時間を過ぎても続いていくのであった。


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