表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
王都混乱/魔女と聖女
205/276

198 曇り空




 「――門の前に集まった集団は新しい(・・・)〔魔女の噂〕を信じた人達ね」


 王都の城に帰って来たヤマト達。

 その手前、王城前で起きていた騒動。

 その内容を語る現代の賢者シフルはその騒動の発端を、今王都に広がっている魔女の噂話だとした。


 「巷に流れる〔魔女の噂〕。その中にとうとう『魔女の正体は王女様』って具体的なものまで出て来たらしいのよね。彼らは国にその真偽を問いに来たのよ」


 世間に流れる魔女の噂。

 ただでさえ王都襲撃を経て、この先にも不安を感じながら過ごす人々のその不安を更に煽るような言葉たち。

 真偽が混じるその中に、とうとう魔女の正体まで特定したものが現れた。

 現状この国で王女と呼ばれる存在は一人のみ。

 勇者タケルの婚約者【リトラーシャ】。

 つまりそれは正に知る人にとっては答え(・・)である噂話。

 ヤマト達が既に知り、人前では口に出さずにいたはずの事実が不確定情報ながら世間に流れてしまっていたのだった。


 「で、教えたの?」

 「いいえ。流石に反応を予想すると準備も無しに明かせる情報じゃないわ。ただ…幸いと言っていいのかは微妙なところだけど、あっちが仲間内で喧嘩を始めて、答え合わせどころじゃ無くなって今日のところは有耶無耶になったけれどね」


 同じ目的の集団の中にも温度差があるのは必然とも言うべき話。 

 『何がなんでも答えを求めたい』と考える人物と、『あくまでも穏便に』と考える人物の間で意見がズレ味方同士で揉め始めた。

 その結果怪我人が出て、この日の話は有耶無耶になり解散。

 怪我人が出た事には思うところは当然あるが、準備の時間が出来た事は王城側としては助かるのも事実であった。


 「今日は有耶無耶になったけど、まぁ明日もまた来るでしょうね。しかも今度は、今日の騒動を知って『自分も知りたい』と賛同する人も居るでしょうし。放っとくと更に――」

 「――賢者様」

 「はいはいお呼びね。という訳で、これから偉い人たちと話し合いに行ってくるわ。貴方達はひとまずいつも通りに過ごしてくれて問題ないわ。もしかしたら何か頼るかもだけど…それじゃあ行ってきます」


 そうして問題への対応を偉い人達と共に話し合う為に、賢者はそそくさとこの場を去る。

 既に夕刻なのもありヤマト達に外出の予定はないが、なるべくわかりやすい場所に居続けたほうがいいだろう。





 「――皆さん、お帰りなさい」

 「ん?あぁフィル。ただいま…と、聖女様?」

 「皆様、こんばんは」

 「こんばんはー」


 そうして賢者の去った後の談話室に、姿を現したのは三人の女性。 

 一人はいつもの"巫女"のフィル。

 そしてその後から入って来たのは…何故か王城に居る"守護聖女"の【サラ】とその側付きさん。


 「でもなんで聖女様がここにー?」

 「お姉様のもとにお泊りに来ました!」


 嬉しそうに堂々と、ピピの質問に答えるサラ。

 一度は教会に戻ったはずの彼女が、何故かまた王城に居る。

 しかも〔お泊り〕と宣言して。


 「…サラ、ちょっと皆さんとお話があるので、先にお部屋に戻っててくれますか?」

 「え?あ、はい!では失礼します」


 するとフィルはサラ達を外に出し、談話室を再び身内だけの場にした。


 「で、何かあったのー?」

 「サラが何かしたわけではないのですが、少々教会のほうが騒がしいようで」


 不穏分子を排除して、安心して守護聖女が立ち振舞える環境になったはずの教会。

 しかし再び王城へと戻って来てしまったサラ。


 「面倒な人達って片が付いたんじゃなかったかしら?」

 「そうですね。その辺りはしっかりとケリをつけたというお話でしたが…また別の問題が起きているみたいで」


 教会で新たに起き始めたざわつき。

 それは秘宝の継て手として選ばれた守護聖女サラの資質を問う反応。


 「彼女、どうも教会ゴーレムの扱いに難航しているようでして…彼女は『秘宝を持つにはふさわしくないのでは?』という意見も出てきているみたいで」


 適性を持たない新教皇に変わり、教会秘宝を受け継いだサラ。

 だが…その秘宝が生み出すゴーレムの管理運用、更には新規生産に対して、まだ未熟な彼女はかなり苦戦している様子であった。

 そもそもの話、幾ら秘宝が…神域宝具が便利な道具とは言え、その扱いを素人がいきなり十全にという訳にはならない。

 元々のその手の下地があったならまだしも、急遽選ばれた彼女は魔法やゴーレムに関しては全くの未熟。 

 秘宝の扱いに難があるのは当然の話。

 なのだが…昨今の情勢に不安がある人々は、危機感と焦りを覚えだし『今この瞬間に、また王都が襲撃にあえばどうなるのか?』と考えて、まだ未熟が当たり前の相手の事情を棚に上げ勝手な言葉を口にする。


 実際の襲撃の経験に、不安を煽る噂の存在。

 それも仕方がないと言えばそうかもしれないが…それらが一部の教会信徒の中で、〔成り立て守護聖女への不審〕という若干身勝手にも思える現れ方をし始めたようだ。



 「教会上層部としては、サラにはそういう大人達の焦り(・・・・・・)に煽られない健全な環境で、秘宝の習熟に努めて欲しいと考えたようで、そのためにまたしばらくサラはこちらで預かり、私や賢者様のもとで面倒を見て欲しいと。もちろん教会側からも人は派遣されますが」


 そんな空気の悪い教会内での修練で、彼女自身まで悪い空気に飲まれてしまう前に対処したいと考えた教会上層部。

 教会としても人任せは不本意ではあるだろうが、教会外での…賢者や巫女のもとで健全に習熟に挑むための一時的な預け。

 しばらくの間は王城で秘宝の扱いの修練に臨む守護聖女サラ。

 なお当人には修練に集中して貰う目的ゆえに、真相は伏せたままのようだ。

 ゆえに無邪気に楽しそうなお泊まり気分。


 「こっちもあっちも噂に不安を煽られて、嫌な感じね」

 

 平民も、貴族、教会も。

 あちらこちらで不安があらわになる現在。

 王都の人々の心は、実際の天気とは裏腹に曇り空だった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ