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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
王都混乱/魔女と聖女
202/275

195 怪物退治



 「――ちなみにこの後の怪物戦も内容は描かれてないの?」

 

 素朴な疑問を確認する精霊アリア。

 ここまで幹部討伐戦の戦闘内容が端折られてきた経緯もあって、この後の怪物討伐戦もそうなるのではと予想している様子。


 「いえ…ここはまぁ言ってしまうと『魔力を集めて斬る』だけなので、それなりには描かれてますね」


 しかし、この戦いにおいては隠すような魔法も存在せずに、順当に描かれているようであった。






 『――十分前、でも予測はあくまでも予測、前後の可能性もあるから、ここからはいつ結界が壊れ始めても大丈夫なように意識してなさい』

 『はい!』

 『よし!配置について』


 賢者の言葉に改めて一同は気を引き締める。

 彼らが見つめるのは命懸けの結界。

 怪物と化した幹部魔人を閉じ込めた檻。

 その限界は近く、結界の崩壊は戦いの合図。

 とは言えやるべきことは一撃決殺。


 パーティー内での一位二位の膨大な魔力を持つ賢者サランと、エルフの弓使いシルフィエット。

 二人分の魔力の全てを勇者カイトの剣に託し、後はその剣で敵を斬るだけ。

 本来ならば賢者の魔力を総動員した大規模攻撃魔法こそが、パーティー内での最大威力の攻撃だろう。

 しかしそれだけでは足りない可能性。

 ゆえに失敗時の大惨事のリスクを背負った上での、無理矢理とも言える手段の作戦。


 『………』


 誰よりも静かにその本番を待ち集中する勇者カイト。

 手にした剣に無理矢理注ぎ込まれる予定の二人分の膨大な魔力を、カイトの魔力を総動員して抑え込む。

 その為に賢者が用意した装備も身に付け、あとは教わったイメージを脳内で固めていく。

 カイトの魔力量は平均のちょっと上程度。

 これから送られてくる膨大な魔力の抑え込みは当然自身には未知の領域となる量。

 道具の補助があるとは言え、しかし緊張は当然の流れ。


 『代わろうか?』


 そんなカイトに声を掛けて来たのは、エルフの弓使いのシルフィエット。

 賢者は結界の状態を直視するために二人のもとよりももう少し前で、開始のギリギリまで予兆を監視する。

 その為に今はまだ、この場所には二人が居るのみ。

 合流後も慌ただしく、実はこれが二人にとっては一対一での初めての会話。


 『…シルフィエットさん?』

 『シルフィでいいよ。パーティーメンバーなんだし』

 『じゃあ…シルフィさん』

 『うん。それで、重い(・・)のなら変わるよ?私の弓でも依り代役は出来なくはないし』


 その最初の会話の内容は、人類の命運を担わされた勇者カイトとの役割の交代。

 集中しようとしつつも、人目に明らかな緊張を見せるカイトの代わりに、シルフィの弓が怪物退治の役目を担うと。


 『…いえ、大丈夫です。出来ます』

 『そう?確かに君の剣の方が確率は高いし、君がそういうなら信じるけど』


 魔力を集めて一撃にまとめ上げる依り代としての役割は、勇者の魔法剣だけでなく、エルフの弓の中でも最上位に位置するシルフィの弓でも代用は出来る。

 だが弓にとってもここまで無理矢理な使い方は想定されていない上に、相性などの都合からも、どちらの方が成功の可能性が高いかと聞かれればそれは勇者の剣。

 ゆえに多少の不安要素があろうとも、第一案は勇者に託される。


 『じゃあ任せる。だから…貴方はやるべきことだけを考えて。何があっても、私達が居るから…周りの仲間を信じて託して、貴方は役目を果たすことだけに集中して』

 『…はい』


 例え仲間に何かが起きても、カイト自身は何もするな。

 カイトがやるべきはただただ真っ直ぐに剣を振るうのみ。

 例え何が起ころうとも、その他への対応は仲間を信じて託すしかない。

 誰かが犠牲になったとしても…カイトは駆け寄る事は出来ない。


 『じゃ、後はよろしくね』

 

 そしていよいよ、戦いへのカウントダウンが始まる。



 『――来た。みんな!始めるわよ!』

 

 注目する結界の揺らぎを確認した賢者。

 同時にカイトとシルフィのもとに戻って来る。

 するとその数秒後、言葉の通り崩壊が始まり…結界にヒビが入り、いよいよ怪物が解き放たれようとしている。

 そしてカイトの役目が始まる。


 『シルフィ』

 『はい、行きます!』


 剣を構える勇者カイトの側で、魔法剣に触れ始める賢者と弓使い。

 肝心要の剣に対する魔力の供給が始まった。


 『グッ…重い…!』


 手にした剣へと注がれ始める膨大な魔力。

 重さは物理的質量ではなく、無理をさせられ暴れそうになる魔法剣を抑えつける為の勇者への負担。

 自身の魔力と強化中の肉体で、魔力と物理両方の側面で無理矢理に抑え込んでいく。


 『…来る!』

 『おっさん!』

 『分かっている!!』


 そして…崩れ去る結界の中から、一足先に飛び出して来る触手の群れ。

 結界はまだ幾分の妨害を果たしているが、空いた穴から伸びて来るそれら。

 カイトのもとに集められる膨大な魔力を感知しての先手(フライング)

 それらは真っ直ぐにカイト達へと向かい…護衛役の槍使いと冒険者に迎撃される。

 

 ――その攻防の最中に少し遅れ、結界は完全崩壊し…同時に姿を現すのは、もはや人型の原形すら留めない異形の怪物。

 それと……

 

 『あれは…』

 『まさか…生存者か!?』


 そこで一同が目にした想定外。

 怪物と共に結界から姿を現した人影。

 それは命を懸け、怪物と共に結界内部に取り残されていた、死んだと思われていた騎士の姿。

 しかも動いて(・・・)、今もなお怪物に向き盾を構えている。


 『生存者…ぐッ!?』

 『抑えてカイト!』


 一瞬の動揺に魔力の抑え込みが緩みかける。

 しかし何とか致命は避けたが、巻き込む位置に居る生存者の存在に意志は乱れる。

 だがそこで……


 『大丈夫、信じて(・・・)!!』

 

 するとその時、一足先に魔力を空にした弓使いシルフィが駆け出した。

 魔力を絞り尽くして、立ってるのもキツイはずの彼女は全力で駆けて怪物に…いや、生存者のもとに駆けていく。

 

 『準備完了…カイト!』


 そんな最中に、シルフィが生存者のもとに辿り着く間際に完了してしまう準備。

 賢者の魔力も注ぎ終え、後はカイトが剣を振るうのみ。

 魔法剣も、カイトの抑え込みもそろそろもたない。


 『…はぁあああああああ!!!!!』


 ゆえにカイトは役目の為に動き出す。

 このままいけば確実に彼らを巻き込む事は避けられない。

 それでも躊躇せずに動き出すカイト。

 だが…それは彼女らを見捨てた訳ではない。

 『信じて』という言葉を信じて…正確に言えば信じるしかない状況になったという話でもあるが、シルフィは承知の上で前に出た。

 だからカイトは信じ…祈りつつ、自らの剣を最大の力で振るった。 



 

 『ギッ――――』


 役目を全うし剣を振るったカイト。

 直後、怪物は断末魔すら放つ余裕もなく差し向けられた膨大な《光》に飲み込まれた。

 剣としての物理的な距離など関係無しに、放たれた(・・・・)斬撃は確かに怪物を捉えた。 

 だが…強すぎる魔力の衝撃と閃光の洪水に、視覚も聴覚も感知能力も何もかもが役立たずとなり、敵の殲滅はおろか周囲の状況すらまだ確認できない。

 そして…その射線上に居るはずの、仲間と生存者の状況もまた不明のまま。

 

 『頼む…頼む!!』


 何も分からぬ状況のまま、カイトはただただ願い続けた。

 役目を果たして後は結果を待つばかりの中での懇願は、この一撃で倒せてほしいという勝利を願う言葉であり、同時に仲間の無事を祈る言葉。


 『あ…剣が――』


 だがその結果を確かめる前に、カイトの握っていた魔法剣が崩壊。

 それとほぼ同時に、糸が切れたかのように力を使い果たしたカイトの意識も落ちていくのだった。

 


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