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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
王都混乱/魔女と聖女
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191 正体不明の英雄



 「――大変お世話になりました!それではお先に失礼します!」

 「うん、じゃあねー」


 見送る一同を後に、去っていく一台の馬車。

 とある大貴族(・・・)の家紋入りの豪華で立派な馬車は、冒険者三人を迎えに予定時刻きっかりにやって来た。

 そして冒険者としての仕事を終えた三人を乗せ、一足先に王都へと帰ってゆく。


 「…あの子達、貴族の子だったんですね」

 「正確には下級の子が、ですね。他の二人は従者でしたから」


 ヤマト達一行が保護した冒険者三人組。

 彼らは結構いい所の貴族の子と、その子に付けられた同世代の従者二人。

 唯一の下級の男子が貴族の子であり、残りの男女がその使用人のお守り。


 「貴族の冒険者は今まで何人も見ましたけど…装備が普通だったので気付きませんでした」

 「まぁー考えてない家の、貴族の子の冒険者は質だけ重視してランクや実力に不釣り合いな良すぎる装備が多いから、逆に普通に見える装備だと見分けにくいのは分かる。でもまー所作とか、後は髪とか見ると案外見分けやすい」


 貴族の子の冒険者には大体が、家がしっかりとした装備を買い与え身を守らせるのでロンダートのように分かりやすい目印に見えている者も多い。

 だが先ほどの三人は見た目は普通な…目立たぬように、しかし質は怠らずにバランスを取った装備品…といったものを身に付けていた。

 ゆえに貴族慣れしているピピや、鑑定のあるヤマトは気付いた事実に気付けなかったロンダート。


 「下級で豪華な装備品は盗賊とか犯罪者の目につきやすい。犯罪者じゃなくともガラの悪い冒険者が目を付けることもあるし」

 「たまにいますね。貴族だと丸わかりの新人に、親切顔して取り入って護衛料とか言う名目でお金を巻き上げようとする自称(・・)一流の冒険者」

 「そー。まぁそれはそれで、吹っ掛けられるけど仕事はしっかりするマシな冒険者も居るから一概に駄目とは思わないけど、でもまぁ大体は面倒」


 実力不相応な装備は目立ち、余計な面倒を呼ぶことも程々にある。

 少々粗めの人材も多い冒険者の場に足を踏み入れるならば尚更。

 だが身を護る為に質が高い装備を身に付けるのは真っ当な考えでもある。 

 そもそもはどんな装備を纏おうとも、寄って来る面倒事を自力で払いのけられる胆力があるのが一番良い話なのだろうが…貴族とは言えまだ子供に、そこまでの度量が備わるかはまた別のお話。

 なので基本的には質は高くしかし見た目にそれが現れない装備が貴族の子の修行(・・)には適している道具ではある。


 ――貴族という身分でも、特に男子は有事の際…戦争などが始まれば戦場に出ることもある。

 だからこそ最低限の武術は貴族の子にとって必修項目。

 一流である必要はないが、せめて一般兵程度には戦いの心構えを知っておく必要がある。

 そしてその為に、貴族の子としての修行の場に"冒険者"への依頼(クエスト)を利用することが割と多いらしい。

 最低でも下級卒業、中級としてのある程度の経験を得る為の冒険者修行。

 終えれば去る為に一時限りのお客さんとなる事が殆どだが、そうして割とちょいちょい、ギルドで貴族の若者を見かけることもあるようだ。

 そういう意味では面倒事に絡まれるのも社会勉強の一つとも言える。

 実際そう思って、護衛を付けずに送り出す家もそこそこにある様子。


 「でも…あの二人、護衛従者にしてはあんまり…」

 「まぁ貴族の家にも色々あるから。一から十まで揃えて護衛も一流用意して、それ修行の意味ある?みたいな過保護な家もあれば、着の身着のままで行かせるところもある。後は跡継ぎの関係とか…その辺りはあんまり勘繰らないほうが平和」

 「…まぁそうですね」


 その護衛の割に、あまり強くはなかった従者二人にちょっと気になるところもあったが、しかし彼らは既にここにおらず、今後また出会うかどうかも怪しい相手。

 既に別れた出会いに、あまり気を回し過ぎても仕方はない。

 


 「……ところで、さっきの。あの話の続きは?」

 「あの話?」

 「正体不明の英雄の正体」

 「あー。七英雄の一人は狐人族(私達)の御先祖様ってとこ?」

 「それね」


 三人が居なくなった事で堂々とその場で発したピピ。

 話は戻って七英雄のお話。


 その中でも全身鎧の冒険者として、人々には〔正体不明〕とされた英雄。

 ピピはその不明な正体を【狐人族のダダ】という人物だと言い切った。


 「あの、完全に初耳なんですが、それが事実だとしても何故彼は正体を隠してたんですか?」


 もっともな質問は先ほどまで語り部となっていたロンダートから。

 


 「そもそもダダは駆け落ち(・・・・)して村を出てった。両親に結婚を反対された相手と一緒に逃げて村を出て、人族の町に隠れ住んでたらしいー」


 理由はシンプルに駆け落ち。

 好きな人と結婚するために、反対する家族のもとを、生まれ育った村を離れた。

 今でこそピピのように村を出て生きるのも自由な世だが、当時はやはり他種族同様にそこそこに閉鎖的な弧人族。

 そんな中でよりにもよって、当時は犬猿の仲とも言える間柄だった"狼人族"の族長の娘(・・・・)に恋をし両想いになる。

 その後も密会を繰り返すが、ある日両方の種族にバレた上に問題視され…結果二人揃って駆け落ちの夜逃げを決行し、そのまま同族の追っ手が踏み込んで来ないであろう人間の町に紛れ込み、身バレしないように姿を隠して、鎧を纏った冒険者になった。

 当時の冒険者という職業は今ほどに一般的なものではなく、尚且つ身分確認のシステムも整備され切る前の時代。

 顔を隠しても、種族を偽っても、何とか問題を起こさずに…そしてその実力ゆえにあっという間に上級にまで駆け上がった。

 そんな折りに、起きてしまったのが厄災戦争。

 

 「上級冒険者への要請で彼も参加したわけだけど、連合には狐人族も狼人族も参加してたから、バレたら連れ戻されると思って最後まで明かさずにいたみたい。流石に英雄扱いされるまでになると、その最後にはお偉いさんの前で明かさざる得なかったみたいだけど」


 そして流通する物語では語られない、英雄の駆け落ちの物語はハッピーエンドに至る。

 七英雄に数えられたほどの貢献が認められ、他種族の長たちの進言もあり弧人族と狼人族の長は二人の仲を正式に認めることとなった。

 ピピ曰く、その後の人生は故郷に戻っての平穏な生活になったようだ。

 結果正体不明の英雄は、本人たちの平穏を望む希望と、色々と偉い人達の思惑も重なり現代まで世間的には秘されたまま、一部にのみ静かに語り継がれた。 






 「――よし。馬車準備完了」


 そうして冒険者貴族組から少し遅れて、人目のない状況で取り出したヤマトの自転車馬車。

 一行も帰路に就くために馬車へと乗り込む。


 「よっと…それじゃあ続きよろしく!」

 「え?あぁ、はい」


 その中で実体化したまま荷台に乗って、ロンダートにお話の続きを求めるアリア。

 勇者の物語は修行を終え、いよいよ戦いに足を踏み入れる。

 

 「えっと…そうか、修行編と英雄の紹介だったかな。そのあとだから…〔七人の幹部〕との戦いに〔勇者パーティーの発足〕か」


 改めて本筋を語りだすロンダート。

 王都での修業が順調なカイトと、各戦線で名を挙げ始める後の英雄達。

 そして戦況自体が、少しずつ多種族連合側の有利に傾き始めたその頃合い。

 そこで…敵軍、魔王勢力にも大きな変化が起きる。



 


 『……そう、当然とも言うべきか、このまますんなり行ってはくれないわね』


 カイトの修行の傍らで自らの仕事にも勤しむ賢者サラン。

 ここの所彼女のもとには朗報寄りの情報が届いていた。

 当初は個の強さの差で劣勢だった多種族連合側も、積み重ねた情報や知識に数と策をもとに状況を好転させてきた。

 だがこの時に賢者のもとに届いたのは、敵の中に現れた更なる強者(・・・・・)の存在。

 

 『人の原罪を関する二つ名を名乗る魔人。魔王軍の幹部(・・)ってところかしらね?』


 魔王軍の中に現れた強者。

 それは最初の"七大罪"の出現。

 策もなく力押しの魔王勢力に、少なからず策と言う知恵を与えつつ、自身も上位の強者として力を振るう厄介な存在。

 好転して来ていた戦場で、また多くの犠牲が出始める。


 『…急いだ方が良いわね。仕上げも、人集めも』


 この時が七大罪の魔人が、歴史に姿を現した最初の時。

 そして保留にされていた勇者の存在に、再び彼女が意識を向け始める。


 『――カイト。修行の仕上げに行くわよ。私達でひとまず幹部を一人、倒しに行くわよ!』

 


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