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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
王都混乱/魔女と聖女
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188 憧れの存在




 「――何か…助けられたはずなのに、逆に得してる気が…」

 「だよなぁ…」


 森の中を歩く一行。

 その道中に、保護した冒険者たちが今の状況にむしろ後ろめたさを感じていた。

 何せ命を救って貰った上に、解体指導をして貰い、素材を半分受け取り、森の外まで案内されている。

 救助報酬を請求されても誰も文句は言えない状況で、お土産持たされ送迎される謎。


 「あの…やっぱり何か…救助報酬を…」

 「要らない。後輩から巻き上げる趣味はない。相手次第(・・・・)ではあるけどー」

 「相手次第…ですか?」

 「冒険者の癖に『まだ弱いんだから助けられて当然』とか思ってる相手ならしっかりと請求する。冒険者ルールの満額を」


 冒険者間の救助行為に関しては、ギルドのルールである程度の金額までは救助報酬として相手に請求する権利が認められている。

 これは本来〔助ける側〕であるように努めるべきはずの冒険者への教訓(・・)として諸々を理解させるためのルールでもある。

 とは言え…額は教訓と言う割には多くもないし、請求するかどうかは勿論救助者次第。

 そしてピピの判断は『要らない』。

 ちゃんと自分たちの力不足を理解している相手には、わざわざ教訓を請求する必要もない。


 「あの、でもリーダーに確認しなくて…」

 「大丈夫ー。このパーティーのリーダーは私だから」

 「え、あれ?」


 後輩たちが首を動かし、ピピとロンダートを見比べる。

 案の定この面々のリーダーを、一番の年長者のロンダート辺りだと誤認していた様子。

 ただ今回の臨時パーティーの、リーダー役は最年少のピピだ。


 「僕は基本ソロばっかりなので」


 今回の臨時パーティーの発起人のロンダートは、実を言えばパーティー経験値はさほど高くない。

 勿論上級冒険者である以上は人よりもしっかり出来るのは確かだが…同じ上級であるピピの方がその点は上。

 なのでこのパーティーのリーダーは、最年少だろうと経験が豊富なピピに一任されていた。


 「と言う訳でリーダー判断だからもう気にしなくていい。ただ、きちんと強くなる努力は忘れないように」

 「…はい、努力します!」

 「します!!」


 やはり何だか先生っぽいムーブのピピ。 

 そんなやり取りをしながら歩む一行。

 そして…比較的安全な森の外へとたどり着く。


 「――ちなみに、そっちの子は、何かあるのー?」

 「ふぇ…あぁ!?ごめんなさい!?」


 比較的安全な場所に辿り着いて、改めて気になる視線(・・)の主にピピは問いかける。

 他の二人と違って道中じっと黙って、ただ淡々とピピを見つめていた彼。

 ヤマト達も気になっていた、彼のピピの視線の理由への問い。


 「あの!間違いだったらすいませんなんですけど…もしかして、勇者パーティーの人だったりしますか?」


 視線は彼の疑問。

 その問いにピピは正直に答える。


 「うん、当たり」

 「やっぱり…あの、サインください!!」

 「ふぉ?」


 すると返ってきた予想外の反応。

 三人の中の後衛職で荷物持ちも兼任し、魔法袋を任された彼が言葉と共にとある本(・・・)とペンを取り出し差し出す。


 「あ、七英雄の本」


 それは有名な昔話の絵本。

 〔七英雄の物語〕の一つを記したもののよう。

 しかもその表紙には……


 「これー…賢者と聖騎士の?」

 「はい!賢者シフル様と、聖騎士レインハルト様のサインです!!」

 

 表紙には二つの描き文字。

 ド直球に、ただ綺麗な字でびしっと記された〔レインハルト〕の文字(・・)

 かなり手慣れた感じに、可愛らしいイラスト付きで記された〔シフル〕のサイン(・・・)

 ピピにとって見知った二人の筆跡。


 「勇者パーティーのファン?」

 「正確には〔七英雄の勇者〕の大ファンですね、コイツは。流石に昔の人だし、本人には会えないので…こうして、機会がある度に現代の勇者パーティーの人達にサインをねだる癖があって…ご迷惑掛けてごめんなさい!」

 「ううん。このくらい構わない。貸して」

 

 そんな勇者ファンにサービスをするピピ。

 受け取った絵本にペンでサインを…正確には走り書きの〔ピピ〕という名前を記す。


 (…むしろこの世界、サイン書きの文化あったんだなぁ…しかもシフルさんだけやたらと慣れてる感じ)


 ピピやレインハルトと違い、賢者シフルだけ正にイメージ通りの、読めなさそうで読めるような綺麗なサイン文字を記している。

 本当に何でもできる賢者様である。


 「勇者パーティーは人気ねー」

 「だなぁ」


 三人組が今までで一番ピピに寄って行く。

 やはり若者たちにとって、勇者パーティーという名は注目事項。

 サインを求めた一人は勿論、他の二人もちょっとテンションが上がっている。

 そんな賑やかになった面々から少し離れて、この間にと小休憩の準備をしながら見守る他三人。


 「……闘技場のチャンピオンって、ああいう感じの子供人気はあったりするんですか?」

 「全く無い訳ではないけど…まぁ基本的にファンだと言える人達は皆大人ばかりだね。闘技場は十歳以下はお客さんとしてもお断りの場所だし、そもそも〔正義の味方〕とは程遠い場所だから」


 勇者パーティーは人々を守る英雄、正義の味方ポジション。

 分かりやすい、子供たちの憧れの要素。

 対する闘技場はある種の欲望の渦の中心。

 人対人の戦いに、お金も掛ける公営ギャンブルの場。

 勿論ゼロとは言わないが、闘技場のチャンピオンに純粋な憧れを抱く子供はあまり多くない様子。


 (むしろ義賊の方が…まぁそういうの気にして仕事する人ではないだろうけど)


 むしろロンダートの場合は、チャンピオンとしてよりも義賊としての方が、子供の興味を引けそうだ。


 「…ねぇ、ヤマト、ロンダート」

 「ん?」


 すると、その作業の最中の二人にアリアからの問いかけ。


 「どうしたの?」

 「実は私、過去の出来事としての〔厄災戦争〕や〔邪神討伐〕の知識はあるんだけど、人間世界の物語としての〔七英雄の物語〕は知らないのよね。どんなのなの?」


 それは話題となっている〔七英雄の物語〕について。

 史実・歴史を題材にした昔話・お伽噺の郡。

 元精霊女王として継いできた〔歴史の知識〕は持つ精霊アリアは、物語の根幹になる〔厄災〕絡みの事象は認識しているが…しかしお話として人々に広がる、英雄たち(登場人物)背景(人生)までは知りえない。


 「なるほど…まぁそういうのは人間の文化ゆえですからね」

 「そっか。でも…俺も結局は女神様(上司)に教わった歴史としての知識寄りで…本として読んだのも根本の一冊だけだし、むしろロンダートさんの方が詳しいのでは?」

 「え、あぁまぁ…人並みには語れるとは思うけど」


 精霊として人の世には疎めのアリア。

 使い魔としてあくまでも知識としての認識のヤマト。

 それに比べればこの世界に生まれ育ち、順当に〔七英雄の物語〕に触れて来たロンダートが、この話題の語り部としては一番適任に思える。


 「うーん、あんまり何かを語るのには慣れてないけど…拙くて良ければ」



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