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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
王都混乱/魔女と聖女
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187 解体指導



 「――そうじゃない。この魔物はそっちから刃を入れると骨が邪魔になる。こっちから…こう入れると割と楽」

 「えっと…こうですか?」

 「そんな感じー」


 不意の遭遇。

 クエスト対象の魔物の討伐直後、ヤマト達のパーティーに接触した人物達。

 最初は擦り付けか純粋な逃避か見分けが必要だったが、結果ただ純粋に逃げていただけと判断し、すぐさま追っ手側の魔物を討伐、こちらへ逃げて来た他のパーティーを保護した。

 

 「…はいこんなもんね。もう大丈夫だから、貴方も解体手伝ってきなさい」

 「はい、ありがとうございました!」


 そうして保護したのは、下級交じりの中級パーティーの冒険者三人。

 遭遇した魔物に手を出すものの…敵わないと判断して逃げた三人だが、一人が負傷していたのもあってか距離を離せずピンチ…と言ったところで何とかここへとたどり着いた。

 その追手の魔物はピピとロンダートに瞬殺。

 明確に格下の相手なのもあってか、ヤマトの魔法のサポートも必要なく気付いたら終わっていた騒動。


 そして今は、負傷した一人はアリアに治癒を受け、残る二人はピピの指導の下で倒した魔物の解体作業中。

 基本的に救助戦闘で倒した魔物に関する権利は救助側が得るルール。

 そもそも討伐・撃破を諦めて逃げてるのだから当然と言えば当然。

 解体も素材回収も、ヤマト達側に権利がある。

 なのだが……


 『…これ解体手伝うなら、素材半分持って行っていいよー』

 『『『頑張ります!!!』』』


 降って湧いたこの亡骸はそこそこ素材が取れる魔物。

 とは言え、わざわざ手間を掛けてまで回収するほどヤマト達はお金に困っていない。

 しかしこのまま放置も、狩る側の矜持(・・・・・・)としてどうかという状況でもある。

 なのでピピの提案で、素材の譲渡を餌に三人に解体をさせることになった。

 面倒な処理を押し付けつつ、素材提供と解体指導(・・・・)でこの機会を後輩支援(・・・・)の一環にする。

 後進育成もベテランの役割。


 「やっぱり比べると手際はイマイチよね」

 「まぁこういうのって数こなしてこそだし」


 そうして始まった冒険者三人による解体。

 ただその手際は…あまりよろしくない。

 一人は下級、二人は中級。

 単純に技術も経験値も乏しく、この魔物の美味しい所も把握していない。

 なので今はピピ先生(・・)の指導の下で、実物を利用した青空解体教室になっている。


 「そう…それで、首はグッと」

 「こうッ!ですか?」

 「そう。良い感じ…あ、そこは――」

 「ひゃあああ!?血がぁああああ吹き出たあぁあ!!?」

 「森の中で叫ばないー」


 ただその内容は当然死骸の解体。

 若き少年少女たちが、今まさに魔物の首を切り落とすその姿はヤマト的に何とも言い難い光景である。

 勿論、転生してから今更過ぎるお話なのだが。








 「――はい、後輩君。これお願い」


 そうして解体し終えたアレコレを、やはりヤマトに差し出してくる。

 相変わらずバラされた素材を差し出されるのもちょっと…ではあるが、更に今回は血まみれの三人(・・・・・・・)がピピの後ろでどんよりしてるのが印象的だ。

 ちなみにその血は彼らのものでなく、あくまでも魔物の死体から噴き出した返り血だ。

 

 「…アリア、あの子ら洗ってあげて」

 「そうね、流石に…ちなみに、アレは出しっぱでいいの?貴方達」

 「え…あ!」

 

 流石にそのまま放置は可愛そうなだし、何より血の匂いは他の魔物を刺激する。

 だが自力で拭おうとすると結構な手間になるので、アリアの水で洗い流して貰おうとする。

 すると、そのアリアが気付いた三人のミス。

 解体に使ったナイフを、片さぬまま放置するアウトな忘れ物。

 破損したもの、回収にリスクが伴うなど理由があるなら仕方ないが、基本的に使った武器は放置厳禁。

 ゴブリンなどの二足二手タイプの魔物たちは、そんな武器を拾い上げ利用し、それが誰かを傷つけることもあるのだから冒険者、いや戦う者の基本である。


 「結局気付かなかった」


 なおピピ先生は自主的に気付くことに期待したようだが、まったくその気配もなく指摘されて気付いたことに嘆いていた。

 

 「…というか、あのナイフって確か…」


 いそいそと片付けをする三人を見守るヤマト。

 そんな三人…正確にはそのうちの二人が手にしたナイフに見覚えがあった。

 そして次元収納の中を漁ってみると……


 「あら、同じ意匠ね」


 ヤマトが取り出したナイフ。

 それは入手後次元収納の肥しになっていた記念品。

 冒険者として中級に昇格した際に、冒険者ギルドから授かったナイフだ。

 その同一デザインのナイフを、三人中二人…中級の二人は所有し使用していた。


 「今ってそんなの配ってるの?私の時はなかったのにー!」


 中級組揃いのナイフの事情を知り、自分の時にはそんなお得な出来事は無かったと不満を持つピピ。

 どうもこの記念品配布は、割と最近に始まった事柄。

 ピピら今の上級組が、中級に昇格した時代には存在しなかったものらしい。


 「…このナイフ、要ります?」

 「今は要らない。当時、中級なり立てで貰ってたら嬉しかったけど流石に今はもう必要ないー」

 「まぁですよね」


 あくまでもピピが中級昇格した当時に、この品質のナイフがあったならば色々楽だったという不満。

 上級として、勇者パーティーとして活動する今更手にしても、手持ち装備の下位版でしかない。





 「――ただいま。ざっと見て来たけど、僕らの対象は他には見当たらない感じだね」

 

 そんな一同のもとへ、周辺探索を済ませて戻って来たロンダート。

 他に魔物を引き連れてきてないか?クエスト対象の魔物が他にも潜んでいないか?

 流石にこの短期間で森全体を調べ尽くすことは不可能だが、可能な範囲で調べて戻って来る。


 「なら…戻ります?」

 「そうだね。必要な討伐は終わってるし、この子らを森の外に送るのもあるからね」


 保護した三人の冒険者。

 彼らは治療も受けてきちんと動けるが…魔法使いなどは特に魔力を消費して足りないところ。

 ポーションを渡すのも手ではあるが、彼らの実力がそもそもこの森の基準にまだ足りてない可能性もある為、安全の為にも森の外までは面倒を見て送り届けた方が良いという判断。

 ヤマト達も必要な討伐は終えているので、ならばここらで引き上げと相成る。


 「冷たい!?」

 「あ、ごめん、冷水のままだった」


 そんな方針決定の裏で、温度調整を忘れたアリアの冷水を被る、微妙に災難の続く冒険者たちであった。

 


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