186 事前情報は越えてくるもの
「――なんというか…数の上では三人しか居ないはずなのに、立派な六人パーティーだよねこれは」
ロンダートの呆れ模様。
彼が見据えるは二機のゴーレム。
そして実体化した精霊アリア。
たった今、討伐対象を秒殺した面々一同。
本来はヤマト・ロンダート・ピピの三人パーティーであるはずのこの面子は、ヤマトの所有する高性能ゴーレムと、上位精霊の存在により実質六人パーティーも同然の戦力になっている。
しかもそこらの六人よりも圧倒的な。
「よっと…はい取ったー。後輩君しまっといて」
「いえまぁ…討伐証明なのは分かりますけど、生首渡されるのめっちゃ怖いんですが」
そんなロンダートを尻目に、秒殺した討伐対象の死骸を解体し、証である部位を…生首を持ってくるピピ。
次元収納を持つヤマトが荷物持ちとして適任なのは分かるのだが、自分より小柄な少女が生首を抱える構図は慣れない。
「あと何体でしたっけ?」
「目撃例は後二体だね」
この三人でこの森まで出向いた理由。
冒険者ギルドに掲示されていた、上級向けの討伐依頼。
「この森…普段は中級向けの狩り場なんですよね?」
「そうだね。だからこそ早急に狩っておきたいところだろうね、ギルドとしては」
元々今居るこの森は、王都拠点の中級冒険者の狩り場・採取場として、クエストの定番の場所として認識されている森である。
勿論キッチリ中級用!と区切られるような自然は存在しないので、当然上級クラスの魔物が紛れ込む事もある話。
ただそうなるとやはり、実力的に中級冒険者が危うくなるのは確か。
そして今回ヤマト達が受けたクエストは、そんな中級の活動圏に入り込んだその上級の討伐依頼。
基本的に上級クラスが目撃されたからと言って即座に討伐対象になる訳ではない。
しかし今回の対象は、不意の遭遇をしてしまった中級パーティー数組を既に追って襲い負傷者を出している。
人的被害が出ている以上、討伐対象になるのは必然。
「ちなみに…ギルドのクエストでは三体なのよね?」
「そうですね、アリアさん…あ、もしかして?」
「向こう、二体目三体目どころか五体目まで居る気配があるのだけれど」
そんな中でアリアが察知した、目の前の亡骸と同種の存在。
しかもその数はギルドの討伐依頼に記された三体よりも多い。
「まぁ、ギルドの公示はあくまでも目撃情報をもとにした情報なので、数のズレが出るのは日常茶飯事です。慣れた冒険者はそもそも、表記体数以上居ることを前提に警戒しますし」
クエストの記載情報にある目撃例〔三体以上〕という文字は、観測されていない更なる個体も最初から警戒しての表記。
冒険者側も上級ともなれば、その数字だけを鵜呑みにする者などいない。
「とりあえず最低討伐数は達成したけど…まだ続けるよね?」
「もちろんー。狩っとかないと意味がない」
今回のクエストは、目撃例三体に対して、討伐クエストとしての最低討伐数は一体に設定されている。
最低でも一体は狩らないとクエスト達成扱いにならない。
逆に言えば既に一体狩ったこの場の一同は、既にクエストの最低条件は達している。
なのでこのまま帰っても最低限の報酬は貰えるが…
「加点は三体以上でしたっけ?」
「そうだね。目撃情報のある分の三体全部が対象だね」
だがそれに加えて、このクエストには〔加点報酬〕も設定されている。
一体倒せば一体分の、二体倒せば二体分の討伐報酬。
しかし三体目、クエスト記載のラインを上回れば、〔討伐体数×討伐報酬〕の計算に、追加の報酬となる〔加点報酬〕が加算される。
そもそも討伐クエストとしては、ここまでやってこその条件設定。
むしろ三体以上の討伐が依頼者であるギルドの求める本命であり、一体でも報酬が…というのは、何らかの理由で目標を発見できなかったり、他の要因に討伐されてしまっていた際に冒険者が徒労にならぬようにする為の配慮でしかない。
ボーナスとは言うが、本来冒険者に求められるのはこちらの目標の達成。
理由もなくそれを放棄して、最低保証だけを持ち帰れば上級冒険者である二人の名折れにもなる。
「見つけた分は全部狩る」
「まぁ意味なく残しても、下の冒険者たちが危ない目に遭う可能性を残すだけだものね」
「そうー」
「では行きましょうか。幸いにして固まってるみたいですし狩りやすい」
ヤマトが目の前の亡骸に〔スライム寄せ〕を巻いている間に、パーティーの次の行動が決まる。
毎度どこから湧くのか、あっという間に複数のスライムが群がり始める。
「――普通、この相手でこの数だともう少し時間が掛かると思うんだけど」
「この面子ならよゆー」
そして移動先で、今度は集団で群れる対象を狩る一同。
その手際…仮にも上級へのクエストの討伐対象にも関わらず危なげもなくあっさりと片が付く。
「ほい、後輩君」
「…預かります」
すると今度は四体分の生首を抱えて渡してくるピピにちょっとうわっとなるヤマト。
仕方ないのだが…もっと耳とか手足とか、もう少しマシな部分を討伐証明部位にして欲しい。
少なくとも生首は、魔物と言えども本気で勘弁して欲しい。
「この死骸って、素材とかにはなったりしないの?こういうのの有効活用は人間の十八番でしょ?」
「少なくともこの魔物に関してはあまりないみたいですね。証明部位の頭部が少しだけ用途が…っていう感じみたいですが胴体は…更に肉も全く美味しくないらしく、森の魔物や獣すらも基本的に食わずに放置するくらいだと聞きますね。実際相対したのは今回が初めてなので人に聞いた話になりますけど」
いつものようにスライム寄せを巻くヤマト。
すると毎度のスライム集結。
残された亡骸が消化されていく。
それを見てアリアは素朴な疑問を尋ねてみたが…再利用という点では利の少ない魔物の様子。
なので遠慮なくスライムに御馳走する。
「――あれ?今のは…」
そうしてクエストも一段落した直後。
一同の耳に微かに届いた喧騒。
「…向こうね。騒がしいのは」
そのアリアの言葉に少し遅れ、他の面々もそれに気づく。
「近づいて来る…それに、逃げ手?」
聞こえる音と気配は、だんだんとこちらに寄って来て段々と大きくなる。
その速度と反応の数。
ぶつかり合う音から…おそらくは逃げ手と追い手の攻防。
「真っ直ぐ…こっちに気づいてる?」
「みたい。単純に助けて欲しいのか、擦り付ける気なのかは不明ー」
「でもまぁ、来る以上は…だよね?」
向かって来るその一団に備える一行。
相手の目的が分からぬ以上、こちらから向かうことはしない。
構えて…向かって来る一団を待ち構える。
そして――
「――はぁッ!!誰か助け――」
開口一番のその言葉に、一同は迷わず動き出した。




