184 肩書豪華な臨時パーティー
(――なんだか久しぶりな感じするなぁ…言うほど経ってないはずなんだけど)
その日、ヤマトがやって来たのは王都にある〔冒険者ギルド〕。
最後に来たのはロンダートへの指名依頼を出した時が最後だったろうか。
(冒険者…一応ちょいちょい使ってる身分だけど、本業の使い魔が色々あり過ぎて最近は依頼とかは全然だったからなぁ)
依頼を出す側に加え、素材の買取などでもたまに利用したギルド。
だが冒険者の本命とも言えるクエストは、最後に受けたのはいつの時のものだっただろう。
一応エルフの里で依頼は受けているが、あれはギルドを通していない野良の依頼なので、冒険者としての〔貢献度〕には全く影響しない。
そもそも冒険者の〔等級〕や、昇格に必要なポイント制度でもある〔貢献度〕には有効期限が存在する。
例えば一年、全く何の活動もしていなかった冒険者が戻って来ていきなり元の地位で依頼を受けようとして信用できるか?という話。
ゆえに依頼達成時に加算される、昇格の指標になる貢献度ポイントは依頼を受ける毎に期限が更新されるが、放置して期限を過ぎれば完全消失のいわゆるポイントカードのような制度が用意されている。
そして肝心の等級、下級・中級・上級のランクは、期限を過ぎると消えはしないが保留ランクとして扱われ、復帰の為の試験を受ける必要が出て来る。
要するに放っておくと面倒。
ヤマトはまだどちらの期限も余裕があるはずだが、昨今の情勢と使い魔という立場上、この先も長期で冒険者依頼を受ける余裕のない状況が来る可能性も十分にある。
なので受けられる内に更新しておこうという考えでギルドへとやって来たのだが…
「――あれ?…あぁそっか!あれ指名依頼扱いって話だったっけ!?」
ギルドに着いた直後にヤマトが思い出した出来事。
それは、以前賢者シフルから受けた鑑定などのお城でのお仕事が、ギルドを通した〔指名依頼〕扱いになっていたということ。
達成報告もシフル側で処理してくれてギルドに向かう必要もなかったので、完全に指名依頼である事を失念していた。
(あれで更新してるから今日わざわざ来る必要なかったじゃん)
指名依頼の貢献度更新で期限も先延ばしになっているので、本日の目的だった依頼を受けて更新という用事が必要なくなってしまう。
「(あらら、ドジねー。それなら今日はどうする?帰る?)」
その失敗を内側でアリアは揶揄いつつ、今日の予定の修正の有無を確認する。
「…まぁせっかくだし寄ってくか」
「(まぁそうねー)」
必要性はなくなったが、せっかく来たのでそのまま足を踏み入れるヤマト。
そしてそこで見たものは……
(…なんか、客層…冒険者層変わってるか?)
そしてやって来た冒険者ギルド。
国内最大の、王都のギルド。
そこに行き交う人々はやはり多いが…だがパッと見で以前とは層が違うような気がする。
(ここって、もう少し年配の人も多かった印象だけど…今はとにかく若い人が多いな)
世代の若返りとでも言うのか、そこそこの年齢層の人々が減り、代わりに若者が増えている。
それは単純な話をすると、上級・中級ベテランの数が減り、中級一般や下級の若手が増えたとも言える。
「――あれ?ヤマトくん?」
「ん?…あ、ロンダートさん」
そんなギルド内を見渡していると、上級でも特に目立つ人物である闘技場のチャンピオン。
エルフの里から王都に帰って来て別れて以来になる【ロンダート】と再会することになった。
「思いのほか早い再会になったね」
「そうですね…てっきり早々にバルトルに戻るかと思ってました」
闘技場のチャンピオンであるロンダートにはチャンピオンとしての役目もある。
ゆえに闘技場の町バルトルが基本的な拠点であり、特に来月には一つの大イベントがあるはずなので、その準備も考えると早々に王都を離れていてもおかしくないと思っていた。
「まぁ、預かりものとかを渡し終えたら戻る予定ではあったんだけどね」
その預かりものはエルフの里に残った二人からのものだろう。
きちんと言伝も全て渡し終えて、王都を離れる予定だったロンダートを引き留めるものがあったようだ。
「今、王都で手の空いている上級冒険者が減っているらしくてね。早めに消化しておきたい上級向けの依頼がいくつか放置されてて、その片付けをお願いされちゃってるんだよ。ギルドの人達に」
どうやら先ほどのヤマトの推察通り、上級冒険者の数が減っているらしい王都ギルド。
それにより残り気味になる上級向け依頼を、ロンダートがチマチマとこなして減らすのに協力しているようだ。
「上級冒険者…なんで減ってるですか?」
「最近の王都の不安ゆえかな。高齢の冒険者が引退したり…あとは結構な数で護衛依頼が増えてるんだよ」
ここ最近の王都は、魔王勢力の襲撃を受けたり、王族の誘拐未遂など安全なはずの結界の内側で今までになかった騒動が起きている。
さらに言えば魔女の不穏な噂まで。
その為か、元々自身の身に年齢的な不安を感じていた大ベテランがこの機に一気に身を引き始めた。
その上で今世間では、貴族や商人を中心に身を護るための手段の一つとして冒険者を護衛として雇い守り役を増員する流れが生まれ、特に上級冒険者への護衛依頼の掲示が一気に増えた。
ただし、当然上級の人材は数が限られその全部には賄いきれない。
その中で特に貴族は、報酬を吊り上げてでも余所よりも多く良い人材を確保しようとした結果…過去一番の高額相場となった上級向け護衛依頼に上級冒険者達が目論見通り飛びついて…結果現在、他の依頼の消化率が下がるほどに手の空いた上級冒険者の数が不足する事態になっていた。
「もともと護衛依頼って中期的な契約になるから、一度契約した以上は当分彼らは戻ってこない。そうなるとこなす人の少ない上級依頼は放置されたまま…って訳で、手の空いている上級冒険者にギルド側から『こなしてください!』って声が掛かってるわけなんだよ」
強制ではないが、半指名依頼とも言えそうな手空きの上級冒険者たちへの協力のお願い。
それを受けたロンダートは、バルトルへの帰還を遅らせてまで出来る範囲で上級依頼をこなしているようだ。
「ちなみに中級冒険者の数が増えてるのも、そんな護衛依頼の影響だね」
そして若手の冒険者が増えている理由。
それもやはり護衛依頼にあり、上級冒険者を望む数確保できなかった依頼者が、質を下げて数で補う方向性にシフトして中級向けの護衛依頼を掲示し始めた。
勿論その相場も、上級ほどではないにせよ以前よりは高めに設定されており、その噂を聞きつけた地方の中級冒険者たちも王都に出稼ぎに来るようになった。
その結果が中級冒険者の賑わい。
彼らは依頼の中でも、噂の護衛依頼の内容を品定めしている。
「中級は、護衛依頼以外の依頼が放置されてたりはしないんですか?」
「むしろ中級が受けられる依頼は消化率良い様子だね。それなりに腕が保証される上級と違って中級は本当にベテランからルーキーまでピンキリだから、依頼者側も希望者集めて面接面談するんだよ、ちゃんと選別する為にね。その間の時間に依頼がこなされてるみたい」
上級と言うだけで即採用の人材。
だが中級はそれこそなり立てから上級に上がれなかっただけで冒険者としては大ベテランな人材まで幅が広すぎる。
なので依頼者が決まった日に希望者を集め集団面接のようなことをして採用するかどうかを見定める。
その空き時間…王都は質は良いが物価が高めで、宿代だって積み重なれば馬鹿にならない。
面接までの空いた日を遊んで暮らせるほど、普通の中級冒険者に貯蓄の余裕はないだろう。
ゆえにその空き時間に中級依頼をこなして場繋ぎ、そのせいかむしろ中級以下の依頼の消化率はすこぶる調子が良い様子だった。
「ちなみに、ヤマトくんも依頼を受けに来たのかい?」
「あーいやまぁそのつもりだってんですけど…必要は無くなったというか」
ド忘れで今日の目的を失ったヤマト。
そんな姿を見てロンダートは思いつく。
「……そうだな、それならヤマトくん。良ければ僕のほう、上級依頼のほうを手伝って貰えないかい?」
するとそんなヤマトに対するロンダートの申し出。
それはつまりは〔臨時パーティー〕のお誘い。
「でも俺、中級ですよ?」
「戦闘能力だけで言えば上級でも問題はないだろう?ランクの話はパーティーを組めば問題にはならないし」
基本的に依頼は、同ランクかそれ以下でないと受けられないのが基本ルール。
だがパーティー単位なら話は別。
討伐依頼をパーティー単位で受ける場合は、パーティー内で多数派のランクがパーティーの暫定ランクとして受理され、依頼を受けることができる。
中級が二人、上級が一人なら中級として設定される。
中級が一人、上級が二人なら上級として設定される。
そうしてパーティーランクとして上級が設定されれば、中級のヤマトでも上級依頼を受けられる。
「…あれ?でもパーティーの編成って最低三人からじゃ…今二人ですよね?」
「まぁそこは当てがあるから…ほらちょうど来た」
「え?」
「あー?後輩君やっほーもぐもぐ」
するとそんな二人の会話の場に見知った顔…【ピピ】が現れる。
勇者パーティーのメンバーの一人。
ヤマトと同じように精霊を相棒に持つ上級冒険者。
何故か串団子を頬張りながらの登場。
「先輩…あ、もしかして、先輩も上級依頼の?」
「うんギルドに声掛けられて、ここ数日は何度か来てたー」
ピピもロンダート同様に、手空きの上級として声を掛けられていたようだ。
冒険者としての活動は休んで勇者パーティーに参加していたピピ。
一応勇者パーティーとして待機の必要もあると思うのだが、賢者シフルなら普通に許可を出してそうな気がする。
有事に備えるのも大事だが日々の鍛錬、腕を鈍らせないようにするもの大事。
ピピの腕は冒険者として鍛え上げられたものなので、古巣での実戦こそピピには合いそうだ。
「と言う訳で、これで三人だよ?」
「んー?もしかして臨時パーティーでも組むの?」
「はい、そういうお話を。討伐系の中でも厄介なのは一人じゃ受けさせて貰えませんから」
つまりロンダートとしてはこの三人で、一人では受けさせてくれないような厄介な相手を仕留めようと考えているようだ。
「と言う訳ですが、どうですか?ピピさん」
「二人となら全然良いよー」
「だそうですよ、ヤマトくん」
「…まぁ、こっちとしても反対する理由ないです」
結果、ヤマトはロンダートとピピ、二人の上級冒険者とともに臨時のパーティー申請を出し、上級討伐依頼に挑むことになる。
闘技場のチャンピオン、最年少記録を持ち勇者パーティーの一員でありつつ更に希少な精霊術師。
そして精霊術師兼女神の使い魔。
更に実際は上級含む二人の精霊付き。
(なんとも肩書きの豪華なパーティーになったなぁ…)




