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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
王都混乱/魔女と聖女
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179 弓の処遇と新兵訓練




 「――なんだかんだちゃんと当たるわね」

 「当たるだけ。止まって、構えて、放って、当たる。ただそれだけだよ」


 その日、ヤマトは城の訓練場に居た。

 当然ながら勇者パーテー向けの秘匿場の方に立ち、杖ではなく()を持つ矢を放ち続ける。

 すると矢のほどんとは、狙い通りの的の中心付近に集約する。


 「仮にも女神様の使い魔の体として調整された体だから、物理的・肉体的な不得手はないんだよ基本的には。だからどの武具は最低限は扱える。だけど…精神面や認識、あとは技術とか性格上の苦手は別物だから心の問題で得手不得手は生まれる。そして…ぶっちゃけ剣よりマシだけど弓も十分に苦手な部類だよ、いやまぁ物理武器全般がなんだけど」


 見た目こそ前世のヤマトの容姿に寄せてはあるが、この肉体は女神の使い魔の標準装備(・・・・)として女神様が用意したもの。

 魔力量に関してだけは何やら想定外もあったようだが、その基本的な肉体性能は女神様が普通の人間よりも上等なものとして組んだもの。

 勿論だらければ衰えるし、鍛えれば更に伸ばせる部分もあるので日々の鍛錬は大事なところである。

 だがその基本の肉体性能のおかげで、おおよそ大概の武具は普通に扱える。


 ただし…それは扱えるだけ。

 どれだけ体の資質が整っていても、心がそれに適さなければ普通以上にはなれない。

 そしてヤマトの心は魔法以外、正確には物理武器の大半がイマイチな判定。

 弓は比較的マシなほうではあるが、とは言えそれは弓道(・・)の範疇として。

 実戦弓術にグダる(・・・)のは使い魔としての出発、転生前の使い魔講習でハッキリと認識済み。

 だから今ここで神域の弓(・・・・)を試しているのは軽い遊び、その事実の再確認の為でもある。


 「素人でも良い弓なのは分かるし、やっぱこの弓、早めに誰かに渡さないと持ち腐れ半端ないなぁ…」

 「いっそ問答無用で賢者に返しちゃえばいいじゃない」

 「その当人が今は教会だし、お忙しいからって渡してきたものだからなぁ」


 ヤマトが手にする弓は神域宝具。

 元々メルトの持つ弓だった〔覇弓サントラ〕。

 だがエルフの里の一件以後、ヤマト預かりになっていた弓。

 実は一度こちらに帰って来てすぐに賢者シフルに明け渡したのであるが、そのシフルから『しばらく忙しいから』と改めてヤマトに渡された。


 『もし、メルトが再び求めたなら迷わず渡してあげて。ただ…優秀な弓を眠らせっぱなしもアレだから、ヤマトの直感で弓を託していいと思える人が居たら、メルト以外でも渡してしまっていいわよ。それが城の外の人間でもね』


 要するにヤマトは賢者シフルに〔弓の担い手の選定役〕を押し付けられた形。

 メルトに戻すか、その他に託すか。

 適当に人を選べば、宝具が悪事に使われる可能性もある。

 価値の分からないものに渡せば安易な行動で人を傷つける可能性もある。

 ゆえに安易には選べず、そのまま今はヤマトの手の中。


 「さて…どうするかなぁこれ。メルトさんに返せたら一番良いと思うんだけど」

 「まだ無理でしょうね」

 「だよね」


 ここ数日も、同じ城の中に居るのもあってちょいちょいメルトの姿は見かける。

 その大半は例の三人、そよ風団の誰かと一緒の姿。

 勇者パーティーの面々は仕事もあってか接触はあまり多くないようだ。

 ただ…そのおかげなのかは分からないが、昨日見かけた彼女の表情は、エルフの里を離れる時から比べれば少し力を取り戻したようにも見えた。

 とは言え、それが復帰に繋がるほど劇的なものでもない。

 現に彼女は見かける全ての場面に置いて、かつては常に背に身に着けていた愛用の弓を携えておらず、弓自体をまだまだ敬遠している。


 「しばらくは保留、渡せる相手って言ってもそもそも交友関係少ないし、勿体ないけど結局死蔵するしかないかな」

 「そうねぇ。変なのに渡すよりはマシだしね」


 結局弓はヤマトの収納の中。

 教会の秘宝同様に、この弓も今は担い手不在のまま。

 ヤマトは訓練場を後にする。





 「――あぁ、やってるわねー勇者も」


 そうして場を後にしたヤマトとアリア。

 すると二人の見る光景に、勇者タケルの姿が映る。 

 ただしその姿は大勢の中の一人として。


 「さぁ走れ走れー!周回遅れは課題増やすぞ!!」


 行われているのは新兵教育。

 兵士としての道を歩み出した新人たちの鍛錬指導。

 その多数の中に、勇者であるはずのタケルが混ざって走る。

 これはちょっとした罰ゲーム(・・・・)


 『あ、タケルは明日から一週間、新兵に交じって基礎鍛錬しなさい』


 賢者シフルからの指示。

 例の暴走、帰って来た婚約者に突撃していった件の罰。

 これは初心に戻って…的なアレ。


 「いやまぁ勇者が今更新兵と同じ事やってもって話しだと思うけど」

 「新兵メニューの倍やらされてるんじゃなかった?」


 ただしその内容は新兵の倍。

 10キロ走るなら20キロ。

 100回振るなら200回。

 まぁ実際はどのくらいの数字なのかヤマトは知らないが、同じ時間内に倍こなす必要のあるタケルは単純に新兵の倍の速度でこなす必要があり、今は頑張って新兵達を周回遅れにしまくりながら走っている。


 「ヤマトも混ざる?」

 「走るにしてもあの中に混ざるのはないかな…と?」


 そうしてヤマト達が見守る中、タケルたちの下に一人の女性がやって来る。

 

 「あれって…」

 「ロドムダーナで見た顔ね」


 彼女はロドムダーナの惨事において、ヤマト達とも面識のある人物。

 国より賜りし〔月光剣〕の担い手として"月の騎士"の名を持つ"騎士団長"。


 「集合!!―――本日の模擬戦には、第二騎士団ルナ・ティーク団長が貴様らのお相手をしてくださることになった!」

 「ルナ・ティークだ。騎士と兵士では多少役割も違うが、しかし誰かを守るという志は同じであり、その為に力が求められるのも同じ。短い時間ではあるが今日この日の私との邂逅が、諸君らの力、そして成長の一端を担えることを期待している」


 彼女の名は【ルナ・ティーク】。

 この国の第二騎士団の団長。

 そして彼女のその言葉は『自分が時間を割いているのだからちゃんと学べよ?無駄にするなよ?』という圧にも感じる。


 「さて、それじゃあ…まずは一人ずつ掛かってこい!」


 勿論その模擬戦にはタケルも参加。

 ただしあくまでも新兵に交じっての訓練の為、聖剣は無しで団長に挑む。

 とは言え模造剣なのは団長も同じ。

 だが……


 「…いやまぁそうなるよなぁ」


 勇者と騎士団長。

 剣は同等、基礎能力も言うほどには大差無し。

 となれば後は技術の差だが…ここは勇者とて簡単に差が埋まらない部分。

 流石に新兵よりは圧倒的に戦いにはなっていたが、最後はしっかりと伸されて終了。


 「さぁもう一度走ってこい!戻ってきたら順にまた模擬戦だ!」


 なお訓練がそれで終わる訳もなく、限界まで追い込む為に新兵達はこのループを幾度も繰り返す事になるのであった。

 


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