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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
王都混乱/魔女と聖女
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178 秘宝の後継問題



 「――元々、今の教皇様は歴代の中でも最長・最高齢のおじいちゃんなの。まぁ最高齢とは言っても人族だから、エルフの私よりは年下なんだけどね?でも人族としてはとっくに引退しててもおかしくない年齢なの」

 

 賢者シフルが語るのは、現教皇が正式に引退するお話。

 高齢ながらも優秀さゆえに今のここまで続けて来た現教皇様。

 しかし…それもそろそろ体の限界。


 「教会には"三聖賢"っていう、教皇の次に偉い幹部役職があるんだけど、その役職の三人の中から次の教皇様は選ばれる予定になっているの」


 ゆえに話は後継の問題に。

 次の教皇の候補者である教会幹部の三人の人物。

 その中から次の教皇が選ばれる。


 「だけどまぁ…そこにちょっと問題があったみたいね。実務能力や人格面には問題ないんだけど、大事な神域宝具(秘宝)適性が無かった(・・・・・・・)のよ」


 教会が所有する唯一の〔神域宝具〕。

 勇者タケルの聖剣や、女神の使い魔ヤマトの杖と同格となる特別なアイテム。

 教会の、正確には教皇が代々引き継いできて今も所有するのはその六番となる【護隷群 ムックン/神域宝具(六番)】。

 簡単に言えば《ゴーレム》を生成・管理・運用する宝具なのだが…神域宝具である以上は、当然誰でも扱える代物ではない。

 そこには神域宝具を扱うための特別な適性(・・)が必要となる。

 なのだが…今回の教皇候補三人には、全員その適性が無かった。


 「まぁ貴方達なら理解してるかもだけど、宝具の適性に関しては善悪はそこまで問題ではないのよね。もちろん悪人より善人の方が適性が寄りやすいとは思うけど…決してその三人が悪人だから適性を持たない訳じゃないの」


 神域宝具の適性に関しては、ハッキリと明文化されたものではない。

 傾向というのは存在はするが、しかし悪人だから絶対に使えない訳ではなく、善人だから絶対に使えるという訳ではない。

 とは言え…教会の秘宝を、次期教皇候補全員が適性無しになるのはやはり予想外。

 代々継いできた秘宝の所有権が、今のこの時代に宙に浮く。


 「それって、いっそ適性のある人を教皇にするとか言うのはないんですか?」

 「タケルのような意見を言う人も居るけど、そこは優先順位が違うわね。秘宝は確かに大事だけど、それがすぐさまイコール教皇の証ではないの。教皇が秘宝を持つのが望ましい(・・・・)のは確かだけど、秘宝を優先して教皇を選ぶ事は無いわ」


 教皇と言うのは、そのような適性・才能だけで勤まる役職ではない。

 候補者となる三聖賢は、常日頃からもしもの備え、教皇の代理を務められるように日々鍛え備えて来た面々。

 それこそ三人の誰が教皇になろうと、即日真っ当に問題無く仕事をこなせるほど。

 才能にプラスし、日々蓄えた幹部としての実績・経験値も豊富にあり、実利として彼ら以外には考えられない存在。

 そんな優秀な人材を押しのけ、秘宝の適性だけの未熟者を教会トップに据えることは無い。

 秘宝は確かに大事だが、優先順位は一番ではない。

 

 「だから教皇自体はその三人の誰かで確定。だから今の話の論点は、次代の教皇が持てない秘宝を一体誰が持つかってお話」

 「あぁ…もしかしてそれで聖女ですか?」

 「そうよ」


 ヤマトが行きついた答え。

 教皇が持てない神域宝具。

 教皇の能力よりも優先順位が低いのは確かだが、しかし秘宝は秘宝で大事。 

 最近の騒動も踏まえ、資格者無しで遊ばせておける余裕のある物ではない以上、教皇が持てないなら別の誰かに持たせる必要がある。

 ただしそこもやはり誰でもいい訳ではない。

 それなりの地位・人格・能力を兼ね揃え、万が一にも教会を裏切るような事が無い人物。

 教皇の持てない秘宝を預けるに、名実ともに信用に足る人間。

 その答えとして…教会は"聖女"としてのフィルを求めているのだ。


 「聖女となる資格を持ち、勇者パーティーでの人類貢献など、実績含めて適格者なフィルが秘宝を預けるには最適解だと教会は判断してるのよね」

 「でも本人にはまだ"聖女"になる気は無くて、"巫女"として、勇者パーティーの一員としての活動を望んでいる」

 「だからこその説得(・・)ね」


 一度お断りしているにも関わらず食い下がる教会の意図は見えた。

 とは言え…お断りする側からすれば迷惑な話この上ないが。


 「そもそも…フィルって宝具の適性あるの?」

 「あるわ」「ある」


 根本的なタケルの疑問に、シフルとヤマトは即決で答える。

 フィルの持つ巫女という資質は、人の中でも最も神様に近しき者。

 ましてフィルは先日、その身に神様を宿した人間。

 いくら適性の基準が曖昧とはいえ、これだけ特別な立場のフィルが適性無しになるわけもなく。

 恐らく純粋なこの世の人間の中で、最も神域宝具に適性を持つにふさわしい人間だろう。


 そして実際、教会で行われた適性判定ではしっかりと、フィルは秘宝への適性を示した。

 だからこそ教会の熱が上がる。


 「というかそもそも…教会の持つ神域宝具がゴーレム系なのは知ってるますけど、実際どういう宝具なんですか?」


 今度のタケルの質問はヤマトも気になるところ。

 王都内で災害復興に充てられた教会ゴーレムをヤマトも見ている。 

 だが杖や聖剣以外の神域宝具に関しては、使い魔のヤマトにも詳細は伝えられていない。

 まぁそもそもこの短期間にこれだけの宝具と関りを持つことになるようになったのが女神様の想定外だったのもあるのだろう。


 「うーん、私も宝具に関しては全部を知る訳じゃないんだけど…私の知る限りでは、他の…剣や杖や弓や石のような〔個を強化するアイテム〕とは違い、言ってしまえば〔軍を生み出すアイテム〕かしらね?」


 神域宝具の大半は、一人個人を強くして、大軍や強敵と向き合えるようにするのが基本。

 だが教会の持つ〔ムックン〕はゴーレム生成の宝具という資質上、個人を強化するというよりは軍団を生み出し(・・・・・・・)、個人では叶わぬ大軍や強敵に立ち向かわせるためのアイテムと言える。


 前者は〔質〕で質や数に対抗し、後者は〔数〕で質や数に対抗する宝具。

 とは言え質を疎かにしている訳でもない。


 「ただ…基本は教会の〔数の戦力〕として運用されてる教会ゴーレムだけど、やろうと思えば(・・・・・・・)その数に質も乗っけることが出来るのよね。それこそこの前見せて貰ったヤマトの《黒騎士》相当の強いゴーレムを軍団規模(・・・・)で造れるくらい。まぁしないだろうけど」

 「それは何故?」

 「魔法だろうと秘宝だろうと、ゴーレム生成には必ず〔材料〕が必要になるでしょ?ヤマト、自分の持つ黒騎士が何を材料に作られてるか理解してる?」

 「あー…」


 材料という言葉に合点がいったヤマト。

 どうやら神域宝具ムックンは、ゴーレム生成や運用における高度に求められるいくつもの壁の多くをスキップ出来るアイテムではあるようだが…しかし根本的な部分、ゴーレムを作る際に必要な材料(・・)は、自前で用意しなければならない。


 「仕様上、あの秘宝は青天井で無限に高性能なゴーレムを作れるはずよ。それこそ賢者である私や、勇者であるタケル、魔王すらも個で倒せるほどの最強のゴーレムだって作れるのよ。でも…それほどの高性能な最強ゴーレムを生み出す為に、一体どれだけの素材を必要とするのかしらね?」


 《黒騎士》の作成に必要だったエルフの技術者の高度な技術や知識は宝具のチートでスキップ出来る。

 だがそこに使用される素材…オリハルコンやミスリルなどをはじめとした、希少な素材は必要な分だけ自前で用意しなければならない。

 そして当然そこには膨大な予算も必要になる。

 勿論、教会程の組織であれば資金も国と張り合えるほど…下手すればそれ以上持っていてもおかしくはない。

 しかしだからと言って、その全てを軍事費に充てられる訳もない。

 切り札として超高性能ゴーレムを数体程度は用意していても不思議ではないが、それを軍隊規模で用意するには無理が多い。

 何よりオリハルコンやミスリルなどは希少でありながら用途も広い優秀な素材。

 戦力増強だけに全てを浪費するなどあり得ない。

 いざという時が来たなら別かもしれないが。


 「とは言え、程々に抑えられた性能のゴーレムは、知っての通り実際に量産され運用し、教会の戦力としても有能で立派な柱の一つになってる。その大事な権限を、教皇が持てないならせめて聖女にと考えるのは当然ではあるわね」


 勿論聖女に叶わなければ、教会内の偉い人の誰かが秘宝を手にすることになる。

 だがそれは権力争いや派閥の存在する教会内に置いては、そのバランスを大きく傾かせる要因になる。

 ゆえに教会はどの派閥にも含まれない"聖女"こそに持たせたいという考えでもあるようだ。

 

 「新教皇に秘宝の権限と、次代がこれまで通りダブルで持てれば、それで面倒な派閥争いとかもそこでハッキリと決着がつくでしょうに…なまじ秘宝だけ浮いちゃったのが本当に面倒よね」


 教皇が絶対的な権力を持つのは当然なので、そこに秘宝が加わったところで決まった情勢に変わりはない。

 ただ今回のように分断されたのが悩みの種。

 秘宝を持たせる人物次第では、めんどくさい内部争いが決着どころか泥沼化する。

 

 「とまぁ、そういう訳で当分私やフィルは城と教会を行ったり来たりすることになるわ。だから…特にタケル?大事なお嫁さんの事は任せることも多くなるから、ちゃんと冷静に、面倒を起こさないようにしっかりと振る舞いなさいね?」

 「ほんと申し訳ありません…」


 しつこいようだがそれだけ念押しが必要な問題でもあるのは確かなので、改めてタケルには釘が刺される。


 ひとまず落ち着いたようにも見える魔女問題。

 逆にめんどくさくなっている聖女問題。

 そんな中で…ヤマトは別の秘宝(宝具)の所有者問題について思い浮かべる。


 (そう言えば…こっち側の宝具の扱い、弓は結局どうするんだろう?)

 


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