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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
王都混乱/魔女と聖女
183/276

176 審問当日


 ソワソワ

 

 「………」


 ソワソワソワ


 「………」


 ソワソワソワソ――


 「――タケル。とりあえず座って落ち着け」


 部屋の中をそわそわしながら落ち着きなく歩き回る勇者タケル。

 そんな彼にたまらずヤマトは声を掛ける。


 「勇者の威厳は何処へやらね」

 「zzz」


 勇者パーティーの談話室に集まった面々は、落ち着きのないタケルに若干面倒さを感じていた。

 とは言え…そのソワソワの理由もわからなくはない。


 「まぁお嫁さんが大事って気持ちは分かるけど…王女様の側付きは勿論、フィルにシフルさんにレインハルトさんまで一緒なんだから、留守番のお前は任せてどっしり構えて待って座っとけ」

 「そうなんだけどさ…」


 言って治まる物ではないのは確かだが、かと言って何時間掛かるか分からない状態で、その時間全てを落ち着きのないまま、そして精神をすり減らしながら彷徨われても困る。


 ――今日は魔女審問の当日。

 この国の王女の一人であり、勇者タケルの婚約者でもある【リトラーシャ】。

 彼女の持つ"魔女"の資質について〔教会〕で問われる日。

 場合によっては王女様の人生の大きな転機になる可能性があり、そこに伴う不安からタケルは落ち着きが全くない状況になっている。


 (婚約者の運命の日。そこに立ち会えず待つだけとなれば不安も仕方ないわけだけど)


 そんな婚約者のタケルは、その立場の近さから審問の場には立ち会えない。

 朝に城を出立し教会へと向かった王女一行。

 その面々は国の高官に王女の側付き数名、そして勇者パーティーから"賢者シフル""巫女フィル""聖騎士レインハルト"の三名が同行した。

 

 シフルはこちら側の代表、最高責任者として矢面に立つ為に。

 レインハルトは純粋な護衛、仮にも魔女資質である以上は、もしもを考える必要もある。

 そしてフィルは……


 (にしても、フィルも大変だよなぁ。聖女は断ってるはずなのに)


 フィルは巫女としてリトラーシャの援護が目的の一つとして同行している。

 だがそれとは別に彼女自身の、先日の〔聖女打診〕についての話も伴う。


 引退した巫女の受け皿となる教会名誉職の"聖女"。

 その条件である神降ろしも成したフィルに打診が来ること自体は特にはおかしくない。

 とは言えフィルはその就任をハッキリと書面で断っている。

 にも関わらず『そこを何とか!』ともう一声が掛かったのだ。


 (魔女審問と、聖女問答。果たしてめんどくさいのはどっちやら)


 今回の一行の教会行きは、審問の場にてリトラーシャ王女の潔白・無害を認めさせる目的と、また別枠で教会が食い下がって来た聖女就任の話し合いの二つの目的を持っていた。


 「zzz…zzz…」


 そんな出立組とは別に、談話室で帰りを待つ面々。

 ヤマトに、昼寝中のピピに、落ち着きのないタケル。

 そこに何か適当に遊んでいるアリアとトールの精霊組を含む五人。

 他の面々は用があったり仕事があったりでここにはいない。

 タケルも本来はやることがあるはずなのだが、『どうせあの子は仕事にならない』とシフルの予想で予めお休みにされていた様子で、しかもしっかりと的中。

 更に『一人だと思考がぐるぐるするだけだろうから、一緒に居て適当に気を紛らせてあげて』という打診でヤマト達もタケルの傍で待つことになった。


 (まぁ先輩は飽きて昼寝始めてるけど…にしても分かりやすいな、タケル)

 

 バッチリとシフルの予想通りの勇者タケル。

 実際それだけ婚約者に、王女リトラーシャに本気なのだろう。

 切っ掛けや政治は別として、ちゃんと想える相手と婚約出来たのは良い事だ。

 そこに魔女資質などという余分が加わらなければと思わずにはいられないが。

 

 「…あ、王女様帰って来たわよ――て、ちょっと!待ちなさい勇者!!」


 するとそんな中での知らせ。

 トールと共に窓の外を眺めていたアリアが、戻って来た王女一行の姿を見つける。

 そしてアリアのその報告に、勇者の瞬発力を遺憾なく発揮したタケルは…開いた窓からそのままダイナミックに外へと飛び出したのだった。






 「――うん、そりゃそうなるよな」

 「タケル様、勘弁して頂きたい」

 「すいません…レインハルトさん」


 それから数十分後。

 談話室へと戻って来たタケルと、帰還したレインハルト。

 二人は一悶着(・・・)の後始末を付け、結果タケルの方がひたすら謝りながら戻って来た。


 「タケル様、気持ちは理解しますが、これは流石に不作法が過ぎました」

 「はい…ほんとにすいませんでした…」


 王城へと帰って来た王女一行とレインハルト。

 そんな一行の前に、空から降りて来た一人の男。

 現状、ただでさえ王城・王都への襲撃の後で、しかもリトラーシャの魔女資質が不安要素である状況で、空から落ちて来る不審者に警戒するなという方が無理な話だ。

 護衛役の聖騎士レインハルトが問答無用の着地狩りに迫ったのも無理はない。

 

 『ちょ!?レインハルトさん!俺です!タケルです!!』

 『――タケル様?』


 聖剣でレインハルトの剣を受け止めたタケル。

 そして自身の素性を明かす。

 想い人の安否を気にして駆け寄る為に、階段をショートカットし窓から外へと出て後は自由落下。

 不作法と言うべきか馬鹿と言うべきか、結果として一太刀だが勇者パーティーの仲間同士の鍔競り合いに発展してしまったのだった。

 当然その場は大騒ぎである。


 「で、お嫁さんは?」

 「めっちゃ怒られた…あんな怒った顔初めて見た…」

 「うん、自業自得だし当然だと思うけど、聞きたかったことはそこじゃない」


 ヤマトが聞きたかったのはそこではなく、魔女審問の結果の方。

 こうして帰ってきているのだから大きな事にはならなかったのは理解できる。

 ただ…帰還した面々にシフルとフィルの姿は無かった。


 「ヤマト殿。そちらに関してはコレを預かっています」

 「…手紙ですか?」


 そのヤマトの問いへの答えとして、レインハルトは預かって来た手紙を差し出して来た。


 「これって、ここで開けても良い物ですか?」

 「『談話室で開けて』とのことです」

 「それじゃあ……ん?何も書いてない?」


 馬鹿したタケルの代わりにヤマトが封を開け折り畳まれた手紙を開く。

 そして内容を…と思いきや、その紙には何も書かれていない。

 だが代わりに、一本の髪が収まっていた。


 「この色…シフルさんの?――うぉ!?」

 「――んん!はぁー疲れた。ただいまーっと」


 するとその髪から賢者シフルの奴隷使い魔である魔人【アデモス】が実体化して来た。


 「なるほど、魔法で鮮度を保った髪を依り代にしたのね」


 アリアが仕組みを読み解く。

 まず根本的な話として、同じように契約の結びつきを持ち、普段は契約相手の身の内に住まう似たような状態の上位精霊アリアと魔人アデモスだが、その自由度(・・・)は大きく異なる。


 《精霊契約》によるヤマトとアリアの関係は対等でかなり自由。

 アリアは結びつきゆえに流石に王都の外までは出れないだろうが、逆に言えば王都の範囲内ぐらいであれば制限なく自由に行動が出来る。


 しかし《契約魔法》で縛られたシフルとアデモスの関係は主従。

 明確な上下関係があり、それ故にアデモスは基本的にシフルの近距離から離れられない。

 主であるシフルが城の中に居て、当人の許可もあるならば城の中を移動するくらいの自由はある。

 だがどうやら現在も、賢者シフルは教会で足を止めている。

 ならばアデモスは距離的に、単独で王城に帰って来る事も出来ないはずなのだが…その問題の裏技(・・)が、体の一部を依り代に契約を誤認させることのようだ。


 「髪の毛とか抜け落ちちゃえば数秒でゴミ扱いになるけど、その数秒の合間に状態保存の魔法とかいろいろ併用して『この髪の毛も主人の一部』『主人(髪)のすぐそばに居る』状態を維持して、まぁこうして私一人だけ帰って来れる状態を作り出したって話よ。なんというか、私のご主人様は何でもありなのかな?って思うわ。最上位の契約って裏技通用しにくいはずなのに」


 従であるアデモスも呆れるシフルの何でもあり感。

 とは言えその誤魔化しも精々が一時間程度。


 「と言う訳で、どうも伝書鳩よっ!元敵軍幹部も今や鳩替わりで、お話伝える為だけに先に戻って来たわ!それじゃあ時間も限られてるから早速本題ね?そこのイケメン騎士様は外待ちにされたから、ご主人様曰く実際に立ち会った私の生の言葉で状況を伝えろってお話なの」


 レインハルトはあくまでも護衛。

 結局審問の場に立ち合いが許可されなかったようで、当事者以外に正確な話が出来るのは、ひっそりとシフルの中に潜んでいたアデモスのみ。

 

 「それじゃあ…まずは審問の流れね。先に結果を言っておくけど、こっちは穏便に済んだから過程のあれこれでいちいち騒がないでね?勇者様」

 「……ほんとすいません」


 という勇者のハッチャけを未然に抑止する前置きの元、アデモスにより審問の流れが語られた。

   



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