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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
王都混乱/魔女と聖女
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173 ヨミ




 「――ふぅ、本当に瓦礫しか残ってないね」


 とある時、とある場所にやって来た人物。

 人ではない精霊、その上位存在。

 雷の上位精霊【ルト】は、目の前の瓦礫の山を見て言葉を漏らす。


 ――彼の協力者の知らせで、ここには元々ルトが敵対視する邪教、人神教の本拠地があったとされている。

 だがその敵拠点が何者かによって壊滅させられた状態で発見された。

 目の前の瓦礫はその残骸。

 

 「彼らが調べ漏らすことは無いだろうし、ここにはもう何も残ってないだろうね。見えるもの(・・・・・)は」


 既に人の手の調査が入った後のこの場所。

 めぼしいモノ、怪しいモノ、調査の際に発見されたアレコレは些細なモノまで漏らさず発掘・回収済みなのは確定的。

 見えるものをここで見逃す程、彼らの組織は無能ではない。

 なので本当にここには何も残っていないだろう。

 ただそれは…人の目に見えるもの(・・・・・・・)に限ればの話だが。


 「……うん、微かだけど感じるね」


 ルトは人ならざる精霊。

 勿論人も多くを感じ漏らさず拾い集めようとはしただろうが、種族の違いゆえに感じられるものもまた異なるのは仕方がない。 

 人には感じれず、精霊だからこそ拾えるモノも世の中には存在する。

 それが分かっているからこそ、協力者の彼は既に何も残っていないように見えるこの場所を、精霊ルトにも知らせたのだろう。

 自分たちが根本的に取り零したものを、協力者が拾えるなら巡って自分たちの理になる。


 「君はどうだい?さっきからちょっとそわそわしてるようにも見えるけど」


 そんな場に辿り着いたルトは、唯一の同伴者に言葉を向ける。

 協力者との密会場所であった教会にまで付いてきた子供精霊。

 エルフの里から単独で追いかけて来たその子に尋ねる。


 「…うんいいよ、好きにしてみるといい」


 その子は何かをやりたそうにしているのをルトは感じ取り、そのまま好きにさせてみる。

 すると子供精霊が…ゆっくりと前に進みだす。

 ふわふわせずにしっかりと、求める場へと進んでいく。


 「この辺は確かにちょっとだけ濃いね」


 そうしてやってきた場所も結局は瓦礫。

 だが精霊である二人には、そこに感じ取れる何かが存在する。

 そしてその中心に留まった子供精霊。

 すると…その場のソレは、ちょっとずつちょっとずつ束ねられ濃くなっていく。


 「なるほど集めてる(・・・・)んだね。うんいいよ。そのまま好きにすると良い」


 ルトはその子がやろうとしていることを理解し、そのまま見守る事にする。

 そうしている間にも子供精霊は周辺から残滓を集め(・・・・・)、感じ取る気配はより濃くなっていく。


 「《結晶化》。上位精霊(ぼくら)じゃないと出来ないものだと思ってたよ」


 目の前の空間に集まる残滓。

 それはこの場に居ただろう精霊たちの残した力の、存在の残り香。

 ……この場合は怨念(・・)と言ってもいいのかもしれない。


 「この空間、周囲にこれだけ漂ってたのなら、犠牲になった(・・・・・・)精霊は相当な数だね。本当にロクでもない話だ」


 人神教は精霊を利用する為に捕らえていた。

 だからこそルトの敵視、殲滅の対象にもなった彼ら。

 ここはその本拠地。

 ゆえにここにはエルフの里で捕まっていた精霊以上の数が捕まり…そして利用され、殺されてしまったのは想像もたやすい。

 今この場で二人が感じ取っていた微かなものは、そんな犠牲になった精霊たちの残したもの。

 それを子供精霊は今、集めて固めて(・・・・・・)いるのだ。

 本来は上位精霊クラスでないと扱えないだろう技。

 

 「君は本当に変わった精霊だね。でも…ちょっとだけ足りなそう(・・・・・)だから手を加えるよ」


 既に下位精霊の持つ技ではないが、しかしそれもまだ経験不足ゆえに未完成。

 良い感じにはなっているものの、最後の一歩が足りてない。


 「こうすれば…ほら行けるよ」


 なのでその一歩を、軽く片手を振る素振りだけで後押ししたルト。

 これにより子供精霊のやりたかった事が、現実に完結することになった。


 「……〔精霊結晶〕。言うなればここで犠牲になった子らの無念の証だね」


 二人の前に現れたのは〔精霊結晶〕。

 本来は、精霊から漏れ出て土地に染み、長年の蓄積で鉱石のように結晶化したものがそれであるのだが……今回二人はこの場に漂う微かな残滓を書き集め、意図的に凝縮し《結晶化》させた。


 普通は例え上位精霊だろうと、技術はあれど素材が無く実行できるものでもない。

 だがここには、犠牲になった精霊たちが残した微かな力がそれだけ漂っていた。

 実際に《結晶化》を実行できるだけの量の残滓が。

 それだけ多くの精霊が犠牲になっていた事を鑑みれば、それを集めて固めたこの〔精霊結晶〕は遺品や遺産…重い言い方をすれば〔怨念の塊〕とも言えなくはないだろう。 


 「…ん?もしかして、これを僕にくれようとしてるのかい?」


 こうして生まれた精霊結晶を、子供精霊はルトに差し出す。

 精霊結晶は、精霊が取り込む事で回復や強化・成長に繋がる代物。

 だがルトは既に上位精霊。


 「僕が取り込んでもあんまり意味はないんだ。もちろん気持ち的には有難いけど…これは君が集めた結晶だ。取り込むのならば君が一番いいだろうね」


 ルトは結晶の受け取りを断り、そのまま子供精霊に譲る。

 既に精霊として上位の存在であるルトには、このぐらいの精霊結晶では気持ちはともかく実際の力としてはほぼ無意味な取り込みにしかならない。

 それを伝え、子供精霊は少し迷った様子だったが…しかし覚悟を決め、自らが作り出した精霊結晶を自身で取り込んだ。

 すると…力が増した子供精霊に変化が起きる。


 「へぇ…成長早いなぁ。もう中位、実体構築まで辿り着いたのか」


 中位以上の精霊が人間のような姿を模していくのは、それが実体、世界に物理的に干渉する上で最も効率の良い姿だから。

 そして今回の精霊結晶を取り込んだ事で、力が増し中位相当の精霊になった子供精霊は、早くもその姿を作り出した。


 「懐かしいなぁ…トールの時を思い出す。もちろん姿は全然違うけど」


 そうして昇華した、新たな中位精霊。

 そして作られたその実体は、ヤマト達日本の文化を知る者が見れば日本人形(・・・・)のような印象を受ける姿。

 黒髪で着物を纏った、日本人形の女の子のような姿。

 

 「さて…実体を手にした精霊には名前を付けるべきなんだけど…君、名乗りたい名前とかあるかい?」

 「……ヨミ」

 「ヨミか。ならこれからはそう名乗ると良いよ。君は今から〔闇の精霊:ヨミ〕だ」


 名もなき子供精霊改め【ヨミ】。

 定まった属性は《闇属性》。


 「さて…ヨミはこれからどうしたい?」 

 


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