17 ちび女神の現界理由
「ふう……やっと降ろして貰えました」
どういう訳かは分からなかったが、神域宝具の杖セイブンを依代に現界した女神ユースティリア(ちびっ娘ver)。
この状況にどう反応していいのか分からず、思考停止していたヤマトに数分ほど抱え上げ続けられた後にようやく解放された。
「えっと、すいませんでした。それで…説明はして貰えるんですよね?」
「もちろんですけど、先にこっちの用事を済ませます」
そう言い精霊女王に歩み寄るちび女神様。
「お久しぶりですアクエリア。とは言っても直接お話するのは初めてですかね?今までは声だけ、もしくは誰かを経由した意思表示だけでしたし」
「そうですね。なので…お初にお目にかかります、女神様。直接お会いすることが出来て光栄です」
「私もです」
どうやら面と向かった状態で会話をするのは今回が初めてのようだ。
「それではまずは、この手を握ってください」
ちび女神様が精霊女王に手を差し伸べる。
その手を女王は握り、握手をする。
「――なるほど。これは面倒な事になってますね……勿論協力させていただきます」
「ありがとう、お願いします」
何やら一つ会話が終了したようだが……
ヤマトには何の事か分からない。
「あ、今の握手で二つの情報を直接渡しました。一つ目はナデシコさんの転移事件関連で、もう一つはヤマト君関連です」
「俺関連?」
転移事件に関する情報というのは分かる。
しかし、ヤマト関連については心当たりがなかった。
わざわざ精霊女王を頼る必要のある事。
一体何だろうか。
「まず、ヤマト君にはこれから予定通りに〔精霊王の加護〕を受け取って貰います。元々の顔合わせはこれの為ですからそこは変わらな……あ、アクエリア!念の為聞きますが、ヤマト君に加護を渡しても大丈夫ですよね?」
「はい、こちらは問題ありません」
「それでは改めて……これからヤマト君には精霊王の加護が与えられます。加護には永続的な通行許可、通行手段となる魔法も含んだ《精霊魔法》の適性なども得ることが出来る為、これによりヤマト君は単独で精霊界へと出入りすることが出来るようになります。」
精霊界も世界の一部。
当然女神様の管理対象。
そこに自由に出入りする資格。
そのための渡界手段を含んだ精霊魔法の適性。
これを得ると言う事は、ヤマトの使い魔としての活動範囲が異界にも広がる事を意味している。
「それで、ここまでは新人使い魔の通過儀礼。今までの使い魔さん達も通って来た道ですが…今回ヤマト君の場合は、ヤマト君自身に起きている問題を解決するためにもう一項目、ここでの用事が追加となります」
先代使い魔達には無かった問題。
そう言われると若干不安になってくる。
「本題に入りましょう。現時点で表面上は問題の無さそうに見えるヤマト君の身体なのですが…実は内側、魂と肉体のバランスが崩れて不安定になっています」
「……え?」
きっかけは転生初日の騒動。
転生直後の肉体と魂というのは、誰しもがまだ完全には同調しきれていない状態なのだという。
普通なら数日数週ほどで問題にはならなくなる事らしいのだが、ヤマトは初日早々に遭遇した騒動に対して、龍の魔力の制御・神名詠唱による大魔法行使など、やたらと負担の掛かる行動を行った。
そのせいで魂と肉体のバランスが崩れ不安定になり、自然には同調できない状況になってしまったのだそうだ。
「実は私のほうでその都度、内緒で調整や改善は行っていたのですが……上から現世への干渉制限のせいで出来ることが限られ、悪化しないための後手な対応のみになってしまい根本的な解決にはなっていませんでした。なので今回のこの機会……言い方は悪いですが、〔転移事件に関する精霊女王への協力要請と関連情報の提供〕という理由をこじつけて現界し、それにより制約が緩くなっている今の状態の内に私と精霊女王の二人掛かりで根本的な部分から解決してしまおうと思い、今に至ります」
「私はあくまでも女神様のお手伝いですけれどね」
ヤマトの知らぬ気付かぬところで進行していた事態。
今日まで知らずにいれたのは女神様が悪化を防いでくれていたかららしいが、結局状況は改善されておらず、これからこの場で精霊女王とのタッグで完全解決を狙う。
「……ちなみにそれって、後で他の神様達に怒られたりしないんですか?」
女神様の言い方だと、現界の理由をでっちあげて来たように聞こえる。
勿論転移事件の事も重要であるし、それが実際に必要な行動ではあったのだろうが、今回の場合は〔ヤマトの治療〕がメインになっている。
つまりは治療目的では現界出来ないから、現界出来る理由をこれ幸いと利用した。
大丈夫なのだろうか?
「多分問題ありません。私は日頃の行いは神達の中でも優等生な方ですから、このくらいなら悪くても厳重注意で済むと思います。――他の世界の神には何かにつけては現界して遊びまわったり、大事でもないのに手を出してばっかりいる方も居ますが、それに比べたら十分必要行為として説明できますから」
何というか……むしろ余所の神様は何やってんのだろう?
「……ちなみにですけど、もしバランスが不安定なまま限界を迎えた時ってどうなるんですか?」
「そうですね…肉体と魂が分離して事実上の死を迎えるだけなら優しいですが、魔法行使の最中などのタイミングですと下手すると魔力が暴走していた可能性もありますね。ヤマト君は人よりも量が多いですから、周囲が吹き飛んでいた可能性も…」
「何その爆弾」
その死に方ははた迷惑だ。
自身の安全は当然大事であるが、それと同時に他者を巻き込むような事は絶対に避けたい。
「まぁそう言った理由とちょうど王都に来ましたので、顔合わせの機会を繰り上げて早めにここに来ました。アクエリアの助力を受けられる、より万全の状況でヤマト君の身体と魂…そして力や受け取る加護の分も含めて本格的にバッチリと調整していきたいと思います。今まで後手でモヤモヤしてましたからね…ここで一気に仕上げます!」
「微力ながらお手伝いさせていただきます」
実は少しストレスでも溜まっていたのだろうか?
そうだとしたら申し訳なかったと思う。
そして…ちび女神様と精霊女王のタッグ。
これで出来なきゃ誰に出来る?と言わんばかりの最強タッグにも思える。
「それで…俺は何をすればいいのでしょうか?」
「あ、寝ててください。ヤマト君にして貰う事は特にありません。というよりも…自身の内側に関する事なので、やる気があってもどうにも来ません」
肉体と魂の再調整と言われても、確かに本人には出来ることもないだろう。
これは完全に任せっきりになる。
「分かりました。よろしくお願いします」
「任せてください!それでは早速始めましょうか…アクエリア!」
「はい。――それ!」
ちび女神様の指示と精霊女王の掛け声と共に、ヤマトの足元の水の安定が失われた。
ヤマトは水の中に落ちていった。
「!?!?――あれ、息が出来る?喋れる?」
いきなりの出来事に溺れると思っていたヤマトであったが、湖の中は呼吸も会話も出来た。
そして沈むこともなく、水の中で揺らめいていた。
「ここの水は私の一部です。自由自在です」
「そういう事もあって、アクエリアに助力をお願いしました。周りを囲まれたこの状況なら、何かあっても色々と対応しやすくなりますからね」
ヤマトに次いで二人の姿も水の中に現れた。
ただ精霊女王に関しては、この水全てが自身の一部というのだから〔現れた〕という表現は適切ではないかも知れない。
「それじゃあ始めましょうか。アクエリア!」
「はい。《誘眠》」
途端にヤマトの瞼が重くなり、意識が薄れていく。
「おやすみなさいヤマト君。後は任せてください」
そのままヤマトは水の中で眠りについた。




