表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
王都混乱/魔女と聖女
179/275

172 聖女の役目



 「――貴方に"聖女"の打診が来てるんだけど…正直どうする?」

 

 賢者シフルが尋ねる。

 言葉の向かう先は巫女のフィル。

 だが…その答えの前にアリアが言葉を挟む。


 「質問いい?そもそも聖女ってなに?」

 「あら、その知識は継いでないの?」

 「聖女と言う存在が居るのは知ってるけど、その役目の内容はそもそも知らないのよ」


 精霊アリアは言葉そのものは知っていてもその意味・役目までは知らない。

 そして…ヤマト含め他の面々も、実は言葉こそ知れどその本質までは把握していない。

 教会の中の"聖女"と言う存在。

 その内実に、更にその存在と"巫女"を結びつけられない。


 「ならこっちもついでにお勉強ね。――教会の"聖女"は、そもそもが〔役目を全うした巫女〕の為の名誉職(・・・)なのよ」


 教会において、実際に"聖女"として活動した女性は今までに三人居たという。

 そしてその三人全員が、聖女となる以前には巫女としての役目を担っていた女性であるらしい。


 「巫女の最大のお役目は《神降ろし》。女神の存在を受け止める為の器、現世の依代。実際フィルも全うしたその役目だけど…そこにはリスクがあったのは知ってるでしょ?」


 本物の《神降ろし》。

 神をその身に宿す役目は、しかし人の身には重すぎる。

 いくら適性がある巫女とはいえ、命の危機や何かしらの後遺症が残るのは必然的。

 それはこの場の全員が認識している情報。


 「フィルの場合は、元々の過去一級の適性の高さと、女神様を救うために用いた秘薬の影響もあって大事には至らなかった。流石に何も無しとは行かなかったけど、時間経過で解決できる問題程度の反動しか起こらなかった。だけど……過去の巫女達は違うわ」


 過去、実際に女神を《神降ろし》の役目を実際にこなした巫女は二人。

 その二人の適性は勿論高かっただろうがフィルよりは低く、更に当然秘薬も存在しなかった。

 結果、生き延びはしたが避けきれなかった後遺症が残る。


 (――この感じは…)


 言葉はないが、使い魔としての繋がりからヤマトに女神ユースティリアの静かな悲しみが伝わる。

 それは勿論必要な行為。

 神様としても、そして巫女であった人間にとっても、何かの為にそれが必要だったのは当事者たちも理解している。

 だが…それとは別にやはり、大義の為に傷を残したことは女神としても思う所があるようだ。

 勿論、それを口に出すことはないだろうが。


 「過去の二人も命は残ったけど、体には大きな後遺症が残った。それは分かりやすい形だけでなく《神降ろし》の依代としての役目も二度目は無いほどの重さを残した」


 そうして、一番の役目である《神降ろし》を終えて二度目もなく、後遺症ゆえにその他の副次的な巫女の役目も万全には全うできなくなった巫女。

 文字通り役目を終えた彼女達を…だからはい、さよならと言う訳には行かない。


 「そんな巫女の後務め。式典参加なんかの広報活動に教会内での後進育成…まぁ引退した騎士が教育係になるようなものね。後遺症に無理のない範囲でのお仕事と、大きな功績に報いるための地位と給金を伴う。その役職が"聖女"ってところかしらね。まぁ教会が大好きな神様に近しい存在を抱えたいって話でもあるけど」


 昔からの決まりで、巫女はあくまでも国の所属。

 しかし巫女を引退し、聖女となった女性は教会の所属に移る。

 多分「役目を終えたならウチにください」的なお話。

 言ってしまえば神様に直接触れた事のある《神降ろし》経験者の巫女という存在を、神様大好きな教会に抱え込みたいという思惑。

 宗教的、心情的、更には政治的にも使える存在。

 その大きな功績は公に明かされることは無いが、知る人の知る偉人として祭り上げられる。

 

 「……で、教会は正規の(・・・)《神降ろし》は感知できるから巫女のフィルに早くも打診が来たわけ。巫女が役目を果たした。だから聖女にならないか?と」

 「私一応無事なのですけどね」

 「帰還の情報は入ってても、体調に関しては未確認なんでしょう。何せ秘薬は誰かさんの持ち込みで、王様すら知らない情報だもの。五体満足そこそこ万全に戻って来てるなんて想像ついてないんでしょ。それでも、隠れて帰って来たのにこっちに居るってバレてるのは流石だけど」


 そこはちょっと勇み足。

 巫女の後遺症を確認してでも良かった打診が、ついでとばかりに魔女の通知に伴い届く。

 なおフィルの返事は…


 「勿論受けませんよ。肉体はこの通り無事で、巫女として、勇者パーティーの一員としてまだやれることがあるんですから」

 「でしょうね。と言う訳でお断りの意志を示した書状をここに用意してあるので、一筆お願いね」

 「はい」


 答えなど最初から分かっていたと、賢者シフルは返事の手紙を用意していた。

 過去の聖女たちのように、最早どうしようもない状況であるならば受けていただろうその地位と役目。

 だがフィルの肉体は巫女としてやれることがまだまだ多い。

 この状況で受ける理由は無かった。

 差し出された書状に、当人のフィルも一筆書き加えきちんと意志を示した。

 今後もまだ勇者パーティーで役目を全うする意志をきちんと記す。


 「――だけどまぁ、今の教会がどう動くかは…ちょっと不安なところではあるのよね」

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ