165 新たなる迷い人
「――また色々と大変だったみたいね、フィル」
「皆さんのほうも」
勇者パーティーの談話室。
そこに集った人々は、再会の余韻も後にそれぞれの出来事の詳細を語った。
残った勇者パーティーに起きた事。
第一王子の一団への襲撃に、色欲の魔人との接触、再度の王城襲撃に王女誘拐未遂。
更にはキメラ研究所の存在と壊滅などなど。
精霊組に起きた事。
死の精霊、ネクロマンサーとの戦いにトールの目覚め。
精霊王の交代に、精霊界の閉鎖隔離、里への合流後の出来事。
そして聖域組に起きた事。
エルフの里での騒動。
精霊組との合流、襲撃から仲間の拉致誘拐に敵による利用。
主目的の完遂に、世界樹の焼失、聖域の停止。
謎の商人、人型キメラスライム、賢者シフルの弟、保護した子供精霊、雷の上位精霊。
そして英雄の抜け殻シル。
大枠そのものは伝信にて伝えてあるのだが、その委細の確認は大事だ。
そうして語るべき事を互いに語り終えると、賢者シフルは何人かを部屋から出した。
ここから先は知る者が絞られる話という事だ。
その上でメルトとシルに関しては、起きた出来事やその身を鑑みて精密検査が必要と判断され、レイシャの付き添いのもとで城の医師のもとへと向かって行った。
本当ならフィルもちゃんと検査しておくべきなのだろうが、聖域組の中心人物として少し頑張ってもらう必要があるのでまた後でとなった。
ただ…民間人であるはずのナデシコは、何故か出されずにここに残された。
これで帰還した聖域組の内、部屋に残ったのはヤマト、アリア、フィル、ピピ、トール、ナデシコのみ。
そして勇者組も、シフル、タケル、レインハルトの三者のみ。
ラウル王子とブルガーはお仕事中でそもそも最初から居なかった。
「二人には後で共有するから大丈夫。それで…とりあえずゲストを呼びたいのだけどいいかしら?」
シフルがそう尋ね、全員が同意してまずは一人目が姿を現す。
だがその登場は隣室に繋がる扉からではない。
シフルの側の空間に黒い靄が現れて、そこから人型が姿を現した。
「よっと、こんにちは皆さん。私は賢者の使い魔になった、元七大罪アデモスよ。よろしくね!」
「トール、目の毒だから私の中で休んでて」
突如現れた煽情的な姿の女性に、ピピは目の毒としてトールを身の内に引っ込めた。
【アデモス(魔人:奴隷/"色欲")】。
元魔王軍幹部大罪の魔人〔"色欲"のアデモス〕が使い魔扱いとなった果ての姿だった。
「という訳で、彼女も今は私の中に住んでるのでその辺り覚えておいてね」
「中って…精霊みたいにですか?」
「精霊とは違うわね。彼女は素体がサキュバスだから、その力を利用してシフルの夢の中に普段は住んで貰ってるの。同性だから出来る裏技でもあるけど」
「起きてるのに、夢の中ー?」
「まぁ白昼夢を利用した手法って感じに覚えておけばいいわ。主導権は私にあるから、外の会話を聞かせる聞かせないも、言っちゃえば生殺与奪も自由な訳だけど」
「生きる為にプライド捨てた身なので、生存前提なら好きにこき使ってくださいな。何でもやりますよ今の私!特に――」
するとアデモスはヤマトに近づく。
そしてハッキリと伝える。
「男の人からのご要望はいつでも何でもお受けしますから、遠慮せずに声掛けてね?」
「はい戻る」
「あーん、せめてもうちょっとだ――」
シフルの挙動でアデモスの姿が消える。
どうやら再びシルフの中へと戻ったようだ。
「まぁ、ちょいちょい自由行動させることもあるから、ちゃんと同意の上でなら特に口出しもしないけど…あんまり若い子達の教育に悪い事は大っぴらには控えなさいね?」
「そもそもそのつもりないので大丈夫です」
とまぁ、バッチリ話が逸れたが、敵方の幹部がこちらに寝返り情報をもたらしてくれたのはとても大きい。
それによって確証を得られた推測もいくつか。
ただ、今はまた別の紹介が先の用だ。
「とりあえずこの子に関しては後でメルトとレイシャにも共有するんだけど…問題は次の二人なのよね……入って来て良いわよ」
シフルが呼び寄せたのは、談話室と直接繋がる隣室から現れた二人組。
二人の男性。
白髪の青年と黒髪の少年。
ヤマトはそこに視えたものに驚き、思わずその場で立ち上がる。
ナデシコも、その一人を見て目を見開き、驚きに開いた口を手で覆い隠す。
「アナタがこの世界の使い魔か」
「貴方達はまさか……」
「私達は別の世界からやって来た。私は【勇者アルバート】…いや、正確には元勇者だけど。まぁそれはひとまず置いておき、そしてこっちは――」
「【蓮田漣】。こっち風なら【レン=ハスダ】な。お察しの通り撫子姉ちゃんの縁者、まぁ〔イトコ〕だよ」
白髪の剣士の青年は【アルバート(人族/迷い人)】。
黒髪の魔法使い風の少年は【レン=ハスダ(人族/迷い人)】。
他世界からの来訪者の証である〔迷い人〕の文言が刻まれた二人。
そして青年は自らを〔他世界の勇者〕であると名乗り、少年の方は自らを〔ナデシコの親戚〕であると名乗ったのであった。
「……漣くん?」
「久しぶり、撫子姉ちゃん」




