163 ある精霊の道
「やあ久しぶり」
「……精霊ルトか。よくまぁこんな辺鄙なところへと何度も足を運ぶ気になるものだ」
エルフの里を離れ、雷の上位精霊【ルト】がやって来た場所。
それはとある村にある古びた教会。
そこには一人の神父の姿があった。
「相変わらずやさぐれてるね。そんなに王都が恋しい?」
「私は人の文明が好きなんだ。王都に限らずとも大きな町の、人が生きようと…より良くしようと発展させていった建物や品々が大好きなんだ。それが……こんな時代に取り残された辺鄙な村に送られて、不満が無いわけがなかろうさ」
「そうかー。僕は自然のほうが好きだから大きなところよりこっちが有り難いんだけどね。そんな君にお土産ね」
そう言いながらルトは、抱えていた大袋を地面に転がした。
ヒト一人が丸々入るような大袋。
神父は中身を確認し、笑みを浮かべる。
「邪教幹部、背信者フール。確かに本人だ。しかし殺さなくて良かったのか?生きたままでは面倒だったろ?」
「これから君らに詳細な情報を引き出して貰わないと困るからね。そういう話が何も無ければ遠慮せずに殺してたんだけど」
「自分で引き出してから始末すればいいじゃないか」
「そういう手法は君ら人間の得意分野だから任せるよ。勿論…精霊絡みの情報はきちんと共有して貰うし、こういう輩に関しては最後はしっかりとして貰うけど」
「勿論。最後は我らが法に則って然るべき処罰を与えて殺そう」
二人…というよりは、精霊ルトと教会組織の間に交わされた約定。
互いの利害が一致する限りの協力関係。
ルトにとっては精霊の敵の、神父らにとっては教会の敵の。
案外共通する事が多い存在の排除の為に、人と精霊が精霊契約とは別の形で手を取り合う。
「と…そうだ。君宛てにめんどくさい情報があるよ」
「へぇ、どんなの?」
「〔邪教の本拠地〕が壊滅した。人員込々で生き残りは無しだ」
それは両者にとっても意外な情報。
現状一番の目の仇にしていた存在の消滅。
「何があったの?」
「調査中だが…何者かに襲撃された痕跡があるらしい」
「精霊の被害は?」
「囚われていたような痕跡はあったが、そのものは何処にも無かったようだ。これも詳しくは調査中だが…」
「場所を教えて。僕も行く」
「精霊だからこそ見える痕跡もあるだろう。上には連絡しておくから行って来い」
神父は一枚の紙をルトに投げ渡す。
その内容をしっかりと読み込み…そしてルトの雷で屑と化す。
「それじゃあ、早速行ってみるよ」
「そうか…だが最後に一ついいか?」
「何だい?」
「後ろのそれは放っておいていいのか?」
指摘され、ルトは振り返る。
そこにあったのは〔小さな光の球〕。
それはルトが見間違うはずもない、小さな小さな精霊であった。
「君は…エルフの里で保護した子か。もしかして僕を追って来たのか?」
神父には分からない仕草だが、ルトにはきちんと頷いた姿が見えている。
「そうか…邪魔者があったとは言え後追いで追いつく、しかも可能な限り消して来たはずの小さな痕跡を追って、更には僕の背後を取る。僕が失敗していたというより…どうやら君は面白い精霊みたいだね」
ルトはその精霊を眺め、そこに秘められた様々な可能性に興味を持つ。
そして伝える。
「僕と一緒に来るかい?まぁ何が利になるとかは全くもって保証出来ないけど。行く宛てがないなら一緒にどうだい?」
頷く子供精霊。
その返事にルトは笑みをこぼす。
「そうか。それじゃあよろしくね!僕にとっても二人旅なんて、トールと以来だから少し楽しみだよ」
そうして一組の精霊が再会し、旅路を共にする事となった。
彼らのまずの行き先は敵のアジト…その残骸。
「それじゃあね神父。また何かあったらここに来るよ」
「私としてはとっとと都会に戻りたいとこだから、ここでは会いたくはないんだがな」
そして精霊は古びた教会を去って行く。
神父はそれを見送り、そして天を仰ぐ。
「……星の光が強い。しばらくは面倒が続きそうだな」




