158 反省と、精霊達の状況
「後輩君、助けて」
「先輩の自業自得なんで無理です」
床に正座したままヤマトに助けを求めるピピ。
今で大体三十分ほど経っただろうか?
一足先に許されたヤマトは、人を待ちながらその反省の様子を見守る。
「後輩君は十分ぐらいで終わったのに、ズルイ」
「いやむしろ巻き添え食らった被害者なのに十分も座らされたんですけどね?誰かさんのせいで」
事の発端は、当然ながら先程のお風呂場での出来事。
男札が掛かった男湯の時間に、女性であるピピが入り込んできた。
直後にヤマトはその場からダッシュで離脱して、湯場の札を女札に切り替えてから一足先にここへ帰って来たのだが、ヤマトは直ぐにその事をフィル達に密告した。
その結果が今の反省耐久である。
本人曰く『札を見逃した』のが原因らしいのだが、男湯に突入したピピに対して、それを知ったフィルやレイシャがお説教をするという流れになった。
(体洗い損ねたし、後でまた入りに行こう)
ゆっくり湯に浸かってから帰って来たピピに待ち構えていたお説教。
そこからの正座。
被害者であるのに何故だがヤマトも十分程巻き添えになったが、元凶であるピピは三十分経った今も正座のまま反省させられていた。
ヤマトは元々正座に慣れ、その上で十分程度だったので実はさほどの苦にはならなかったのだが、現在も進行中のピピは痺れを切らし始めて微妙にプルプルしだしている。
「――ただいまです」
「あぁ、お帰りナデシコ」
そんな二人の前に現れたナデシコ。
今居るこの場所はエルフの里の建物の一つ。
ヤマト達が現在借り受けている、所謂シェアハウスのような場所。
一行は今ここを拠点として生活している。
「ナデシコは精霊達のところだっけ?どんな感じだった?」
「アリアさん曰く、とっても順調らしいです。ただ、今日も一応お泊りはするそうです」
ナデシコが毎日通っているのは精霊達の休息所だ。
先の騒動で保護した子供精霊やシロ。
彼らは今、この里の中でも最も精霊の力が強い場所で休息している。
精霊を祀る社の中。
里で最も適したその場所を、上位精霊であるアリアとルトの力で精霊が休むに適した場所に調整した。
そして弱った精霊達は、今その場所にて順調に回復している。
しかし、やはり目を離すにはまだ少し不安もあるようで、アリアも今はヤマトと別行動で精霊達に四六時中張り付いている。
更にピピの休息中には、トールもそこに通っているようだ。
ただトールの場合は、同胞の心配の他にも別の理由があるようなのだが……
「ちなみにルトは?」
「全然みたいです。やっぱり、手紙の通りもうこの里には居ないんだろうって、アリアさんは言ってました」
問いに対して首を横に振りながら答えるナデシコ。
雷の上位精霊にして、ピピの相方トールの生みの親のような存在である【ルト】。
先の騒動ではロンダートと共闘し敵を倒した彼であるが…今は再び消息を絶った。
保護した精霊達の状態が安定したのを確認すると、手紙を残して姿を消した。
残された手紙には『まだやる事が残ってる』と書かれていた。
そして居なくなったルトと共に、捕えられていた人神教の神官【フール】も姿を消した。
手紙の記載通りなら、その身柄をルトが連れ去ったようだ。
「ルトは元々、『精霊に仇成す存在を排除する』目的の一環でこの里に来てたみたいだし、更に言えばあの異教神官の身柄も最初から狙ってたみたいだし、目的達成したから帰るって言うのも分からなくはないんだけど……」
上位精霊であるルトは、精霊達に害を成す存在に対する抑止力のような存在として行動している。
この里での目的も、囚われの精霊の解放や、その元凶の排除が理由であった。
ロンダートとの共闘も勿論それが理由で、彼の手助けのおかげでシロを無事に助けられた。
そんな彼はフールを連れて消えた。
身柄を『協力者に引き渡す』という約束があると、手紙には書かれていたが、その協力者が誰であるかは記されていなかった。
彼にもやるべき事、自身に課した役目がある以上、そう言った行動も仕方がないのかもしれない。
ただ、周囲はそれで納得できても、身内はそうもいかない所だ。
「ルトは多分、用事の済んだここには戻って来ない。だけどトールはまだ納得してない」
正座したピピからの言葉。
トールが休息所に足を運ぶ理由は、勿論同胞の心配もある。
だが一番の理由は、あそこで待てばトールが帰って来るかもという考えがあっての待ち人待機であるようだ。
「初めて会った直後のルトもそうだった。トールと別れたらしい場所に毎日通ってただただ待って、ある日突然にトールが帰って来ない事を理解して大泣きした。今回も多分そうなる」
「それ、放置してていいんですか?」
「多分大丈夫。そのうち何処かで大騒ぎするだろうけど、一晩経てばいつも通りになる。何だかんだでルトは強い子」
トールの相棒であるピピがそう語るので、ルトに関しては当面様子見に留まる。
むしろヤマトとしては、他に心配な人物が居るのだが――
「――お待たせしました」
そこに、準備を終えたフィルとレイシャが部屋の中から出て来てリビングに人が集う。
「もう行く?」
「はい、お願いします」
《神降ろし》の反動、病み上がり状態のフィルは、退院こそしたものの今はまだ無理が出来ない状態だ。
魔法・魔力の使用はしばらく控え、過度な運動も禁止。
日常生活に支障はないものの、念の為に出来るだけレイシャが付き添う事になっている。
だが今回は必要な別件。
その役割をレイシャと交代して、ヤマトが付き添い外へと出かける。
「それじゃあレイシャさん、こっちはお願いします」
「畏まりました」
「では行きましょう、ヤマトさん」
「二人ともいってらっしゃい」
そしてフィルとヤマトは家を出て、そのままある場所に向かっていく。
……なお見送りの場にてお許しの出なかったピピは、更にあと三十分程正座続ける事になったのだった。




