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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
聖域騒乱/世界樹に眠るモノ
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148 紫電と荒業



 (これって……)

 (そうだね。相手の魔法、微かにだけどブレ(・・)がある)


 鎧を介して疑似的な一体化を果たしているロンダートとルト。

 二人が気付いたのは、敵であるニックの魔法に起きている異変。

 自分達に襲い掛かって来る魔法攻撃の群れの中、複数弾の魔法の中の一つの挙動に僅かな変化が起きていた。

 隙やチャンスと呼べるほど大きなブレではない。

 ただ、両者共に競り合う中でこの僅かなブレが、対峙する二人に想定よりも少しばかり余裕を多めに与えてくれているのは確かだった。

 

 (あれの魔法制御の質を考えればしくじるようには思えない。増してやブレに気付かない訳もないと思うんだけど)

 (疲労や消耗のせいでは?)

 (その可能性もあるんだろうけれど、なんだろう…そう言うのとは何かが違うような……)


 そのブレが未熟ゆえ、相手の腕前を過大評価していたと言えばそれまで。

 もしくは戦いの中での疲れ、それだけ自分達の攻めが相手を消耗させていたと言えば僥倖。

 ただ…ルトにはどちらにも思えない。

 ニックの魔法制御は作り物(・・・)ゆえの異常な正確さ、そうであることを計画的に義務付けられた力の一端だ。

 それがこうも簡単に崩れる程の鍍金(メッキ)であったなら、この戦いはとうに決着が着いている。

 そしてそれは疲労や消耗においても、この程度でガタが来るような相手であれば余程楽に、ここから先は崩れる一途。

 しかし実際はその僅かなブレが静まるでもなく荒れるでもなく、ただ一律のブレ幅で僅かに揺らすのみ。


 (あれの制御に根本的な欠陥があるってほうが可能性は高そうだけど…でも、もしかしたら……)


 ロンダートはそこまで気が付いていないようだが、その僅かなブレに意志(・・)を感じているルト。

 何者かの妨害工作の可能性。

 ニックには気付かれずに、それでいて対峙する二人には「ここだ」と差し示すような。


 (……テンポを上げて行こう。行けるかい?)

 (勿論です)


 二人の攻めが一段上がる。

 今までのようなある程度の余裕を残した確実な立ち回りから、少しばかり負担のある無理を許容した攻め方。

 ニック側もそれに押し込まれぬように自然とギアを上げ、力をより引き出してくる。

 すると……


 「……ん?」


 するととうとうニックも、自身の魔法に起きてる異変、そのブレの存在に気付いた。

 単純な話、戦いの質が一段上がった事でそのブレ幅も相応に増していた。

 ゆえにニックにも気付ける程に出来た()は大きくなった。

 だがニックにとっては予想外の出来事であっても、二人にとっては予想の内の出来事。

 心構えも順当ゆえに――

 

 「「いま!!」」


 二人はその穴を決して逃さない。

 全力の一歩、瞬間に格段に跳ね上がった二人の力。

 一瞬で間合いを詰め、振るうのは合わせでの全力全開。

 そしてロンダートの剣が纏う雷が、その一瞬に()に染まる。


 「――《紫電一閃》」


 紫の雷を纏った剣。

 その斬撃は確かにニックの体を捉え、ハッキリと深い傷をその体に刻み込む。

 互いに有効打ゼロだった拮抗が、その一太刀で一気に傾く。

 

 「グッ……だがッ!」


 だがそれでもニックは倒れない。

 通常であれば必殺の斬撃も、ニックは辛くも耐えきって見せる。

 そして生存本能に基づく自己治癒が始まる。

 

 ――だがしかし、彼ら(・・)もその好機を逃さない。


 「《短距離転移(ショートジャンプ)》ッ……!」


 ニックのその背後(・・)

 そこに振り絞り、苦く苦しそうな表情で現れたヤマト。

 傍らには本命(・・)の、右腕を真っ直ぐ目標に向けて突き出すアリアの姿もあった。

 

 「届いた!」


 アリアの伸ばした右腕はニックの背中に触れる。

 そして目標を掴む(・・・・・)


 「おまえ……まさか!?」

 「繋がった(・・・・)、ヤマト!」

 「《短距離転移(ショートジャンプ)》ッ!!!」


 ヤマトとアリアの姿が消える。

 本来は一人用の《短距離転移》だが、精霊契約により繋がった二人だからこそ共々に跳べる。

 一撃離脱のヒット&アウェイ。

 隙を突いての一瞬の接触で、ヤマト達は攫われたそれ(・・)を取り戻した。


 「転移、失念していた。だが…だからと言って何故…あんな一瞬で奪って、反動も無しに…!」

 「反動も無い訳ではないだろうけど…まぁアリアが肩代わりしたなら致命にはならないだろうね。ただまぁ流石にこの手段には驚いたけどね?まだ自我の弱い子供精霊と上位精霊だからこその安全な荒業(・・・・・)だ」


 ヤマト達が掴み、取り戻したのは子供精霊のシロ。

 攫われ、そしてニックの体に組み込まれていた存在。

 ニックに直接触れた事で、微かではあれど確かにシロの片鱗に触れたアリアは、そのままシロと同化した(・・・・)

 〔シロ=アリアの一部〕として、相方であるヤマトの《短距離転移》に巻き込み撤退、救助した荒業。

 ……これが自我の確立した精霊や、未熟な精霊などであれば、その瞬間にどちらかを主体に取り込まれ、完全に融合してしまっただろう。

 だがシロは未だ自我が薄く、ニックの体に埋め込まれた際には更に装置化する為に更に弱められた。

 そしてアリアは上位精霊、同化しつつも短時間であれば棲み分ける(・・・・・)技術も持っている。

 当然分離する術もだ。

 だからこそ荒業ながらも安全な手法。

 《短距離転移》により、ニックの体の一部であったシロは、一瞬でニックから切り離された。

 強引に引きずり出すよりも速くて反動の余地を生まない救助方法。

 ……とは言え、当然反動が無い訳でも無いが、それも同化したアリアならばその身で肩代わりが出来る。

 小さなシロには致命な反動も、アリアには少々キツイ程度で済む。

 そうしてヤマト達はこの一瞬で、シロを取り戻し元の場所まで退避。

 対してニックは大事な動力源(・・・)を失い、その体を癒す術も無くした。   


 「何にせよ、おかげで手間が省けて助かったよアリア。おかげでトドメを刺せない(・・・・・・・・)という制限が無くなった」


 拮抗していた両者の競り合いだが、実のところルト達には大きな枷がはめられていた。

 ニックの内側のシロは救助対象。

 下手な仕留め方をすれば、ニック諸共にシロの命も危うかった。

 だからこそ先の紫の斬撃も、ニックならば即死は無いと言うギリギリの加減はされていた。

 ゆえに弱らせたこのタイミングで、何とかニックを拘束し摘出作業を行うつもりであったのだが、おかげでその工程が完全に省かれた。

 ……そして枷も払われた。


 「《紫()一閃》」


 後は淡々と二度目の、手加減の無い一閃がニックの肉体を切り裂いたのだった。

   


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