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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
聖域騒乱/世界樹に眠るモノ
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147 雷鳴の裏で




 「――あれもあんたの部下か?この前、俺のとこに来た時の奴とはまた違うみたいだが、この里に何人連れて来てる?」

 「外見はともかく中身は前と一緒の者ですよ。その内説明しますが、彼は色々特殊な存在なので…いや、今は彼女ですかね?」


 エルフの里の地下空洞。

 その隅っこに隠し通路(・・・・)を下って降り立った二人の男。

 彼らはその場から遠くの戦場を眺める。

 

 「魔法の光。あれだけの威力を複数同時展開……嫌な事()を思い出すな」

 「姉君ですか、どのようなお方だったので?」

 「……喋らなくちゃ駄目か?」


 静かに、そして力の無い瞳。

 自身の血縁を想いするような表情としてはあまり良いものではなさそうだ。


 「別に構いませんよ。なるほど、分かりやすい劣等感(・・・)ですね。この里一番の剣士にそのような思いをさせる姉君ですか」

 「里一番とは言ってもそもそもこの里では剣に向ける比重が少ない。里の周囲を周る警ら隊ですら最低限の義務としてでしか剣を学んでない。剣士の総数が少なければ一番の価値も低くなるさ」

 「貴方の剣は外の世界でも通用するものですよ」

 「通用するだけで一番や一流と言わない所がたかが知れた腕前だと言うことだ。長命種族の時間を幼いころから剣一筋で使い続けてこの程度だ。……この里では剣よりも弓や魔法に職人技能。うちの姉はそれらにおいて一流だった。だからこそ周囲の奴らは自然と()をばら撒いたのだけれどな」


 エルフ族の中では剣よりも弓、そして魔法に比重を置く者が大半であり大多数の価値観だ。

 《聖域結界》に守られ、あまり外には出ない里の人々には、近接戦闘の技能はあまり重要視されない。

 とは言えまるっきり無い訳でも当然無く、里の外を探査警戒する部隊では必修科目である。

 だがそれも義務的で、彼のように幼い頃から剣一筋で鍛え上げる者は皆無だ。

 ゆえの一番剣士。

 長命種族(エルフ)としての長い時間を一つの道に費やして、ようやく一流に届くかどうかの凡才の到達点。

 対して彼の姉は、里で認められる分野に幼少から群を抜く才を発揮する。

 その差を周囲がどう捉えたか。

 そしてどう扱ったかは、恐らくどこの種族も大差はないだろう。


 「その姉君は今は?」

 「とっくに里を出たさ。それ自体は俺も良い判断だと思ったさ。この里はアイツの存在を持て余す。当時の長もそう思ったからこそ二つ返事でアイツの旅立ちを認めたのだろう。ただ、里の〔秘宝〕を授けて持たせたのはどうかと思ったけどな」


 エルフの男の視線は再び戦場に向く。

 距離がありハッキリとは見えない。

 だがその()をこの男は見間違えない。

 実の姉が担い手として手にし、そして里の外へと持ち出されたエルフの里の秘宝たる弓。

 エルフの子供が一度は憧れる一品。

 里の外に持ち出された事で、もう二度と目に掛かる事はないと思っていたものを別の弓使いがこの里に持ち込み、そして今は隣に立つ男の部下が手にし、その力を振るっていた。


 「あの弓、ご希望ならば差し上げましょうか?」

 「……いや、俺はあの弓を扱えない。飾りにするよりもああして使える奴が使った方が良いだろう。例え弓の腕はイマイチ(・・・・・・・・)でも、適性があるだけで持ち続ける資格はある。適性すら無い俺とは違う。――ただ、お前の部下は何者だ?あの魔力量に魔法運用…明らかに人の範疇を超えている」

 「アレに関してはそう作った(・・・)ので当然の結果と言えば当然なのです。ですが……」

 「どうかしたか?」

 「正直言って、アレはちょっと駄目(・・)ですね。ある程度は誤差の範囲で収まると思ったのですが、まさかここまで相性が悪い(・・・・・)とは、やはりもう少し調整に時間を掛けるべきでした。お客人のせいで予定が狂いっぱなしです」


 そう言って座っていた大岩から立ち上がる男。

 そして歩き出す。

 

 「何処に行く?」

 「アレを回収します。アレはまだ必要な存在です。万が一にもここで失う訳には行かない」

 「そうか、だが少し待ったほうが良い」


 その男を静止させるのはエルフの男。

 彼はとある方向に剣を振るう。


 「!?」

 「覗き見は趣味が悪い」

 「おっと、《人払い》はしてあったはずなのですがね。……その耳と尾は狐人ですか。なら看破されても仕方がないですかね?何せ"九尾"の末裔たる種族のようですからね」


 寸でで斬撃を回避し姿を現したのは狐耳と尻尾(・・・・・)の少女。


 「ピピ殿か」

 「……シラハ。この里の守備隊長のアナタが、なんでソイツと一緒にいるの?」

 「新しい上司(・・・・・)なのだから別に不思議も無い」

 「御初にお目にかかりますお嬢さん。私は人族のしがない商人にございます」

 「違う。お前は――」


 何かを掴んだピピのその言葉は途中で留まる。

 ニコニコと笑顔を固めていた商人は、突如歪んだ笑顔を見せる。

 同時に感じる重く冷たい気配。


 「……少しだけ寄り道をしましょうか?折角面白い人材と遭遇したの出来たのです。貴方を見定めて(・・・・)からでも向こうに向かうのは遅くは無いでしょう多分。シラハさん」

 「という訳だ、ピピ殿。一対一だと俺に分が悪いのは理解してるが、俺も転職早々に減点評価をされたくはないからな。――あの鎧の戦闘試験、模擬戦の時のように楽に勝てるとは思うなよ?」

 

24/12/2 誤字修正しました。

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