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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
使い魔人生/始まりと出会い
15/275

14 王都へ



 「おーい。そろそろ行くぞー」


 翌日。

 勇者一行プラス使い魔&迷い人は、王都に向かう為に馬車に乗り込んでいた。

 

 「ナデシコ…大丈夫か?」

 「はい。ちょっとこの服に慣れなくて手間取っちゃいました」


 シフルさんが用意してくれた服を纏うナデシコ。

 仮にも王城で暮らすのだから、それ相応の服装が必要だった。

 ナデシコの服装も、貴族や王族程のものではないが、少なくとも失礼に当たらないくらいには高価で質の良い物だ。

 恐らくヤマトが身に着けている服よりも、何倍も高い。


 「このヒラヒラした部分はちょっと可愛いですけど、少し着にくいのが難点ですね」 

 「その内慣れるだろう。いざとなったら城の使用人に手伝って貰えばいい。お世話するのが仕事の人たちだから理不尽な要求でさえ出なければ喜んで引き受けてくれるぞ。流石に風呂に着いて来ようとするのは勘弁して欲しいが……ナデシコも嫌な事はちゃんと断らないと、何処までも付いてくるぞ。あの人たちは」

 

 ナデシコにはお世話係も付く事になっているそうだ。

 おそらく生活の中で一番長く接する事になる相手なので、そこで上手く仲良くなることが出来ればいいのだが。


 「んー……」

 「ん?ナデシコ、どうした?勇者一行はもう乗ったぞ?」

 「いえ、やっぱりまだ少し名前で呼ばれるのに慣れないなーと。その内自然に慣れると思うんですけど」


 蓮田撫子の呼び方をナデシコに統一した。

 この世界では〔ナデシコ=ハスダ〕となるナデシコは、貴族でもないのに家名を持つと言うこの世界の常識としては矛盾した状態になっている。

 だからと言って爵位を与え貴族にするわけにも行かないので、名乗る時は苗字を伏せ〔ナデシコ〕とだけ名乗る事になっている。

 そのため、ヤマト達もナデシコと呼ぶことになった。

 

 「同性相手なら普通なんですけど、男性に名前で呼ばれる事はなかったですから。ヤマトさんは慣れてそうですね」

 「何か含みを感じた気がするが……まぁ後輩に何組か苗字が被ってるやつらが居たから、女性相手でも名前呼びにしないと紛らわしかったから自然とな。ナデシコはそこで躓いてて大丈夫か?多分城で生活始めたら、使用人の人たちからは多分様付けで呼ばれるぞ?」

 「あーそれは重いですね……」

 「おーい。お前らもいい加減乗れー」


 せっつかれたのでそそくさと馬車に乗り込み、そして王都へ向けて走り出す。 

 馬車は一台。

 中も広く負担も少なめ。

 貴族仕様で性能の高い馬車――と思っていたのだが、御者がゴーレムになってる時点でおかしい。

 ヤマトが学んだ一般常識に、ゴーレムが御者の馬車はない。

 どう考えても特殊仕様なのだが……ヤマトの移動手段も人の事を言えないのでツッコまないでおく。


 「そういえばヤマトは移動手段持ってたのか?バルトルに来るのも随分早かったが」


 そう思っていたのに、相手の方から聞かれてしまった。


 「えっとヤマトさんのはじ――」

 「はいストップ!悪いがノーコメントで。ナデシコも秘密で頼む」

 「あ、はい」

 「成程、何かは分からんが何となく察した」


 流石同郷であり、女神様に選ばれた存在のタケルだ。

 具体的な内容には辿り着いてはいないだろうが、聞いちゃいけない事と察しが良くて助かる。




 その後も適当な雑談を交わしつつ、ひたすら馬車は走り続けて夜となり、野営で一泊。

 特に何の問題も起こらずに、翌日の昼前には王都へとたどり着いた。

 ヤマトの転生数日経験からは何かしら起こりそうな気もしていたのだが。

 やはりあれらの騒動は早々起こりはしないようだ。


 「あれ?降りなくていいのか?」

 

 王都の入り口で馬車を降りて審査の列に並ぶ気でいたヤマトは、少し拍子抜けだった。


 「まぁこの馬車、仮にも貴族の馬車だからな。責任者の俺一人が顔さえ出せば後はスルーだ」

 「警備の意味……」


 何ともセキュリティ面に不安のある優遇措置ではあるが、王都に張られている《結界》はかなり特殊なようなので問題ないのかもしれないと、勝手に納得することにした。

 そもそも問題があるのならとっくに改善されているだろう。


 「――おっとここだな。ヤマトの泊まる宿は」


 そして馬車は、一件の宿の前で止まった。


 「ほい、これが紹介状。多分空いてるだろうが、これを出せば満室でも部屋を用意して貰えるし、部屋代もこっちに請求がくる。流石にルームサービスには手を出さないでほしいが、後は好きにしててくれ」


 勇者タケルの紹介してくれた宿〔輝き亭〕

 すでに入り口の佇まいから高級宿の雰囲気が漂っている。 

 

 「ちなみに、宿代を自分で払おうとすると財布が悲しい事になると思うから大人しくこっちに任せてろ」


 ここまで世話になるのは忍びない、というヤマトの思考を読まれた。

 ちなみに料金を聞いてみると……なるほど大人しく任せていた方がいいようだ。


 「あ、はいこれ。餞別ね」


 シフルさんから渡された一個の指輪。

 《鑑定眼》で視てもなんの変哲もない指輪だった。


 「まぁ持っておけばいい事あるかもしれないからね」


 シフルさんには何か考えがあるようなので、大人しく受け取る。


 「あ、ナデシコ。いざとなったら躊躇なく使えよ?」

 「はい。分かりました」


 実はヤマトも、ナデシコに一つ備えを渡している。

 使う時が来なければいいのだが、何が起こるか分からないため、備えあれば憂いなしだ。

 実はお守り、宝具のイーバンも護身用に持たせたままなのだが、あれは物が物だけに扱いづらいのが問題だ。

 お城に穴を空けるのは絶対に控えて貰いたい。

 

 そして馬車は、ヤマトを残して王城に向かい走り出した。

 数日後にはまた会う予定ではあるのだが、少し寂しいものを感じた。

 

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