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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
聖域騒乱/世界樹に眠るモノ
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142 黒い繭の中身



 「――なぁ、これが何なのか、説明できる奴はいるか?」


 アイドムが仲間に掛けた言葉。

 その疑問に答えを出せる者はこの場には居なかった。


 ――冒険者組は世界樹のもとに辿り着き、そして〔黒い繭〕の前に立った。

 世界樹に纏わりつく〔黒い繭〕。

 その表面は黒く透けていた、薄っすらとではあるがその内側にあるものを目視する事が出来た。

 出来たのだが……


 「コイツは人…って事で良いのか?生者か死者かすら判別できんが……何だってこんな中に?」


 その〔黒い繭〕の中に見つけたのは、一糸纏わぬ長耳の女性の姿。

 長耳はエルフの特徴。

 膝を抱え丸くなり、繭の中に満たされた液体の中に浮かんでいた。


 「……精霊、シロが居る!!」


 ピピはその繭の中に、シロと思われる存在を見つけた。

 膝を抱えて丸まる女性の胸元に灯る光

 まるで宝石のペンダントでも付けているかのような位置で、時折小さく蛍のように点滅する物体。

 ピピはその光を精霊の……シロの放つ光であると判断した。


 「シロってのは奪われた精霊だな。そいつがこの中か……どっか穴なり扉があったりしねぇか?」


 周囲を回って見てみても、繭には開けるような場所は無い。

 となれば、次に試すのは強硬手段になりそうだ。


 「全員ちょっと離れてろ……そぅりゃッ!!」


 一発拳を叩きつけるアイドム。

 その衝撃で繭は揺れるが、傷は一切つかなかった。

 

 「加減したとはいえ無傷か……シトラス、ロンダート」


 それに続いてシトラスの盾攻撃や、ロンダートの剣撃が繭を襲った。

 当然中へダメージが通らぬようにある程度の加減はしているが、だからと言って傷が一つも付かないのは頑丈過ぎる。


 「……魔法も試すか、嬢ちゃん?」

 「りょーかい、《雷撃》」


 更にはピピも一撃ぶつけるが、魔法攻撃でも傷はつかない。


 「表面を触れた感じじゃ、あんまり固そうな感触ではないんだが……一体何で出来てやがんだ?」


 コンコンと、扉をノックするように叩いてみるアイドム。

 するとその直後、〔黒い繭〕そのものが淡い光を放ちだす。


 「アイドムさん、何をしたんです!?」

 「ちょっと叩いただけだ!特に何かをしたわけじゃねぇ」


 四人全員が警戒し、繭から少し距離を取り構える。

 その最前列に出て盾を構えるシトラスが不意の初撃に備える。

 ……だが、〔黒い繭〕はただ光るだけで、四人に危害を加えてくることは無かった。

 そしてそのまま数十秒後、静かに光は消えてゆき、元の状態へと戻ったのだった。


 「……何も無かったな」

 「そうですね。今のは一体……あれ?」


 何が起きたのか、未だに警戒色を弱めない四人の頭上から、茶色の葉(・・・・)が降って来る。

 自然と一同の視線は上へと向き、世界樹の枝や葉っぱを見上げる。

 そこで異変に気付く。


 「……枯れてる?」


 ピピの指摘…確かにそう捉えられる状況が視界に広がっていた。

 深緑の葉が覆っていた〔世界樹〕。

 だが目算でおよそ三分の一近く程の葉が、茶色い枯れ葉へと変貌していた。

 緑から茶色に変化した葉は少しずつ落ちてゆき、四人の頭上にも降り注いだ。


 「……世界樹ってのは、こんな急に葉が落ちるものなのか?」

 「枯れずにそこに在り続ける樹木。世界樹の常識からすれば異常事態かも?」

 「また光りが」


 再び光を放ちだす〔黒い繭〕。

 それもまた同じほどの時間で消えゆき、また元の状態に戻る。

 だが今回、四人は繭だけでなくきちんと上の変化も見届けた。


 「増えたな」

 「また枯れた」

 「やっぱりこれが原因みたいですね」


 先程同様に、更に三分の一の葉が緑から茶色へと変化して落ち始める。

 一度目も含めば全体の三分の二。

 この調子なら次また光れば、全ての葉が枯れ葉へと変わってしまうだろう。

 

 「何かを…力を吸ってる?」

 「何にせよロクでもないモノなのは確定的だな。となれば……中身は気になるが、一度デカイのをぶつけてみるか」


 何が起こるか分からない箱。

 中の女性とシロの存在。

 それらを加味して加減した攻撃をぶつけて来た一同であったが、このまま好き勝手されるのは不味いと判断した。


 「まずは俺から――はぁあああああ!!!」


 アイドムの本気の拳が繭に叩きつけられる。

 だがこれでも傷はつかずに揺らすだけ。


 「シトラス!合わせろ!――はぁあッ!!」


 次いでシトラスとの合わせ技。

 二人の一撃が繭を揺らすが、これでも今だ傷はつかない。


 「ロンダート!お前も来い!!」


 そして今度はロンダートの斬撃も加わる。

 三人の本気の一撃。

 そこまでやって初めて、ようやく黒い繭の表面に傷が入ったのだった。


 「これでやっとか……嬢ちゃんも混ぜて傷を突くぞ!」


 やっと入った傷を目掛けて、アイドムの拳撃、シトラスの打撃、ロンダートの剣撃、そしてピピの魔法が順次着弾していく。

 既にヒビの入った繭は、弱った箇所への連続攻撃にとうとう耐え切れず、黒い繭の全体にヒビがどんどん伝染していく。

 そしてようやく強固な()が崩壊する。

 そう判断した一同に、殻の中から飛び出した触手が襲い掛かる。


 「回避!!」


 全員が一気に黒い繭から距離を取る。

 彼らが先程まで立っていた場所には、それぞれに触手の先端が突き刺さっている。


 「全く……あと少しなんだから手を拱いていればいいものを……」


 既に聞き慣れた声が聞こえる。

 その源は〔黒い繭〕の中身。

 触手と声の主は、殻を内側から更に割って行き、出来た大穴からその身を丸々どろりと外へと運び、その姿を一同の前に晒した。


 「本当に面倒な奴らだな。この繭は渾身の、替えの無い特別製、最高硬度の防御膜だったんだぞ?一体どれだけ時間を掛けたか……それを割るって、お前ら化け物か?」

 「お前にだけは言われたくないなニック(・・・)。そもそも口も無いのにどうやって喋ってんだか」


 黒い繭として鎮座していた存在は、今は粘液の化け物(・・・・・・)としてその本性を晒しだす。

 その身の内に女性とシロを捉えたまま、そのドロドロの体を這うように動かし、そこから伸びる触手をうねらせる気色の悪い物体。

 人型スライムの本体(・・・・・・・・・)

 世界樹に取りついていた〔黒い繭〕から、ニックと呼ばれた怪物の本当の姿が、四人の眼前に姿を現したのだった。


 「俺が化け物だって言うのは否定しない。俺には別の、目指すべき理想の姿があった。だが出来たのはこんな誰が見ても化け物な失敗作(・・・)の姿だ。――だけど、〔主〕のおかげでようやく望む姿が、最高の器(・・・・)が手に入った!」


 次の瞬間、世界樹に残る緑の葉全てが茶色の枯れ葉に変貌する。

 するとニックの粘液の体は、今までにないほどの光りを放ちだす。


 「くそッ……枯れ葉が」


 大量に降り注ぐ枯れ葉が、ニックを中心に渦を巻きその姿を覆い隠す。

 光に眼が眩む事は無くなったが、渦巻く枯れ葉と起こす風のせいで、四人はニックに近づきたくても近づけない状況になってしまった。

 だがそれもすぐに静まっていく。

 風が弱まり、そして止み、渦巻く枯れ葉も静止し地面に落ちる。

 そうして開けた四人の視界。

 その中心には触手も巨大スライムの姿も無く、ただ一人の女性(・・・・・)が立っていた。

 

 「ようやく……ようやくだ!紛い物の体じゃない、本物の、求めていた肉体(・・・・・・・)が手に入った!おまけに美しく、強い、最高の体……やっと俺は完成した(・・・・)!!」


 そして止んだ風の代わりに、吹き荒ぶのは魔力の風(・・・・)

 女性の体から放出される大量の魔力が周囲に渦巻き、そして女性の体を包みこむ。

 すると一糸纏わぬ姿であった女性が、次の瞬間には衣服に包まれた。

 それはエルフ族の女性が儀式の際に纏う比較的露出度の高い儀式礼装に似ていた。

 だが本物は白と緑の色彩、対して彼女が纏うのは黒と赤の衣装。

 女性から溢れだす魔力の禍々しさも相まって、恐怖を感じさせるには十分な意匠となっていた。


 「さて……改めて挨拶でもしようか。()の名前はニック。ようやく完成へと至った、失敗作でもスライムでも無い、名乗るならば【ハイエルフ(・・・・・)のニック】だ!」

  


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