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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
聖域騒乱/世界樹に眠るモノ
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140 二兎追う者は


 二兎を追う者は一兎をも得ず。

 向こうの世界(・・・・・・)の諺であるが、今のヤマトの脳裏にはこの言葉が過っている。


 (欲張ったつもりはないけど……結果グダってるから否定しがたいな)


 ヤマト達の第一目標は聖域組の目的の完遂。

 その為に余計な邪魔が入らぬように、聖域への道を氷で封鎖し、こちら側にヤマト達も残りそのまま追っての相手をしていた。

 そしてその上での第二目標。

 メルトやシロ、攫われた者たちの奪還。

 手がかりとなった座標、世界樹のもとへの到達。

 その為に前へ出て敵と対峙し、望まぬ形であったとはいえ現れた攫われた仲間の一人であるメルトにも手を伸ばそうとした。

 先程までヤマト達はこの二つの目標を、実質的に二兎を追う形になっていたのは事実だ。

 だが今はそれも頓挫している。


 (……回復薬の効きが悪い。だいぶマシにはなったけど…やっぱり単純な外傷による痛みって訳じゃないのか)


 結界による妨害が多少なりとも影響する状況の中で、そこに先程の針による一撃の残香。

 身動きが取れない程の激痛は既になく今はだいぶマシにはなったが、体の芯に残るダメージは未だに多少なりとも思考と動きを鈍らせる。

 状態異常が効きづらく、重傷でも動けてしまう女神の使い魔の体が静かに悲鳴を上げている。

 そこに加えての黒騎士の破壊と脱落。

 その度合いは既にパーツ交換などでは補いきれない、きちんとした処置が必要になる状況の為に今の戦いにおいての復活は絶対的に望めない。

 対して相手は三体の青騎士の脱落を補って余りある戦力である謎の人型スライムの参戦に、今も続くメルトの射撃。

 こちらの戦力は順調に削られ、現状真っ当な戦力はアリアのみ。

 だがそのアリア自身も、増した負担に守り一辺倒の動きを強いられる。

 戦力的に相手が優位に立った以上、今のようにこちらが防戦一方にならざる得ないのも当然の話だろう。

 ヤマト達は今、相手の攻めを交わす事、そして閉ざした聖域への道を守り維持する事に注力している。


 (流れは不本意だけど、本来の役目に戻っただけの事だと思えば最悪ではないな。聖域側の仕事が終わるまで安全を確保する。……向こうにとっても時間稼ぎは望むところらしいのが、若干不安に思いはするが)


 こちらとしても本命が完遂するまで聖域側の安全が確保できるならば多少の不利や負荷は許容範囲だ。

 だが気になるのは、どうも相手側も時間稼ぎを望んでいる節があるところだ。

 無理をしない間合い。

 互いにそう簡単に決着を付けられる状況でないのは理解しているのだろうが、それにしてもあと一歩(・・・・)を踏み止まっている節がある。

 その一歩は確かに決着の好機でもあるが、無理に踏み込もうとすれば逆にそれこそが敗着の隙となる事もある。

 敵はその一歩を踏み込まず、代わりに一切の隙を許さず、安全圏を確保しながらこちらを抑える動きを、攻撃を繰り広げながら堅実に攻め守っているように見える。

 無理に勝たなくても負けなければ良い。

 時間が掛かる事を最初から許容した動き。

 ヤマト達を仕留める事よりも、こちらと同様に時間を稼ぎ、見知らぬ本命(・・)を達する事が向こうの大事であるのかも知れない。

 互いに時間を稼ぎたいのなら、この場は可も無く不可も無く状況は停滞する。


 (……どうあれ、こっちが攻め切れる状況で無いのは確かだ。二兎追う余裕が無い以上、肝心の一兎(本命)に尽力するしかない。二兎目は向こう(・・・)に任せよう。元々そういう話だったんだし)


 それがそもそもの役割分担。

 奪還に向かう冒険者組と、聖域組の目的完遂にあたる組。

 ヤマト達は後者であるにも関わらず、青騎士に組み込まれた下位精霊と敵の援軍として姿を現したメルトの姿を見て〔奪還〕に意識を寄せ過ぎていた。


 (別に向こうを信用してなかったって訳じゃないはずなんだけどなぁ……そう言われても仕方ないというか、こういうのを慢心とか調子に乗ったって言うのかな?なまじこれまで無理矢理や無茶が通ってたのも……いや、今はそんな反省会やってる場合じゃないな)


 反省は後回し。

 今は目の前の状況に注力。

 でなければその本命の一兎すら逃がしてしまうかもしれない。


 (……彼らは上級冒険者。ぽっとでの俺よりも日々を積み重ねて来た先輩たちのほうが何枚も上手のはずだ。二兎目は予定通り向こうに任せれば良い。未熟者()は目の前に集中してみせろ!)


 そう自分に言い聞かせ、自身の内側に響く小さな悲鳴を押し殺しながら、自身の役目に専念する。


 ――そしてその頃、その二兎目を追った冒険者組のもとで、事態はまた一つ変化していた。


 

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