136 強引突破
投稿遅くなりました。
現在不定期投稿が続いています。
「――ヤマト、無事?」
「大丈夫。だけど……これキリが無い」
操られたメルトと《青騎士》に対峙するヤマトとアリア。
その第ニラウンド。
相手は湖の小島の端に守りを固め、ヤマト達は湖のこちら側の湖岸付近で様子を伺っている。
戦闘に世界樹を巻き込まない位置にまでずれてくれたのは有り難いのだが、そもそも根本的な問題で攻めあぐねる。
「あの《結界》が堅すぎる。三騎分の複合や精霊を加味してもなお……何かタネがあるんだろうけど、何にせよこのままだと一方的にやりたい放題されるだけだ」
相手の取った布陣。
メルトを中心にして三騎の青騎士が三角に配置され、そして展開されたピラミッド型の《三点結界》。
こちらの攻撃は全て結界に阻まれ相手に届かず、逆に内側のメルトの放つ弓矢は、何の制約も受けずに壁を素通りしこちらに襲い掛かる。
今の間合いは弓使いであるメルトに有利と見える。
「結界は堅い。弓矢は弓矢の動きしてない。その上で無理をして来ないから隙が生まれづらい。向こうの方が余裕があるな」
「こっちが本気で攻められないの理解してるからなんじゃないの?」
相手はメルトと精霊。
助けようとしている相手と戦う羽目になっているのだから、必然的にある程度の加減が強要される。
多少は許容するにしても、やり過ぎて致命傷を負わせる訳には行かない。
結界をぶち抜くだけの威力のある、ヤマトお得意の高火力攻撃も相手を巻き込む可能性がある以上は安易には使えない。
「ところでさ、この状況…何か時間を稼がれてる気がするんだけど気のせいかな?」
「事実じゃない?まぁ向こうにも決め手がないってのもあるんだろうけど、本気で攻めにくるのならもっと雨あられが降り注いだり、少なくとも互いに今みたいな余裕を持ってられるような場合じゃないでしょうね。あれは私たちをこの場この状況に釘付けに出来るのなら、このまま倒しきれなくても良いって動きに見えるわ」
向こうの目的は分からない。
だけど完遂に必要なのが時間であるのなら、ヤマト達の干渉を一秒でも長く跳ね除ける為に一種の籠城戦を選択するのも分からなくはない。
正直ヤマト達にとっても、下手に藪を突いて聖域組の作業に影響が出るような何かが湧き出るかも知れないリスクを負いたくはない。
そもそもがこの場には足止めと守護が目的で残ったのだ。
本格的な救助は冒険者組に任せ、ヤマト達は聖域組の仕事終わりにその増援と共に本格奪取に移りたいところなのだが……
「だけどこの感覚は……むしろこっちは多少強引にでも状況を動かさないと駄目かな?」
「そうね。この嫌な予感、時間を追うごとにどんどん増してるわ」
だが今の時間稼ぎに付き合い続ける事で取り返しが付かなくなるという予感を二人は感じ、それが時間と共に増していく感覚がある。
それこそ最優先事項すら吹き飛ばしかねない何か。
その予感が二人を、状況に合わせて守りに徹しさせることを許さない。
「……仕方ない。ちょっと強引にでも攻めに行こう。せめてあの結界を割らないとどうしようもない」
「分かったわ。それじゃあ行くわよ」
共に駆け出すヤマトとアリア。
その後ろからは黒騎士も付いていく。
ヤマトは魔法で、アリアは水の精霊の力で、黒騎士は付与された機能で、それぞれの力で陸地から離れ湖の水面を地面と同様に駆けてゆく。
「矢が来た。守り任せた」
一団目掛けて降り注ぐ再びの矢の流星群。
アリアと黒騎士がしっかりと防いでいく。
そして手の空いているヤマトは、静かに機会を見計らう。
「二射目来るわ!」
「……距離良し!後詰め任せた!《短距離転移》」
二射目の流星群が放たれた直後、ヤマトの姿が一団から消える。
聖域結界による妨害の影響は〔指輪〕によって緩和されている。
だが影響がゼロと言う訳では無い。
《短距離転移》は転移可能距離の減衰が確かに影響として残っており、それゆえに使い所が限られていた。
だが現在、強引な直線突破にて足りない距離を穴埋めし、尚且つ相手は大きめの攻め手を放った直後。
ヤマトはその隙に距離を一気に詰めた。
出現したのは湖を越えた小島の陸地。
《三点結界》の境界の目前である。
「ふぅ……《極・火炎弾》」
放って即着弾のゼロ距離の魔法攻撃。
力技で結界を割に行くヤマト。
だがまだ割れない。
「《全弾全力・短刀射出》」
結界の境界面に、数十の短剣も干渉する。
高威力による多重干渉。
いくら強力な結界であれど、いつまでも耐え続けられるものではない。
「《極・火炎弾》!」
更なる追撃。
ここまでしてようやく結界にひびが入った。
だがその時――
「くッ!?」
一瞬で割りに行きたかったヤマトだが、予想よりも時間が掛かった為に矢による反撃を許してしまった。
隙のある腹部に着弾する矢が、ヤマトを後方へと大きく吹き飛ばす。
「……アリア!」
「はあああああああああ!!」
だが、飛ばされたヤマトと入れ替わりに、湖を越えて来たアリアの拳が結界にぶつかる。
そしてようやく結界が割れる。
「……《三連・雷槍》」
飛ばされ地面に転がったヤマトだが、それでも追撃の手は止めない。
狙いは青騎士。
結界崩壊の反動で膝を地に付けた三騎のゴーレムの頭部を、ヤマトの魔法が的確に吹き飛ばした。
「黒騎士!」
残るはメルト。
既に次の射を構える彼女に、黒騎士が盾を構えながら飛びつく。
すぐに放たれた矢は黒騎士の盾を砕き換装したばかりの左腕を貫通するが、盾と腕を犠牲に胴体は守り切った為攻撃の手は止まらない。
そのままメルト目掛けて、黒騎士の峰打ちが迫るその時……
「この娘はまだ返せないんだよ」
ヤマト達に気取られず、この攻防に突如割り込んだ存在。
彼がメルトの前に立ち、黒騎士の剣をはじき返した。
そしてそのまま蹴り飛ばし、黒騎士も大きく吹き飛ばされる。
「全く、厄介なやつばっかりだな。こんなに早く小島への上陸を許すなんて。向こうと違ってこっちの青いのは結構出来が良いはずなんだけどな」
等と呟く男。
ヤマトの《鑑定眼》はその正体を見抜く。
「……その姿でスライムなのか?」
「まぁ事実なんだが、流石にスライム程度と同種には思われたくないな。俺を呼ぶなら【ニック】と呼べよ。種族じゃなく個人名で呼び合うのが知性体の基本だろう?」
ニックと名乗った男の正体。
人の姿をしていながら、人では無い【キメラスライム】と言う初めて聞く魔物の名。
「さてと……それじゃあちょっと大人しくしてて貰おうか」




