134 青騎士と流星
「――ヤマト!新手!」
「黒騎士と《妖精人形》が向かってる」
〔聖域〕にて《神降ろしの儀式》が開始されたその頃、世界樹の空間に残ったヤマトとアリアは、対峙するネクロマンスの殲滅は済ませ、残るキマイラも数体程度と既に底が見えていた。
だがそんな状況で新たにに出現したのが三体の青いゴーレム。
《白騎士ゴーレム》と異なる色や形状から、黒騎士の様な強化型である可能性を考慮して、即座に黒騎士と、向こう側に行かせた残る二機の穴埋めとして作り出していた《妖精人形》四機を向かわせた。
「俺らも残りをとっとと倒して向こうを……アリア」
「どうしたの?こっちは片付いたわよ?」
「あの青いの、何が仕込んである?」
ラスト一体のキマイラとなった潰したアリアは、ヤマトの言葉で青騎士に視線を向ける。
そしてヤマトの困惑の理由を理解する。
「……下位精霊。妖精人形の精霊版みたいな使い方をしてるみたいね。下位とはいえ自我はあるはずだからそう簡単に行くはずないんだけど……これも変革派の研究成果の一つなのかしらね?」
二人が認識した青騎士の概要。
まず機体そのものは量産型の白騎士の強化版である事は動きから間違いないだろう。
その上でプラスワン。
ヤマト達の《妖精人形》のように、ゴーレムに下位精霊を憑依させることで全体の底上げを行っている様子だった。
「……」
静かに感情を昂らせるアリア。
変革派エルフ達の研究成果であろう〔精霊の軍事利用〕の成果を目の当たりにして、精霊が好き勝手利用されている姿を見ればそうなるのも当然だろう。
そして何かを探るように研ぎ澄ます。
「……聞こえた。あの子達の声。望まぬ状況だって事は把握出来たわ」
「声?ごめん聞き逃した」
「あぁ大丈夫よ、純粋な発声って訳じゃないから聞こえなくて当然。まぁ融合状態ならヤマトにも聞こえてたと思うけど」
「そうなのか。と言う事は…遠慮なく引き剥がしていいんだね?」
「勿論」
「それなら――アリア、防御!!」
その時、世界樹の枝で何かが光り、複数の流れ星がヤマト目掛けて放たれた。
恐らくは新手の攻撃。
すぐさま二人は防御行動を取る。
「くッ…間に合った!」
共に魔法防御にてその流星群から身を護るヤマトとアリア。
その他の、地面に着弾した流星は地面を大きく抉り、放置されていたキマイラ達の死骸を容赦なく粉砕していった。
「次は――向こうか!」
敵の第二射目。
それはヤマト達を狙ったものではなく、湖岸にて競り合う黒騎士達を狙ったものであった。
そしてその直前に三機の青騎士は後退していた。
「青いのが退いた、連携してるみたいね」
「妖精人形が」
二度目の流れ星の的となったゴーレム達。
直前に退いた青騎士達は勿論被害は無し。
対してこちらは回避の遅れた妖精人形が全て直撃。
唯一無事なのが黒騎士だったのだが……。
「……速い!?」
先程までの流れ星とは異なり、たった一矢最速の矢が黒騎士に届く。
その速度で来る可能性を考慮していればギリギリ反応も出来なくはないだろうが、完全な不意打ちとなった一矢は避け損なった黒騎士の左腕を奪って見せた。
その直後の二矢目。
「――《氷壁》!」
二矢目の最速の矢は、辿り着いたアリアが展開した氷の壁で受け止めた。
先程の流れ星と異なり、速さは高いが威力は落ちているようなので問題なく防げた。
その間に体制を立て直した黒騎士。
そしてこちらの反撃。
「《五連/暴風弾》!」
ヤマトの魔法。
流石に四度も見せられれば狙撃手の位置も把握できる。
黒騎士とアリアから少し離れた位置から、後衛の魔法使いとしての役目を放つ。
更なる追撃をさせないためにも、世界樹の枝に潜む狙撃手に向けてこちらの最速弾を差し向ける。
「……」
世界樹の葉に姿を隠して居た狙撃手は、迎撃よりも回避を選んだようで狙撃地点を放棄して地上に向かって飛び降りる。
ヤマトはそこを狙う。
「《暴風集束弾》」
所謂着地狩りの一撃を放つヤマト。
だがそれは青い盾に阻まれた。
「……もう湖を越えたのか。速いし堅い。だけど砕けない堅さではないか」
いつのまにやら湖を越えて小島に上陸していた三機の青騎士が、狙撃手を守る盾となりヤマトの着地狩りを防いだ。
だがその一撃で感じたが、少なくとも盾の性能は青騎士よりも黒騎士の方が上のようだ。
「前衛に三機のゴーレムで自身は後衛。ヤマトと同じ布陣ね」
「まぁどこも考える事は同じって事でしょ。前衛役を任せられる程のゴーレムがあるのなら尚更ね」
戦闘が一段落つき、互いの手が止まった所でヤマトはアリアのもとに合流した。
そして左腕を破損した黒騎士に触れる。
「《左腕/パージ》」
破損した左腕が肩の接続部から外された。
そのままヤマトの《次元収納》に納められ、代わりに無傷な左腕が出現する。
「《左腕/セット》」
《次元収納》から直接宛がわれた〔新品の左腕〕が、ヤマトの言葉で黒騎士の胴体に嵌めこまれる。
その間わずか十秒足らず。
基部となる胴体以外、特に四肢は大量の予備パーツがヤマトの《次元収納》に納められている。
正に《次元収納》様々の運用であろう。
「便利なゴーレムね。その分随分とお金が掛かってそうだけど」
「財布と貯金がやばいので、全部片付いたら冒険者業再開しないとヤバイです」
「そうね。けどその前に……」
「あぁ、そうだね。今は目の前のメルトさんをどう救い出すかが問題だね」
二人の見つめる先は、湖を挟んで対峙する敵の狙撃手の姿。
その長い髪がポニーテールのように纏められている事と、服装・装備も本来の物とは異なる為に元の印象とはだいぶ違って見えているが、その顔は確かに二人が知る人物。
【メルト・ウォルス(人族/弓使い:"鷹の目")〔自我封印状態〕】
《鑑定眼》が肯定し、それが攫われたはずのメルト本人である事を証明した。
「ロドムダーナで敵に操られてたって言う〔そよ風団〕の三人と同じような状態かしらね?」
「かもね。タケルの話だと実力以上に引き上げられてる節があったって事だから、元が勇者パーティー級のメルトさんだとかなり厄介だ。しかも弓がアレな訳だし」
先の狙撃に使われた弓。
それはメルトと共に奪われた〔神域宝具〕の一つ。
【覇弓 サントラ/神域宝具(三番)〔制限稼働状態〕】。
自我が封じられてる為か制限が掛けられているが、それでもそこらの弓よりも格段に脅威度が上がる。
「さてどう対処したものか……この様子だと冒険者組も一筋縄じゃ行かない状態になってそうだな」




