13 殴り巫女と賢者の料理
「知らない天じょ――」
「それはもういいから」
ヤマトの言葉はタケルによって遮られた。
屋敷に用意されていたヤマトの部屋のベットで目を覚ました。
「状況は分かるか?」
「……俺がやらかしたって認識はバッチリある」
女性が着替え中の脱衣所に乱入する形となったのだ。
やらかし以外の何物でもない。
「ちなみに死にかけたって認識はあるのか?」
「……猛烈な拳を食らった記憶はあるけど、え、なに…死にかけてたの?」
確かに血を吐いた記憶はあったのだが……
ヤマト自身の体を調べてみるが、傷も痛みも見当たらない。
《治癒》された後のようだ。
「あの…大丈夫ですか?」
タケルの背後から恐る恐る顔を出す被害者のフィル。
タケルに完全に隠れていて気付かなかった。
「はい大丈夫です。そして……ごめんなさい!」
ヤマトはベットの上で正座をし、頭を下げる。
「――あの、いえ、こちらこそやり過ぎてごめんなさい!とっさにあんな威力が出るとは思わず、その…本当に殺しかけてしまいました……」
「騒ぎを聞いて駆けつけてみれば、死にかけのヤマトと半泣きで治癒してるフィルが居て、本当に何が起きた?って思った」
第三者視点だと、過程が全く分からない図だ。
「それに…〔殴り巫女〕の手加減無しの拳を無防備な状態で受けてよく即死しなかったな」
「その呼び方を広めるのやめてくれませんか……」
「言いだしたのも身内に広めたのも俺ではないし、もう少し名が認知されるようになれば《鑑定》にも反映されるかもな」
「本当に…言いだしたの誰なの……」
〔殴り巫女〕はフィルの二つ名らしい。
ちなみに二つ名の名付け親は姉である。
支援または後方職の巫女でありながら、巫女としての歴代最高の力を自身への強化に充てる事により一線級のパワーファイターとしても戦えるらしい。
ただ本職が後方支援のため滅多に使う事はないらしいのだが、今回はとっさの反射行動で無意識で全力に近い力を発揮してしまったという。
本当に良く生きていたものだ。
「……それで、お前らはいつまでそれを続けるつもりなんだ?」
その後大体二十分程、ヤマトとフィル両名による謝罪合戦が繰り広げられることになったのだが、終わりの見えない状況に痺れを切らせたタケルが強引に締めた事によって手打ちとなった。
「――ヤマトさん。絶対に思い出さないようにしてくださいね?」
「はい。了解しました!」
そしてその日の夕食。
「カレーだ」
「カレーですね」
「カレーですよ」
ヤマトと撫子にタケル・フィル・シフルの勇者一行。
五人の食卓にはカレーライスが並んでいた。
「こっちにも米があるのか?」
「生産量は少ない上に輸送の経費もあって高いが、一応ある」
「カレーは…ルーとかではなくスパイスから作っているみたいですね」
このパーティーの料理担当は意外にも賢者のシフルさんらしい。
「薬草や魔法薬の調合に比べれば料理はシンプルだからねー。それにエルフは寿命が長い分、学べる時間が人よりも多いってのもあるし。自分で言うのも何だとは思うけど、だから割と技能は多彩だと思うよ?」
要するにエルフゆえの年の功というやつのようだ。
何歳なのかは教えて貰えなかったが、確実に年上ではあるだろう。
少なくとも百は超えているのだろうか?
「――女性の歳の事を考えても、ロクな事にならないわよ?」
シフルさんは笑顔なのだが……目が怖い。
その通りロクな事にならなそうなので失礼な思考をさっさと外に追いやった。
ちなみに異世界のカレーライスもとても美味しかった。
そして多めに作ったために余った分は、ヤマトの《次元収納》に収まった。
魔法袋と違い、収納した物は時間が停止するため腐らない。
若干撫子からの「独り占めするんですか?」的な視線が気になったが…気付かない振りをしておく。
「いや、撫子は俺らと一緒に城に来るんだから、空いてるときはシフルさんに頼めば作って貰えるだろ」
つまり撫子は、カレーを食べようと思えば大体いつでも食べれる環境になる。
ヤマトのように今あるものに固執する必要もない。
ところで撫子のその勝ち誇った表情は何なんでしょうかね?
本日はもう一話上がります。




