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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
聖域騒乱/世界樹に眠るモノ
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130 か細い糸



 「――あれ、ここは……」

 「あ、起きましたね。おはようございますナデシコさん」


 魔力回復薬を飲み、休んでいたナデシコが目を覚ました。

 目覚めたナデシコが最初に目にしたのはティアの顔。

 そして次は……


 「お、起きたのか。おはようナデシコ」

 「ヤマトさん?」

 「うん、久し……ちょッナデシコ!?」


 ヤマトの顔を見るなり目から涙が流れ出すナデシコ。

 戸惑いを見せるヤマトに構わず、ナデシコは言葉を漏らす。


 「ヤマトさん。シロと…メルトさんが……」

 「その事か、俺の顔見るなり泣くからびっくりしたよ。確かに不安だろうけど大丈夫だよ。シロもメルトさんも助けに行くから」


 急な戸惑いも去り、真面目な笑顔でそう答えるヤマト。

 そしてナデシコに手助けを請う。


 「それで、お目覚め早々に大変だと思うけど、ナデシコにも手伝って欲しい事があるんだ」

 「……分かりました。何をすればいいんですか?」


 涙をぬぐい立ち上がるナデシコ。

 ヤマトの助力に内容も聞かずに賛同する。


 「今、メルトさんの現在位置をピピ(先輩)が探ってる。だけどそれで見つけられるのはあくまでもメルトさんの位置だけなんだ。シロも同じ場に居るのならそれでも問題は無いんけど、違う場合も想定してシロ自身の現在位置も把握しておきたいんだ。その為にナデシコの手を貸してほしい」


 現在ピピは手持ちの魔法具を用いてメルトの場所を道具と睨めっこし必要の無い念を送りながら探り続けている。

 あの魔法具は賢者シフル製で勇者パーティーの全員が一つずつ所持している。

 用途は一種のGPS端末。

 現在位置を仲間に知らせたり、探知したりとはぐれた者同士を見つける目的で持たされていた代物らしい。

 それを用いてメルトの居場所を探しているが、とは言えここでは《聖域結界》の付加効果の影響でその機能も減衰し使い物にならなくなるはずであった。

 だが実はアレにも〔抗結界の腕輪〕のような妨害への対抗処置がエルフの改造によって備わっている。

 本当はピピ自身にも腕輪を持ってほしかったのだが、量産にかなりの時間が掛かる事と、そもそもピピ自身には妨害による悪影響が他よりも少ない事から、必要な機能に絞った簡易版が道具そのものに組み込まれた。

 フィルとの合流用の備えであったが、今はメルトの位置を探る可能性のある唯一の手段だ。


 「具体的には何をすればいいんですか?」

 「ナデシコさんは、ただシロさんの事を考え想い続けてください。そうすればその僅かな繋がり(・・・・・)を辿る事が出来る可能性があります」

 「繋がり…ですか?」


 ティアの言葉に首を傾げるナデシコ。

 本来、精霊契約の結ばれていないナデシコとシロの間には、ヤマトたち契約者のような回線・繋がりは結ばれていないはずである。

 だが今のナデシコには、蜘蛛の糸のように細くはあるが確かにシロとの繋がりが存在している。

 

 「あくまでも憶測ですが、恐らくはシロさんが攫われる時に意図してなのか偶然なのか契約未満(・・・・)の繋がりが生まれたのでしょう。今のナデシコさんには微かなでか細い糸ほどの繋がりが存在しています」


 変貌したエルフの案内人。

 エルフと思っていた存在にメルト・アイドム・シトラスを倒され、ナデシコの抵抗も全く通用せずにシロを奪われたというその時。

 ナデシコと離れたくないシロの想いか、シロを攫われる事を拒もうとしたナデシコの想いか、明確な理由こそは分からないが、その際に生まれた繋がりなのではとティアは想像した。


 「その細く僅かなか細い繋がりを辿り、シロさんの居場所を特定します」


 可能か不可能かで考えるなら、一応は可能な案ではある。

 ただし正式な精霊契約に基づく繋がりでは無い為、無理をすれば簡単に途切れる。

 実際に辿り着けるかは正直やってみなければ分からないが。


 「シロとの繋がり……分かりました、お願いします」


 それでも可能性があるならばやらない手はない。

 三人はティアの指示で手を繋ぐ。

 ヤマトの右手はナデシコと、左手はティアと繋ぐ。

 そしてナデシコとティアの開いた手は互いに繋がれる。

 三人でトライアングルが生まれる。


 「ナデシコさんはとにかくイメージを、シロさんの事だけを考え続けてください」

 「俺はとにかく余計な事をせずに体を委ねていればいいんですよね?」

 「はい。ヤマト君は今回は変換装置(・・・・)です。私の力をいきなりナデシコさんに送るのは少々刺激が強いので、ヤマト君の体を通して調整します」


 変換器であり緩衝材。

 女神の使い魔としてティアの力を受け入れる器があり、元日本人としてどちらかと言えばナデシコに近い魂の波長を持ち、精霊融合の経験者として精霊の力に適合しているヤマトの存在は、送る側受け取る側どちらにとっても合わせやすい間役だ。

 ティアはヤマトを指標として調整した力を、そのままヤマト経由でナデシコに流し込み、ゆっくりと繋がりを辿ってゆく。

 その手応えや進捗の情報は繋いだ手を通してナデシコからフィルに伝わる。


 「そう言えば…アリアさんは居ないんですか?」

 「アリアはちょっと別件(・・)。詳しくは後でね」

 「さてお二人とも、心の準備は整いましたか?」

 「はい」「出来てます」

 「それでは早速始めましょう……《同期接続(シンクロ)》」


 そして始まる探索。

 三人は静かな世界に隔離される。

 

 (……ナデシコ。やっぱり焦ってるな)


 ただひたすらにシロを想うナデシコ。

 シロを心配し、そして焦る気持ちが握った手から如実に伝わる。

 だが言葉は掛けられない。

 今の集中を乱す訳にも行かないのは勿論、その焦りや不安も全てはシロへの想いに繋がっているのだから今は拭う訳には行かない。


 (……頼むから辿り着いてくれ)


 細い糸を雑な扱いで切らしてしまわぬように慎重に辿り続けるティア。

 周囲の音はとうに聞こえなくなっている。

 気付けば既に時間の感覚もなくなっている。

 始めてどれだけ経ったのか。

 分からないまま時間は確実に進み続け、そしてとうとうティアは辿り着いた。 


 「――来ました!見つけました!!」

 「来たぁー!!」


 それはほぼ同時。

 集中が解け現実に意識が帰還したヤマトの耳にも聞こえた。

 ティアとピピの両方から目的を達した声が上がったのであった。

 ヤマト達はメルトとシロ、両方の居場所を知る事が出来たのであった。



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