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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
異世界騒動/それぞれの旅路
132/275

127 会談と襲撃

新年明けましておめでとうございます。

遅くなりましたが、新年初更新になります。

今年もよろしくお願いします。



 「――どうやら会談が始まったようです」

 「そうか。巫女の周りは?」

 「エルフ(こちら)側が長老含め三名、隣室に一名。あちら側は総員八名の内、会談の場には巫女を含めて四名。残る四名は隣室にて待機のようです」

 「そうか……捕獲対象の姿は?」

 「まだありま――連絡来ました。西地区です!〔監視者〕と繋ぎます!」


 この部屋の中央に設置された水晶玉。

 そこから壁に向けて放たれる光が映し出すのは、彼が〔監視者〕と呼んだエルフの視界。

 言うなればカメラとプロジェクターのようなシステムが、この里には存在していた。


 「……間違いないな。あの時のガキどもだ」


 そこに映し出された二人の人物。

 その姿を見てこの場の責任者であるフールは笑みをこぼす。


 「ようやく巣穴から出てきたか。進行先はこの塔(ここ)で間違いないか?」

 「方角的にはそのようです。まっすぐ一直線に向かっています」

 「慌ててなりふり構わず来たか。ふむ…どうやらあの巫女は囮として成立したようだな……貴方の情報通りだ」

 「お役に立てたようで何よりです」


 いつものように微笑む謎の商人。

 彼が来客である巫女の一行と、精霊を連れた者達の関係を見抜いた為に、こうして餌として利用する事が出来た。


 「《白騎士》の準備は?」

 「既に完了しています。塔の下層を中心に、全階に配備し待機中。塔の包囲の準備も万端です」

 「なら良い。《白騎士》は高価だが所詮は金でどうにでもなる量産品だ。出し惜しみはするな。我らの(・・・)目的のためには精霊の確保が何よりも優先される。餌への荒事も許可するから絶対に目標を達するぞ!」

 「分かっています」


 そんなお得意様の様子を後ろで眺めている商人は、その本音を読み取り、心の中で密かにほほ笑む。


 (我らの目的…ですか。確かに彼らもこの男も、共に精霊を求めている事に変わりはない。だがその使い方(・・・)はそれぞれに異なる。はてさてどこまで続きますかね?)


 さながら茶番劇を眺めるような商人の視線。

 その眼は商売相手に向けるべき目ではないだろう。


 (まぁこちらとしてはどう転んでも得しかないので良いのですが。……それはそれとして、私の方は彼らの気付いていない得物(・・・・・・・・・)を狙うとしましょうか)



 


 「――お手間を取らせて申し訳ありません。本来であれば巫女様の申し出である以上はこのような手順も不要とすべきなのですが、この頃は外も内も些か騒がしいゆえ、要らぬお手間を取らせてしまいました」


 会談の場、巫女であるフィルに頭を下げるのは、このエルフの里の長老。

 ただし最年長者の長老とは言えども、不老種族であるエルフ族である以上はその見た目もさほど老けては居ない。

 人に照らすなら精々が三十代後半から四十代前半ぐらいの姿であろう。


 「お気になさらずに。そちらのお役目を鑑みれば当然ですから」


 〔聖域〕の管理を任されているエルフ族。

 彼らには彼らの使命と責任があり、例え相手がより上位の権限を持った巫女であろうともその資格を確認するまではおいそれと通す訳には行かない。

 ゆえにこの場の会談のほぼ全ては、巫女が本物であるかどうかの見極めの為の場であると言っても間違いではないだろう。

 そしてその結果エルフの長老は、目の前の少女を本物の巫女であると認定した。


 「それでは早速ですが、〔聖域〕の入り口までご案内しましょう。シール、向こうに連絡を」

 「畏まりました」


 長老の側付きの男が、設置型の伝信道具で何処ぞに連絡を取る。

 このエルフの里にある内部連絡網は、里の外の技術水準よりも少しばかり高い。

 それゆえか、ナデシコ達に言わせれば固定電話とも呼べる伝信装置もこの場には備え付けられており、それを用いてシールは連絡を取ろうとする。

 だが……


 「長老。繋がりません」

 「故障か?」

 「分かりません。他所への繋がりも途絶えているようでして」


 だがその装置が使えないようだ。

 そして異変はそれだけに収まらない。


 「長老!扉が開きません!」


 もう一人の側付きの男が、部屋の扉に手を掛けるもビクともしない。

 レイシャも扉に近づき確認するが、やはり結果は変わらないようだ。


 「長老様、これはどういうことでしょうか?」

 「……申し訳ありません巫女様。どうやら馬鹿者どもが本格的にやらかし始めたようです。シール!サール!扉を壊しなさい!!」


 長老の指示は強行突破。

 物理的に扉を破壊してでも、この閉じ込められた状況を打開しようとする。


 「合わせるぞ…せーの!!」


 そして二人により蹴り破られた扉。

 密室は解かれ、廊下への出入り口が出来上がった。


 「まずはこの部屋を出ましょう、巫女様方。お隣の皆様の安否も心配です」


 そして一同は急ぎ部屋を後にした。

 だがそこには――


 「……あの馬鹿共。外敵から皆を守る為と豪語し導入を強行した人形を、よりにもよって内側に、しかも巫女様方の居る場に向けおってからに!」


 あからさまに怒りをあらわにする長老。

 廊下に出た一同の視線の先に待っていたのは、左右の道の先から駆け寄って来る真っ白な騎士甲冑を纏った大量の《ゴーレム》であった。


 「長老、これは?」

 「最近守りとして導入し始めた騎士型ゴーレムです。我らエルフは長命ゆえに繁殖能力に乏しい種族ですから、一人一人が優れていようとも根本的に数のゴリ押しに弱いのです。その数不足を補う防衛装置として導入を決定したのがこの《白騎士ゴーレム》なのですが……」


 怒りから複雑な表情に変化する長老の顔。

 だがその中でも白騎士達はこちらへと向かってくる。

 そして先頭の一体が真っ先に跳びかかって来た。


 「シール!サール!」


 その初撃を、長老の側付き達が華麗に弾く。


 「あの馬鹿共…これだけハッキリと害意を見せられれば、最早遠慮も要らんだろう…壊して構わん!巫女様方の安全を第一に粉砕せよ!!」

 「「はい!!」」


 本格的に始まってしまった内輪揉め。

 だがその牙はフィル達にも向けられる。


 「流石にお二人では数が足りないようですね。ロンダートさん!お願いします!!」

 「了解です!――どりゃあああああ!!!」


 どうやら白騎士は、そこらのゴーレムよりも格段に優秀な性能のようだ。

 タイマンであればどうと言う事のない相手ではあるだろうが、次々に向かってくるその物量に側付き達も些か押され気味のようだ。

 その為フィルの指示で、護衛役のロンダートも戦いに参戦した。


 「私達はこっちの部屋を、ナデシコさん達と合流しましょう」

 「はい!」


 残る女性陣は隣室の扉の前に立つ。

 だがこちらも当然開かない。


 「フィルさん」

 「はい。離れてください――そぉれぇッ!!!」


 フィルの拳に魔力が凝縮される。

 久々の"殴り巫女"の一撃。

 不意打ちとはいえヤマトに一撃で重傷を与えたその拳が、扉に向けて遠慮なく放たれた。

 強固に閉ざされていた扉とはいえ、先のように二人の力で破る事は出来たのだ。

 当然この扉も木っ端微塵であった。


 「これは……」


 そうして開かれた扉の向こう。

 既に戦いの傷跡が残る場所。

 床に倒れる者たち。

 だが人数が足りない。


 「フィルは二人の治癒を。私はナデシコさんに」

 「はい」


 傷つき倒れるアイドムとシトラスに向かうフィル。

 対して指示を出したティアは、魔力枯渇の状態で壁に体を預けるナデシコのもとに駆け寄る。


 「……深手は無し。必要なのは魔力ですね。ナデシコさん、飲めますか?」


 取り出したのは魔力回復薬(ポーション)

 外部から補充する、魔力枯渇のシンプルな対処法だ。

 だがナデシコにはそれよりも伝えるべき事があった。


 「メルトさんと……シロが……」


 この場に居ない存在。

 弓使いのメルトと、小さな精霊のシロが、居るはずのこの場から消え去っていた。

 


 

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