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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
異世界騒動/それぞれの旅路
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125 誘う餌/気配と予感


 「――新しい機材や素材はどうだ、ラット?」


 広い空間に用意された品々。

 そしてそれらをチェックするエルフ達。

 その中の一人であるラットが答える。


 「全く問題ありません。むしろ素材に関しては、どれも以前の物よりも質の良い物ばかりですね」

 「ちょうど良い出物がありましたので、ご予算の範囲内でより質を以前の物よりも上げる事が出来ました。御満足頂けたようでしたら、商売人名利に尽きると言うものです」


 ここはエルフの里の〔塔〕の中。

 先の一件により呼び寄せられた精霊どもに破壊された設備は放棄され、新たにこの階層にて稼働し始めようとしていた。

 この場の責任者である〔人神教〕のフールは、エルフ族の部下であるラットを筆頭に、数名の部下たちに指示を出していく。

 そんな様子を、この場の設備のほぼ全てを手配した〔謎の商人〕は満足そうに見つめていた。

 だがふとした瞬間、その質問を口にする。


 「ところで……例の精霊達はまだ捕まらないのですか?」


 商人の問いに、フールは表情を曇らせる。

 破壊された施設から逃亡を許してしまった人間と精霊達。

 その行方は未だ掴めない。


 「……あぁ。手掛かりを辿ったが上手く撒かれてしまい、完全に見失った。どうやら主流派共が囲っているようでな、一度本格的に隠れられた以上は、一朝一夕に見つけられるほど甘くはないだろう」

 「それは残念ですね。目的を成すにはちょうどいい質と量の精霊達であると思っていたのですが……それならば私もお手を貸しましょうか?」


 そう提案する商人。

 どうやら彼には宛てがあるようだ。


 「何だ?今度はどこぞから代わりの精霊でも調達してくるのか?」

 「ご依頼とあればそれもお受けしますが、その為にご提示する金額も期間も、今の状況では現実的ではないでしょう。多少であればまだしも、過度なご負担を強いるお取引のご提示は本当の最終手段として取っておくべきでしょう。今はそれよりももっと簡単な方法がありますから」


 そこで無理とは言わない辺りが些か異質さを感じる。

 これが見栄や虚言であるなら分かりやすいのだが、この商人は本気で依頼すれば必ずこなしてしまう事を、フールは理解している。

 勿論難易度により必要な対価も跳ね上がるのだが。


 「……では、その方法とはなんだ?」

 「本当に簡単な事ですよ……ちょうどよい()が向こうからやって来たようですし、隠れ家から誘き出す(・・・・)のはとても簡単だと思いますよ?」






 

 「――結局朝になっちまったな。目的地もすぐそこ…だってのに入る事も出来ずに、門を目の前に野営で一夜を明かすとはな」


 翌朝の精霊組。

 見張り役であった冒険者のアイドムはつい愚痴を零す。


 「仕方ないですよ。無理に押し通そうとして要らぬ騒動を起こす事になっても面倒なだけですから……はいどうぞ」

 「おお、助かる…温ったけぇな」


 温かい飲み物を差し出すロンダート。

 エルフの里は大森林の中に存在する。

 森の中で迎える朝というのもあるだろうが、それに加えて些か天候も傾いている為か、今朝は冷える朝だ。


 「……ここが、エルフ族の里なんですね」

 「まぁ今の俺らに見えるのはデカデカとした門と外壁だけだがな」


 二人の眼前にあるのは、エルフの里を囲う大きな外壁と、唯一の出入り口でありながら閉ざされている大きな門のみ。

 当然肝心の里の中など見えるはずもない。


 「――申し訳ありません。このような場所でお待たせしてしまいまして」


 そんな二人に声を掛けて来た存在。

 それはエルフ族のシラハであった。 

 

 「確か…昨日の隊長さんか」

 「改めまして、シラハと申します。こんな朝早くにご迷惑かとも思いましたが、皆様に朗報と呼べるご報告がございます」

 「朗報……つまりは中に入れるって事でいいのかい?」

 「はい。もう少々準備にお時間を頂きますが、皆様を招き入れる許可が下りました」


 エルフの里は現在いざこざの最中。

 だからこそ外部の者達を招き入れるのを良しとするのかどうかという話し合いが、その決定権を持つ者達で交わされた。

 そして今、こうして朗報が届けられたのだった。


 「ですが、先にも申した通り皆様を受け入れる為にもう少々お時間を頂きたいのです。要らぬ事故を招かぬように里全体に客人の来訪を周知させなければなりませんし、お通しするお部屋や、有力者の方々の間での示し合わせなど……その為、実際に御案内するのは日が昇ってから、時間としては朝食を終えてからになると思います」


 要らぬ事故を避けるための準備。

 安全のための準備が必要と言うのなら、こちらを急かしてあちらを急かすような真似をする必要もないだろう。


 「分かりました。その話もきちんと伝えて――」

 「大丈夫ですよ。全部聞いてましたから」


 そこに加わって来たのは、彼らの雇い主の一人である少女ティアであった。


 「おはようございます皆さん。そして御助力頂きありがとうございます、シラハさん」

 「いえ、このようにお待たせする事となってしまいまして申し訳ありませんでした」

 「急に押しかけてしまったのですから仕方ありません。そちらにとっても必要な手順や時間がおありでしょうから、しっかりと準備を整えてください」

 「そう言って頂きありがとうございます。――それでは、全ての準備が整いましたら再びお声がけさせて頂きますので、この場は失礼させていただきます」


 そうしてシラハは挨拶を済ませて、ゆっくりと門へ戻り、関係者用の通用口を通り、そして里の中へと帰って行った。


 「……ティアさん、どうかしましたか?」


 里の中へと帰ったシラハの姿が消えた後も門を見つめ続けるティア。 

 その様子を見たロンダートが、思わず声を掛ける。


 「……いえ、少し気配(・・)を感じまして」

 「気配ですか?」

 「ええ。少し面倒が起こる可能性が上がったのかなと…ですがその話は、皆さん揃ってからにしましょう」


 ティア達の背後。

 女性陣のテントからは、一人二人と着替えを終えた者達が出て来る。

 起床の時間にはまだ多少早いが、既に目を覚ましていたようだ。


 「……これも相変わらずと言うべきなんでしょうかね?まぁ無事だったのなら良かったですけど、お兄ちゃん」


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