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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
異世界騒動/それぞれの旅路
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124 目前の足止め



 「――おかしいですね」


 目的地を間近にして、その異変に気付いたのは女神の分体ティア。

 ゴールが近づく度にその感覚は強くなる。


 「どうしたんですか?」

 「里の……目的地である〔エルフ族の里〕を覆う《結界》が、どうも最大稼働しているようなんですよ」


 エルフの里には聖域組の目指す〔聖域〕が存在する。

 そして〔聖域〕に存在する防衛装置の中には、〔聖域〕の基本的な守護を任されている〔エルフ族〕の里ごと丸々覆う《聖域結界》も存在する。

 普段であれば通常稼働でもそれ相応の性能の結界であるはずなのだが、ティアの感じ取る気配では、どうもその《聖域結界》が最大性能で稼働し続けているようなのだ。


 「それって何かおかしいんですか?守りって固いに越したことはないと思うんですけど……」

 「ナデシコさんの言う通りです。最大稼働の状態を永続的に維持できるのであればその方が良いに決まっています。ですが、あの場の《聖域結界》はとある事情で自前では最大稼働状態を維持し続ける事が出来ないのです」


 ティア曰く〔聖域〕の維持に必要な燃料、つまり魔力は〔聖域〕に正式に接続された〔龍脈〕から汲み上げられてる。

 つまりは《聖域結界》に必要な魔力も〔龍脈〕から賄われているのだが……


 「エルフの里には〔聖域〕の他に〔世界樹〕が存在します。龍脈の魔力で育つ世界樹ですが、元からあったものではなく株分けされた枝葉を後付けでこの場に植えたものの為、本来はあるはずの世界樹用の龍脈供給ラインが用意されていないのです。ですからその生育に必要な魔力は、〔聖域〕用の龍脈から分けて貰っているような状況なのです」


 だがその一本のラインだけでは、その両方に必要な魔力を十全に汲み上げる事は出来ない。

 その為世界樹のほうは本来の規模よりも幾分か遅い成長で、本命の〔聖域〕は通常稼働に必要な分のみしか魔力を確保できない状況であるらしい。


 「つまりは《聖域結界》を最大稼働させる為には、〔世界樹〕への供給を完全に止めてしまうか、龍脈以外から魔力を確保するしかないのです」

 「その世界樹への供給を止めてしまうのは、何かマズイ事なんですか?」

 「そこはまぁ普通の生物や植物と同じで、断食が長くなればなるほどに弱っていく事になります」


 それを認識した上での大前提。

 エルフ族にとっての世界樹は、精霊信仰以上に大事で絶対のもの。

 自分達の存在を象徴するものであり、自らに危機が及んでいるからと言って蔑ろにすることは無い。

 むしろ世界樹を守るために自らを犠牲にしてしまう事も多い。

 つまりは世界樹への魔力供給を停止してまで、《聖域結界》を最大稼働させることなど基本的にはあり得ないのだ。


 「なので魔力は外部の何かしらから供給して最大稼働を維持しているのだと思いますが……自前でその量を賄うとなると相当な負担になるはずです。それをしてまで最大稼働させる必要があるほどの理由が今、あの里では起きて――」

 「すいません、馬車停めます!」


 何かがあれば自動停車するゴーレム馬車。

 だがそれを、自己判断により手動で停車させた冒険者のロンダート。

 外で周囲を警戒する三人の冒険者が、何かを察知したようだ。


 「どうしまし――まさか既に?」

 「ティア様?何がありました?」

 「この馬車が包囲されていますね」


 ここに至ってようやく把握出来たティア。

 エルフの里を目前とした森の中で、ゴーレム馬車はいつのまにやら何者かに包囲されていた。

 

 「冒険者の皆さんは警戒お願いします」

 「分かりました」  

 「……エルフの里は目前、そしてこの森は彼らエルフの領域。ここまで気配が溶かされる可能性を考慮しなかった私の警戒の甘さは失態ですね」


 ハッキリと周囲を囲むのはエルフ族の人間だと宣言するティア。

 エルフの里は目前で、そんな森の中でここまで溶け込める存在など他には居ないだろう。


 「エルフの人に囲まれてるんですか?」

 「《聖域結界》を最大稼働させるだけの何かが起こっている状況なら、外から来る私達に警戒を示すのは当然でしょうね。ひとまず私が外に出て対応します。レイシャさんもお願いできますか?」

 「畏まりました」

 「皆さんは中で待機しておいてください。何かがあれば馬車だけでも逃がします。その場合は緊急時の手筈通りにお願いします」


 そう言い残し、返事も待たずにティアは馬車を降りた。

 それに次いでレイシャも降りる。

 馬車は冒険者の三人が陣形を組み囲み、森の中に潜む者達に睨みを利かせる。


 「すぅ……私達に敵対する意志はありません!どなたか話し合いの権限を持つ方はいらっしゃらないでしょうか?」


 包囲する存在に言葉を向けるティア。

 そして数秒の静寂の後、森の中から二人の人影が姿を現した。


 「……私が代表者だ。名乗りは後回しにさせてもらおう」


 現れたのは耳の長い、確かにエルフ族である男が二人であった。

 そのうちの一人が彼らの代表として言葉を掛ける。 


 「其方らは何者だ?何用があってここにいる?」

 「私達の目的はエルフ族の里にある〔聖域〕です。用件はここでは語れませんが、エルフの皆様と敵対するつもりは全くありません……ひとまずはコレをお読み頂けませんか?」


 ティアが差し出したのは一通の手紙。

 ゆっくりと両者は近づき、そして手紙を受け渡す。


 「……拝見させて頂く」


 封を解き、手紙の内容を確認するエルフの男。

 そして理解する。


 「姉様の……いえ、シフル殿の紹介状。確かに本物のようですね」


 その手紙は、賢者シフルに持たされていたもの。

 同じエルフ族であり、シフルの故郷でもある里への通行証代わりとも言える紹介状であった。


 「シフル殿の御身内にとんだ粗相をしてしまいました……総員、構えを解け!この方々は敵ではない!その場で反転し、周辺警戒に転化しろ!」


 その号令の直後、馬車の一同に向けられていた警戒の意志・殺気の全てが消える。

 どうやらこの場の難は去ったようだ。


 「改めまして、私はこの隊を任されている隊長の【シラハ】と申します」

 「私はティアと申します。他の方々の紹介はまた後程……まずは里まで案内して貰えないでしょうか?ここではゆっくりお話をとも行きませんし」

 「里は……申し訳ありませんが、この手紙があったとしても、今すぐ皆様を御案内という訳には行かないのです」


 渋い顔を見せるシラハ。

 やはり何かが起きているようだ。


 「……我らの里は現在、部外者の立ち入りを全面的に禁止しております」

 「何かあったのですか?」

 「えぇ色々と……ですがこの場ではお話出来ません。まずは門へとご案内します。立ち入りの許可が得られるように尽力させて頂きますが…出る出ないどちらにしろ少々お時間を頂きます。その間に事情をお話させて頂きます」


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