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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
異世界騒動/それぞれの旅路
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122 魂の模倣



 「――三人とも目を覚ましたんだな」

 「ああ、精密検査はこれからだけど、簡易検査だと問題は無かったみたいだから調査の協力とかはあるけどリハビリ込みでも二週間かからずに退院できるんじゃないかって話だったかな」


 最近の恒例となりつつある、勇者タケルの部屋でのやり取り。

 王族としての仕事をこなさなければならないラウルにとっては、日中に気を抜ける場所はこの場だけになりつつあった。

 だがそこでも事務的な話は避けられない様子だ。

 仲間絡みの話なだけにしっかりと確認しておかねばならない。

 

 「で、三人ともメルトの知り合いだったのか?」

 「そうみたい。本人に話を聞かないとならないけど、メルトに貰ったって言うお守りには、確かにウォルス家の紋章が刻まれてた」

 「タケル、貴族の紋章なんて面倒なものを覚えてたのか?」

 「仲間や知り合いのぐらいは流石に覚えるよ……もしかしてラウルは覚えてない?」

 「ない。大事なのは本人そのものだ」

 「名言風に言ってもそんなに良くは聞こえないかな」


 王族として覚えておかねばならないはずなのだが、ラウルは興味の無い暗記すら駄目なようだ。

 メルト自身はきちんと仲間として受け入れてるのは確かなので、言う通り家柄を見ないだけで目の前の本人はしっかり認識しているのだろうが……


 「それにしても、メルトに平民の子供の知り合いなぁ……とにかくそれなら本人にって言いたいけど、いまここには居ないからなぁ」

 「そこはちゃんと説明してるよ」


 メルトは今、目的地に向けて順調に行ってもうすぐ着くかどうかぐらいの道程。

 既に伝信の圏外に出てから数日。

 連絡の取りようが無い。


 「……知り合いなら会わせてやりたいな。少しは気を休める機会になるだろうし」

 「そうだよねぇ…」 


 誰も言葉にはしなかったが、実家取り潰しの一件以降メルトが気を張り続けているのをパーティーメンバーであるタケル達は全員知っている。

 仕事の上では気を張るのは仕方のない事ではあるのだが、それもいずれは限界が来る。

 どこかで休みが必要なのだが……とは言え本人と連絡の取れない現状ではどうしようもない事ではあるが。


 「まぁ今は、その話は置いておくしかないな。全ては向こうが仕事を終えてからの話だ」

 「そうだな…」


 そして二人の話は、次の話題に進んだ。


 「ところで、ラントス王子の方はまだ目覚めないのか?」

 「まだ起きないな。肉体は健康そのもの。後は目覚めるのを待つだけらしいが、それがいつになるかは医者にも分からないらしい。今日になるか、一週間後になるか……待つしかないさ」


 薄っすらと寂しげな表情を浮かべるラウル。

 三人組やリトラーシャ王女と違い、今もなお眠ったままのラントス王子。

 兄弟として、やはり心配になるのは仕方のない事だ。

 肉体の傷は既に癒えている為、医者としてはいつ起きてもおかしくない状況ではあるらしいのだが、それでもまだ目覚めていない。

 取れる手は全て施した以上、こちらもただ待つ事しか出来ない。


 「……そうだ、そっちの事でも話をしておくことがあったんだった」

 「そっちって、ラントス王子の事?」

 「兄上に擬態していた偽物のほうだ。正確にはあの魔人の擬態能力についての調査結果って所だな。結局は状況証拠だけの推測になるらしいんだが……ほい資料」


 そうして渡された紙に目を通すタケル。

 その内容で、ひとまず最悪は回避されている事は理解した。


 「あの魔人の擬態能力で偽装出来るのは〔魔力紋〕までだろうって話だな」


 〔魔力紋〕は魔力における指紋のようなもの。

 城では本人確認の為の認証に用いられるものである。

 〔身分証〕などにも採用されており、王城でも要人の自室や、資料庫など部外者立ち入り禁止の場所のセキュリティとして使用されている。

 それを魔人ジェイルが模倣出来ていたと言う事は、それらの場所への侵入や物品の持ち出し、書類への判子押しなども好きに出来ていた事になる。

 もちろん言うまでもなく酷い報告ではあるが、これはまだ最悪では無かったのは幸いか。


 「とはいえ流石に〔魂の模倣・擬態〕まではやはり出来なかったらしく、〔結界装置〕を始めとした最重要箇所には細工をするどころか、バレないようにむしろ率先して避けていた形跡が出たらしい」


 地下の秘密の部屋にある《王都結界》の発生装置。

 そしてその他の重要施設や王族専用の魔法具。

 それらでは魔力紋以上のセキュリティとして魂そのもの(・・・・・)の認証が必要になる。

 流石の魔人もそこまでの模倣は無理だったようで、不意に触れて偽物バレする危険を避けるために寄りつかないようにしていたようだ。

 

 「そもそも魂真似るのが無理な話なはずだけど、実際に騙された側だとその可能性もあるのではって思えちゃうのが不安だよなぁ……けどとりあえず一安心か。まぁ調査の人達には安心も何もないんだろうけど……」

 「〔魔力紋〕の認証を突破された時点で、調べるべき対象がかなり広くなってるからなぁ……」


 ついでに言えば、魔法研究の部署ではより安全なセキュリティシステムの研究も始められたらしく、どの部署も仕事が山積みになっていた。


 「爪痕はやっぱり大きいなぁ」


 そう現状を認識し、溜息を漏らしそうになっていたタケルとラウルのもとに、一通の伝信(メール)が届いた。

 差出人はブルガーである。


 「ブルガーか……」

 「あからさまに仕事が増えるって落胆するのはやめてあげなよ」

 「と言ってもブルガーはプライベートな話題で伝信(メール)を送って来る事ないだろ。来るとしたら仕事絡み。ブルガーからって事はいつものように中継役(・・・)が必要な急ぎって事だろ?」

 

 伝信圏外から何処かへ緊急の連絡を取る際に、パーティー内で最も足の速いブルガーが圏内まで移動して伝信を送る役を担っていた。

 つまりはこのメールも緊急用件の可能性が高い。

 それを理解しているからこそ、ラウルも愚痴を言いつつしっかりと身分証(カード)に届いた伝信(メール)の内容には目を通す。


 「……〔キメラの実験場〕?」

 「子供を保護…跡地の調査…人員と馬車の手配の要請だってさ」

 「……休憩終了。ちょっと手配してくるわ」


 シフル達からの報せは、既に一仕事終えた後の報告。

 後片付けの為の人員派遣要請。

 それをこなすため、ラウルは休憩を切り上げて仕事場へと戻って行った。 


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