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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
異世界騒動/それぞれの旅路
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119 それぞれの役目



 「……回数、多くなったね」

 「魔物に遭遇する回数ですか?」

 「うん」


 馬車の窓から外を眺めるナデシコ。

 その視線の先では戦闘が行われている。

 馬車の中に残るのはナデシコとフィルの二人のみ。

 遭遇した魔物の集団と戦うのは、護衛として雇われた冒険者の三人。

 その後衛から弓で援護射撃を続ける弓使いのメルト。

 そしてレイシャとティアは、馬車の側で周辺の警戒にあたっている。

 

 「この森、一応はこうして整備された道が通ってますけど、魔物の生息する森の中を通る以上は余程の運が良い場合でもない限りは、一度以上の魔物との遭遇は避けられませんからね」


 そう語るフィル。

 ちなみに聖域組がこの森に入ってから魔物に遭遇するのはこれが二度目。

 少なくとも運が良いという事は無さそうだ。


 「迂回するとどのくらいかかるんだっけ?」

 「危険を承知でこの森を進んだ場合は森を抜けるまでおおよそ三日程の予定ですが、迂回して同じ地点にまで行こうとすると十日は掛かりますね」


 エルフの里へと向かう道。

 真っ直ぐ進むか、大きく迂回するかで七日程の差が出る。

 危険があるのは確かだが、女神の現状を考えれば、一日でも早く目的を達するに越したことは無いのだ。

 その為に雇った護衛戦力とも言える。


 「……終わったみたいですね」


 そんな話をしていると外での戦闘が終了し、遭遇した魔物は全て倒されたようだ。


 「やっぱり強い人達なんだね」

 「そうですね。冒険者の中でも特に…経歴や実力を見ても、勇者パーティーのスカウト候補になってもおかしくない人達ですから。私は人事選抜には関わってなかったので実情はどうなってたかは分からないですけど」


 勇者パーティーの面々には基本的に国の管轄下にある人材が集められる事になっている。

 だが実際は二名ほど例外、つまりは外部からスカウトされた人材がいる。

 冒険者として仕事を請け負ったピピ。

 そして賢者シフルが見つけて来たブルガ-。

 この二人は雇われ組である。

 実力さえ伴えば、そうして一般人からでも雇い挙げる可能性がある。

 つまりは冒険者として名を広めた彼ら三人にもその機会はあったかもしれないのだ。 


 「それなら、むしろなんでスカウトされなかったんだろ?」

 「正式な理由は分かりませんが、そこはまぁ役割が重複していることが理由じゃないでしょうか?勇者パーティーは少数精鋭が基本ですから定員がある以上、既存の面子と戦闘技能の重複している人はそもそも対象外になりますから」


 シトラスは大盾使い。

 大きさや細かな技能・戦闘スタイルは異なるが、壁役・盾役としての役割は既にレインハルトが存在する。

 アイドムは拳闘士。

 格闘戦で戦う彼は言う間でも無くラウルと完全に被る。

 そしてロンダート。

 大剣を扱う彼の役割は意外と代用が効きやすく、それこそ勇者が担う事も出来る。

 

 「この三人はパーティーの初期枠で外せない人達ですから、彼らに声が掛けられる可能性は殆ど無に等しかったでしょうね。とは言え今はこうして行動を共にする形にはなってますが」

 「――片づけ終わりましたよ。皆さん戻るので出発の準備です!」


 扉を開けて乗り込んできたティア。

 外を見ると、確かに全員馬車に向かって歩き始めている。

 死骸の処理なども終えたのだろう。


 「あの!お疲れさまでした、ありがとうございます!!」


 窓を開け身を外に乗り出し、馬車まで戻って来た冒険者たちにナデシコは声を掛けた。

 その声に手を振りながら笑顔で応えるロンダート。

 シトラスは無言だが会釈だけ返し、アイドムは二カッとした笑みと共に右腕の力こぶを披露する。 

 そして三人はそれぞれの見張り場に乗り込んで行った。 


 「ただいまです!」

 「戻りました」


 そしてティアとレイシャも馬車に戻った。

 全員が乗り込んだ事を確認し、馬車は再び動き出す。


 「この森、予定よりも少し荒れるかも知れませんね」


 森を進む馬車の中でティアがそう発言する。


 「荒れる?」

 「平時よりも魔物の遭遇率が上がってるかもしれません。〔龍脈〕に少し乱れがあるようで、多分森の何処かに〔魔力溜まり〕に近しい乱れが出来かけているんだと思います。その小さな乱れが、この森の魔物たちをイラだたせているんだと思います」

 「魔力溜まり……ここで対応しますか?」

 「まだ後回しにしても大丈夫だと思います。今の規模なら神域(うえ)からの手入れでも何とかなると思うので、女神(わたし)を復活させてから対処したほうが……まぁもしも予想以上に悪化するようでしたら、その時はヤマト君(お兄ちゃん)の出番ですかね」


 さらっとヤマトの仕事が増えたような気もするが、それが本業の一つである以上は仕方のない事だろう。


 「……ヤマトさん達は大丈夫なんでしょうか?」

 「アリアさんとピピさんは分かりませんが、少なくともティア(わたし)が五体満足健康体な時点でお兄ちゃんは無事だと思います」


 女神の分体であるティアの今の肉体を維持しているのは《神降ろし》の行使者であるヤマトである。

 つまりはヤマトに何かがあれば、それはティアにも自らの身の異変として感じ取る事になる。

 ゆえにティアには、ヤマトの無事だけは保証できる。

 

 「ピピも大丈夫じゃないですか?ああ見えて外の三人と同じ上級冒険者で、しかも完全なソロでの実績ですから。普段は斥候役としての役割もあって、危険察知・危機対応能力はかなり高いです。ピピが一緒なら、ヤマトさんもそう簡単には面倒に首を突っ込む事にはならないかなと……思います多分」

 「アリアに関しては言ってみれば里帰りみたいなものですから、ご自分の本拠地である以上は二人よりも危険は少ないと思います。それでも何かが起こる時は起こるものなので確約出来る事ではありませんが。――とは言え今は向こうの心配よりも、自分達の安全を気にしたほうが良いかもしれないですね」


 次の瞬間、再び馬車が停止する。

 そして外の三人へ指示を出す。


 「前方一時から集団接近。先程よりも数が多いです」

 「見えてます。すぐに出ます!」

 「メルトさんも先程同様に。今回は私も魔法支援を行います」

 「分かりました。先に出ます」


 三人組に次いで、メルトも馬車を降りる。


 「そういう訳ですので、レイシャさんは二人をお願いします」

 「心得ております」

 「お二人は先程と同様に……では行って来ますね」


 そうして馬車には先程同様、ナデシコとフィルの二人だけが残される。

 二人はこの先の役目を考え、出来る限り安全な場にいる必要がある。

 だからこそ毎回お留守番。


 「……待つだけ、見てるだけってもの少し辛いね。私の場合は参加しても何が出来る訳でもないけど」

 「ナデシコさんのあの石も拓けた場所でも無ければ出番ないですからね。それとも貴族の御子息を投げ飛ばしたあの技、魔物相手にも試してみますか?」

 「あれ割と恥ずかしい失態なんで、あまり思い出させないで欲しいなぁ……」


 現状ナデシコの持つ自衛手段は、護身術・イーバンの爆石、そして教わった初級魔法のみ。

 唯一役に立ちそうなイーバンも、森の中で扱うにはリスクのある代物である以上、魔物相手の実戦で役に立つ人材では無い。

 そしてそれとは別に、冷静さを欠いてつい手が出てしまったその一件を持ち出されるのは、ナデシコにとって些か羞恥であった。


 「まぁ真面目な話をすれば、待つのも仕事、守られるのも私達の役目です。今回の私達にはちゃんと役目があります。この状況に後ろめたさを感じるなら、その時にきちんと役目をこなすことが皆さんへの礼になりますよ」


 以前は勇者パーティーに置いていかれた事を不満に思っていたフィル。

 だが今回は自身の役目を十全に理解している。

 ゆえに思う事はあれど、それも必要な事と割り切れる。


 「……私、まだ自分が実際に何を任されるのかも説明されてないんだけど、フィルは聞いてるの?」

 「大枠では聞いてます。それにそれこそ〔巫女〕としての役目の本命(・・)ですから、手順はともかく自分が何をするかについては知っています。巫女としての役目を受け入れた時に既に、一生の内に来るか来ないかも分からないその覚悟は決めてしまいましたから。その時が来たというだけの話です」


 静かに平然と語るフィル。

 内容こそ分からないが、そこには何か強い意志を感じ取れる。


 「順当に行けば十日もせずにその時は来ますから、ティア様も時が来ればちゃんと教えてくださるでしょう。不安が残るかもしれませんが、少なくともナデシコさんの身を害するようなお仕事では無いはずなので、静かにまったり気を整えて待つのが良いと思いますよ」


 そして二人は外の光景を眺める。

 視えるのは戦う面々。

 状況はかなり優勢だが、何事にも万が一はある。

 命の懸かる戦いと言うものに、やはり不安を覚えずにはいられないナデシコ。

 せめて自分達の役目を果たした後、皆揃って帰路に付けることを祈っておきたい。




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