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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
異世界騒動/それぞれの旅路
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115 色欲の魔人



 「――シフルさん、これって……」

 「《結界》、それも構成がロドムダーナの時のものとかなり近い。大きく違うのは不透過で中が全く見えないってところかしら」


 王都を離れ、馬車で進み続ける勇者一行は通常の移動日程のほぼ半分で目的地周辺へと辿り着いた。

 一行の目的は第一王子の救助救援。

 そして唯一の報せがありやって来た地点には、大きなドーム状の結界が展開されていた。

 賢者シフル曰く、基本の構成そのものはロドムダーナを覆っていた魔王軍の結界に近いものであるらしい。


 「これって、伝信なんかは阻害されるやつですよね?」

 「そうね。追報が無かったのはこのせいね。最初で唯一になった報せを送って、仲間の元に戻った後に全員揃ってコレに遮断され次を送ることが出来なくなったか、もしくはそもそも……周囲の様子はどう?」

 「異常無し。人の姿どころか魔物や動物の姿も無い」

 「こちらも同じですね」

 「やっぱり可能性が高いのはこの中か……」


 目的地周辺に王子一行の姿は全く見受けられず、代わりにあるのが結界となれば、予測としてその内側に意識が向くのは当然であろう。

 第一王子と、その従者・近衛騎士が十二名。

 合計で十三名が、この中に閉じ込められている可能性がある。


 「……とりあえずこの結界を解いてみるしかないわね。何が入ってるか分からないものは出来れば開けたくはないんだけど、開けないと確認も出来ないものね」

 「解けるんですか?」

 「ロドムダーナの時のやつの発展型や派生型なら、既に根幹部分の解析は出来てるもの。調整は必要だけど形式が同じならそんなに時間は掛からないわ……ブルガーはそのまま後方待機、タケル・ラウルは周辺警戒、レインハルトは私の護衛をお願い。解除作業中は無防備になるからね」

 「了解です」


 一行はシフルの指示でそれぞれの持ち場に付いた。

 そして目の前の結界の解除作業が始まる。


 「――やっぱりロドムダーナの時の派生型ね。それなら既存の方法で七割は突破でき……うん、第一段階完了っと」


 その間、僅かに一分。

 シフルのその言葉と同時に、目の前の結界の力が確かに薄まったような気がする。


 「……これは力押しでも壊せるのではないですか?」

 「中がどうなってるかまだ分からないからやめておきなさい。大技放って要救助者も巻きぞえなんて展開は最悪よ?」

 「確かにそうですね。失礼しました」


 そんな会話を交わす中でも、シフルの作業は止まらない。

 派生型として、既知のものとは異なる構成になっている後半の作業も、賢者の手に掛かれば造作なくスイスイと進み、たったの数分程で既にあと一歩のところまで来ている。


 「……先に透過させて中身を確認するのは難しそうね」


 卵の中身が雛か黄身か、分かったうえで対策を練れるのが一番良かったのだがこの結界も開けてみなければ中身は判別出来ない。


 「とは言えこの感覚だと、十中八九余計なものも入ってるでしょうから……全員集まって!」


 一行に招集をかけるシフル。


 「これからこの結界を解くから、全員戦闘態勢で構えておきなさい。中身が何か断定出来ない以上はいきなり魔物が飛び出してくる可能性もあるからね。ただし本格的な戦闘行為は私の指示を待って。あくまで予想だけど、戦闘以外の何か(・・・・・・・)が待ってるはず」

 「戦闘以外とは?」

 「簡単過ぎたのよ。結界を構えるのなら解かれないように罠や細工を施すのが基本なのに、この結界にはそれが皆無と言っていいほどにしか備わってなかった。これ多分魔法の高位者(・・・)解かれる前提(・・・・・・)の結界だと思うわ。まぁ何にせよ、貴方達はいつも通りに警戒していれば良いから」

 「分かりました」


 そしてそのまま男たちは各々の武器を構え直す。

 その中心で、シフルは杖の先を結界に向ける。


 「さて何が出て来るやら……それじゃあ開けるわよ。五…四…三…二…一…解除!」


 そして結界が解かれる。

 ドーム状の結界の頭頂部から接地面に向けて徐々に膜が消えてゆく。

 光が遮断されていた内側に、日光が注がれる。


 「……十三人。騎士に従者、それと……第一王子も居ます」


 視線を泳がし、空間をざっと一見するタケル。

 その眼の《鑑定眼》が、地面に並べられた(・・・・・)人々の身分を明かしていく。

 音信不通になっていた第一王子の一行の全員が、その場に寝かせられていた。

 ……そして解かれた結界の最奥には、扇情的な身なりをした一人の女性が佇んでいた。


 「ん……あぁ、やっと来たのね?予想よりも早いのは確かだけど、流石にずっとこの中は待ちくたびれたわよ」


 一行は当然ながら警戒を強める。

 女性はゆっくりと歩を進め、お互いをきちんと認識出来る距離にまで近づいたところで歩みを止めた。 


 「……あれは、〔七大罪の魔人〕です!」


 そんな女性の正体を、タケルが明かす。 


 「あら、もう看破?つまりは貴方が噂の勇者と。自己紹介の手間が省けて良かったけど、流石に礼儀としてそのまま進めるのも微妙なので改めて名乗らせて貰うわ」


 すると魔人の女性は、自ら名乗りを上げる。


 「私の名前は【アデモス】。魔王軍幹部七大罪が七番目、"色欲"の魔人。元は〔サキュバス〕。ここへは魔王軍としての仕事と共に(・・・・・)、貴方たち勇者一行に個人的なお願い(・・・・・・・)があり、こうして貴方たちの到着を待っていました」

 「敵が何を――」

 「待ってラウル、ひとまず話を聞くわ。それで……貴方のお願いって何?」


 食いかかろうとするラウルを止め、シフルが言葉を促す。

 そして色欲の魔人は、本題を語る。


 「私は人間国への〔亡命〕を希望します」




19/11/14

文章を一部修正しました。

本筋に影響はありません。

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