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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
異世界騒動/それぞれの旅路
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114 露店とお守り




 (――何だっけ?知らない天井がどうとかって……まぁ思い出せないならいいかな)


 目を覚まし、視線の先の天井を見るナデシコ。

 目覚めて早々に思い出したのは、ヤマトやタケル達が呟いていたと言われた、ナデシコにはよく分からない言葉。

 何か日本由来のネタらしいのだが、その辺りの知識の無いナデシコには全く分からなかった。


 (……そうか。昨日は宿に泊まれたんだっけ)


 聖域への旅路の道中の夜は、野営と宿の入り混じる予定。

 昨日は小さいながらも町に辿り着く事が出来たため、こうして数日ぶりにベットを使う事が出来た。


 (レイシャは……まだ寝てるのか。外もちょうど夜明けの日の出くらい。少し早く起き過ぎたかな?)


 いつもであれば誰よりも早く起きているレイシャよりも早く起きてしまったナデシコ。

 他の皆は別室の為分からないが、いつも通りならばまだ寝ているのだろう。


 「……あれ?シロも起きたの?早起きだね」


 枕の横に置かれたクッションの上で眠っていた精霊のシロも目を覚ましたようだ。

 流石に寝間着にはシロの入り込むポケットスペースは無い為、宿で眠る夜の間はこのクッションがシロのお気に入りのスペースだ。


 「……シロ、外に出たいの?」


 窓の外を気にするシロ。

 シロの挙動からもナデシコの問いは正しかったようだ。

 慣れてきたのか、言葉を介さないシロとのやり取りも今では満足に出来るようになっていた。


 「着替えるからちょっと待っててね」


 そのままいつもの服装に着替えるナデシコ。

 こちらの世界で羨ましい事柄の一つが、《浄化》の魔法のおかげで毎日同じ服を着てても清潔さ的には全く問題ない所であろうか。

 とは言えナデシコはまだ未修得である為、毎夜着替えた後にレイシャかフィルにお願いするしかない状況ではあるのだが。


 「……あ、もう!まだ着替えてる最中なのに」


 上着を着替えた側から、シロが普段の定位置の一つである胸ポケットに潜り込んでくる。

 今のシロのサイズ的には、ポケットに収まりはしてもおかしなコブの様にポケットが膨れ目立つのが普通のはずなのだが、どういう訳かシロが入った後のポケットはまるで何も入っていないかのように外見的な変化はない。

 確かにそこに居るのに、質量を感じさせない精霊ならではの無意識の配慮であるらしい。

 おかげで邪魔になる事はないので、そのまま着替えを終えるナデシコ。 


 「……お嬢様?」

 「あ、起こしてごめんなさいレイシャ」


 その小さな騒ぎのせいか、眠っていたレイシャが目を覚ました。


 「……お出かけですか?」

 「うん。ちょっとシロとお散歩」

 「でしたら私も――」

 「大丈夫だよ。宿の周囲をぶらぶらするだけだから。レイシャは朝の準備があるんでしょ?」

 「……分かりました。遠出はせずに、朝食前にはちゃんと戻って来るようにしてくださいね?」

 「分かってます。それじゃあちょっと出て来ます」


 そしてナデシコとシロの二人は、朝の散歩に出かけて行った。



 

 「――シロ?駄目だよ町中で出て来ちゃったら」


 普段は町中ではポケットの中のシロ。

 だが朝の散歩の最中、唐突に姿を現した。


 「……そっちに何かあるの?」


 シロはどうやらナデシコを何処かへと導こうとしているようだ。

 フワフワと進むシロを、ナデシコは追っていく。

 そして辿り着いたのは小さな露店であった。


 「いらっしゃい……ゆっくりみていってね……」


 早朝にも関わらず露店を開くおばあさん。

 シロもいつの間にやら胸ポケットに戻っている。

 

 「……それじゃあ、お邪魔します」


 流石にこのまま引き返すのも気が引けたので、ひとまずその露店を覗いてみる事にしたナデシコ。


 (……フリーマーケットみたいな感じかな?)


 並ぶ商品に統一感は無く、不用品を並べる個人のフリーマケットを彷彿とさせる露店であった。

 

 (……指輪?)


 その雑多な中から、何故かナデシコは無造作に置かれた指輪に目が留まった。

 思わず手に取り眺める。


 「それはお守りだよ……」

 

 指輪のお守り。

 お守りと聞き真っ先に思い出すのは、神域宝具の納められていた家に伝わるお守りではあるが、当然ながらそれとはまったく関係はないようだ。

 手に取り気付いたが、どうやら材質的には木製でおもちゃに近いようだ。

 女神様の加護のおかげで多少なりとも良し悪しの目利きが可能なナデシコ。

 この指輪もお守りと言うほど良い物かどうかまでは分からないが、少なくとも悪い物では無い事は理解出来た。

 むしろ何か不思議な――


 「よかったらつけてみて……すこし小さいから、右手の小指にでも……」


 促されるままに右手の小指に嵌めてみる。

 サイズはピッタリ。

 そして何故か、自分の指に馴染むような気がした。


 「……暖かい?」

 「そのお守りと相性がいいのかもしれないね……よかったら安くするからもらってやってくれないかい?」


 元の金額から更に半額、元が安いだけに一食分の食事代程度の金額。

 その馴染む感覚も後押しし、ナデシコは迷う事は無かった。


 「買ってくれてありがとね……きをつけて行くんだよ……」


 気が付けばそろそろ朝食の準備の出来上がる頃。

 少し時間をかけ過ぎた事に気付いたナデシコは、軽く会釈をして早足で宿へと戻る事にした。




 「――あ、お帰りなさいナデシコさん。あれ?その指輪は?」

 「おはようございますティアちゃん。ちょっと露店で見つけて買っちゃいました」

 「そうですか……それより、食事の準備が出来ているようですよ」

 「分かりました」


 小指の指輪をパッと見して、特に変哲のないおもちゃである事を確認したティアは、すぐに視線をナデシコの顔に戻した。


 「食事が済めばすぐに出発ですから、しっかり食べて備えましょう」

 「はい」


 ナデシコがこの指輪が〔お守り〕と呼ばれた意味を本当に理解するのは、まだまだ先の話である。

 

 (……もう片づけちゃったのかな?)


 そして町を出る際にその露店の場所を通った時には、既にそこには露店とおばあさんの姿は影も形も無くなっていた。

 


 

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