112 聖域組の出発
「――あ、お二人ともおかえりなさい」
「ナデシコさん、ただいまです」
場所は王都王城。
ヤマト達、精霊組の出発を見送る事も無く、軽い挨拶だけをして何処かへと向かっていたティアとフィル。
彼女達が一仕事終えて王城へと戻って来た。
「……えっと、ところでレイシャさんは何をしているのですか?」
そんな帰宅した二人の視線の先には、ソファに座ったまま呆けた状態になっているレイシャの姿があった。
いつもであればナデシコと共に二人の帰宅を迎えるはずだが、そもそも二人の存在にも気が付いていない様子だ。
「あー……まぁ少しそっとしてあげてください。お兄さん絡みで少し……」
「あ、なるほど分かりました。となるとしばらくは放って置いたほうが良さそうですね」
「良いんですか?」
「そのうち気が付けば復活してますから大丈夫ですよ」
即座に合点が行ったフィル。
それと正反対に、全くピンと来ていないティア。
事情に気付いてなければ把握も難しいだろう。
「ところで、お二人の方はどうだったんですか?」
「あ、ちゃんと問題ないですよ。ヤマト君がちゃんと下準備して行ってくれてたので、依頼交渉はとても円滑に進みました」
「……あれは脅しな気もしますけどね」
満足そうなティアに、苦笑いのフィル。
二人は共に冒険者ギルドへと赴いていた。
そしてヤマト推薦の護衛候補に会って来た。
「それで本題ですが、向こうの準備もすぐに出来ると言う事なので、出発は明日になりました。ちなみに護衛人数は三人です」
「分かりました。落ち着いてからレイシャにも伝えておきます」
正式に聖域組のメンバーが決まった。
ティア・フィル・ナデシコ・レイシャ・メルト・シロ。
そこにヤマトの提案した一人に、そこからの紹介で更に二人、合計三人を外部からの護衛として雇い、加わる事になった。
「あ、そうだ。勇者一行の予定が早まり、これから出発するそうですよ」
「もうですか、指示も行動も早いですね……ちょっと見送りに行って来ます」
そのままそそくさとこの場を離れて勇者パーティーのもとへと向かったフィル。
以前は仲間内で一人だけ置いていかれる事に抵抗があったフィルも、他にやるべき事が出来ている今回は抵抗も無いようだった。
「それでは私達は明日の準備を終わらせましょうか」
「はい。分かりました」
――そして翌日、出発の日。
「おはようございますお嬢様」
「おはようレイシャ」
昨日の落ち込みが夢であったかのようにいつも通りに振る舞うレイシャ。
落ち込みは欠片も感じさせない。
「それで……彼らが護衛の冒険者達ですか?」
「そうみたい」
二人の視線の先には、ティア・フィルと共に出発前の確認を行っている三人の冒険者の姿があった。
「……また凄い面子ですね」
「知ってる人たち?」
「あくまでも知識・情報として知るのみですが。冒険者の枠の外にも噂が流れて来るくらいの有名人です。その上で仕事上で情報も集めましたし……とは言えパーティーが解散して以降は全く聞かなかったので、お二人のほうはてっきり引退したものかと思っていました。よくあの三人を集められましたね」
三人の冒険者。
【ロンダート(人族:上級冒険者/大剣士"チャンピオン")】
【アイドム(人族:ギルドサブマスター/拳闘士:"鉄腕")】
【シトラス(人族:上級冒険者/大盾使い:"鉄壁")】
三人全員が上級冒険者クラス。
そして人格的にも難が少なく、護衛役としては申し分の無い人材であった。
――城の兵士をティア達聖域組一行の護衛に付けると言う話が出た時、真っ先に冒険者ギルドへの依頼を提案したのがヤマトであった。
『声を掛けてみたい人が居る』。
つまりは指名依頼であり、その相手こそが冒険者の〔ロンダート〕であった。
バルトルの一件でヤマトはロンダートの〔表の顔も〕〔裏の顔〕も知った。
そしてそんなロンダートが、今はこの王都に居る事もアリアの目撃で知った。
彼の実力を知る者として、外部の人間を護衛に付けるのならばまずは彼に声を掛けてみたいと手を挙げたのだ。
諸々の勝手を考えれば、城の兵士を連れて行くのが無難だろう。
だが機密・守秘義務の類は契約次第でどうとでも予防線は貼れる。
だからこそ実力を優先で選びたかったようだ。
とは言え当のヤマト本人が声を掛けたのはロンダートただ一人。
その現状唯一の伝手から、まさか同等クラスの実力者が二人も追加されるとは思いもしていなかっただろう。
これも嬉しい誤算の一つだが、先に発ったヤマトがそれを知るのはもっと後の事である。
「ごめんなさい!遅くなりました!」
整備に出していた装備の受け取りで他よりも遅れたメルトが合流し、これで旅の面子は全員揃った。
「時間ピッタリなので大丈夫ですよ。――そう言う訳で、私達五人が今回の護衛対象になります。既に時間ですのでひとまずこの場で姿を覚えて頂き、個別の自己紹介は出発してから休息の際にでも済ませましょう。全員揃ったので出発します」
乗るのはシフル製ゴーレム馬車二号。
勇者パーティーの予備として準備されていたものを借り受けた。
性能としては勇者一行のものと変わらない。
この特殊馬車に慣れない冒険者たちの表情が若干興味津々と言った感じになっているが、この馬車に関しては特に語る事もないので放置する、
「皆さん乗りましたね?それでは出発します!」
ティアがゴーレム馬車を起動する。
そして馬車はゆっくりと走り出す。
目指すは〔聖域〕〔エルフの里〕。
女神を救うための旅路が始まった。




