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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
使い魔人生/始まりと出会い
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10 日本からの転移者【撫子】


 少女の名前は蓮田(はすだ) 撫子(なでしこ)

 十五歳、日本の高校生だ。


 その日の彼女は、いつも通りの下校途中に事件に遭遇した。

 何の変哲もない帰り道。

 いつも通りの街中の通り道だったはずなのに、次の瞬間、彼女は森の中に居た。


 急に街中から森の中に移動したとなれば、誰だって混乱するだろう。

 最初は夢を疑う。

 しかし意識も感覚もハッキリしている。

 映画の撮影……は、人も居なければ撮影道具も見当たらず、瞬間移動の説明にもならない。

 とにかく不安になる撫子であったが、じっと待っても誰かが近づいてくる気配もないので、自ら森の出口を探すために歩み出した。


 そして歩いた先で遭遇したのは、気持ち悪い見た目の生き物。

 以前借りた漫画で見た、「ごぶりん」の姿にイメージの近い化け物だった。

 撫子は慌ててその場から駆けだすが、ゴブリン達は後を追ってくる。

 歩き慣れない森の中。

 走る速度も思うように上がらず、体のあちらこちらは草木で引っ掻き小さな傷が増えていく。

 不思議と痛いとは思わなかった。

 ただ単純に…逃げなければと。

 必死にそれだけを考えて走り続けた。

 

 辿り着いたのは、森の中の小さな広場。

 木の根に足を引っかけ転がり出たその場所で、ゴブリン達には完全に追いつかれてしまった。

 静かに唸るごぶりん達の前で、座り込んで身動きの取れない撫子。

 絶体絶命とはこういう事を言うのだろう。

 普段から持ち歩いているお守り袋を両手で握り、ただただ誰かが助けてくれる事を祈るしか出来なかった。


 すると、握り込んだお守りの中身(・・)が青い光を放ちだす。

 袋を開いて中から取り出したのは、綺麗な光を放つ〔蒼い石〕

 これが何かは撫子には分からなかったが、何となくこうすればいいのだという、不思議な感覚が過った。

 次の瞬間、撫子はその蒼い石をゴブリン目がけて投げていた。

 蒼い石は一体のゴブリンに命中する。

 

 爆発が起きた。

 その場に倒れ込んだゴブリン。

 そのまま動かなくなった。

 困惑する他のゴブリン達を尻目に、撫子の手元にはつい今しがた投げたはずの蒼い石が再び握られていた。

 撫子は再びゴブリン目がけて蒼い石を投げた。

 命中、爆発、そして倒れるゴブリンと、手元に戻ってくる石。

 撫子は逃げ惑い始めるゴブリンたち目がけてひたすらに投げ続けた。

 そして、ゴブリンは全て動かなくなった。




 「(そして、そこにやって来たのが俺だったと。そりゃ直前までそんな事になってれば反射的にその石を投げたくなるよな……それで結果はどうです?)」

 『本物です。あの蒼い石は、間違いなく〔神域宝具〕です』


 撫子に視せて貰ったその蒼い石。

 彼女の家に代々伝わるそのお守りの正体は【イーバンの爆石/神域宝具(一番)】。

 紛う事なき、行方不明の神域宝具の一つだった。

 本来なら魔力の扱い方など知るはずのない日本人の撫子だが、感情の大きな揺らぎと共に体から漏れ出る魔力を、撫子の生存本能に反応して起動したイーバンが自動で吸い上げたようだ。

 おかげで撫子は助かったが、魔力枯渇に近い症状を引き起こしていた。

 やはりポーションを飲ませたのは正解だったようだ。


 『別の世界、地球の日本にあったとは……それなら確かに見つかりっこありませんよね。もしかして残りの二つも別の世界に?それだと捜索はかなり難航して……撫子さん達の転移の件も含め、世界移動や転移についてはもっとしっかりと調べなくてはなりませんね』

 「(こっちとしては、そんな物騒な物に二日連続遭遇した事にビックリなんだけどな)」


 転生二日目にも関わらず、杖に続いて二つ目の宝具と出会ってしまった。

 実を言うと勇者タケルの持っていた聖剣も神域宝具であるのだが、ヤマトの捜索対象ではないので女神もわざわざ知らせる必要はないだろうと思っている。


 「このお守りは魔法の石だったんですね。魔法……ヤマトさんも使えるんですね」

 「まぁ説明した通り、女神様の使い魔でスタイルが魔法使いだからな」


 先程まで燃えていたゴブリンの火を消すために、撫子の前で水の魔法を使った。

 残ったゴブリン共の死骸は、爆発を警戒して出てこなかったスライム達を、特殊な疑似餌で呼び寄せて処理した。

 ちなみにスライム寄せの疑似餌は普通に売っている。


 「スライムは…透き通っていて綺麗でしたけど、あのゴブリンの死骸を溶かしているのを見るとやっぱり怖いですね」


 近づかないに越したことはない相手なので、その反応で良いと思った。

 

 「さて、この辺りは魔法で明るくしてはいるけど…もう暗くなってきたし、この後の行動を検討してから動きたいんで今日の所はこの場にテントを張ってそこで休んで貰う事になるけど……大丈夫?」

 「はい、正直言うと大丈夫かどうかは分からないですけど、文句を言える状況で無いのは理解してるので、頑張ります」


 というわけでヤマトはそそくさと《結界》とテントを張ると、テントの中に撫子を押し込んだ。

 

 「ごめんなさい。一つしかないテントを一人で使う事になって……」

 「いや、結局寝ずの番が必要だから気にしないでいいよ。中に入れてる水や食料は好きにしていいから。携行食……保存食みたいなものだから味は気にしないで貰えると助かるけど。あと女性物の着替えは無いんでそのまま眠る事になるけど――」

 「あ、学校のジャージがあるので一応大丈夫です」


 下校中だったため、学校で使っていた道具は持ち込んでいたようだ。

 鞄などは転倒した時に落としていたが、すぐに回収できる位置だったので良かった。


 (――おっと)


 ヤマトはテントに背を向ける。

 テント内に置いてあるランタンのせいで、テント内で着替える撫子のシルエットが見えてしまっていた。

 テント越しとはいえ、それを堂々と見続けられる度胸はヤマトには無い。


 『ヤマト君のえっちー』


 からかう女神様が割とウザかった。


 「あの、すいません。だんだん眠くなってきて――」

 「あ、分かった。テントの中の灯りとかも好きにしていいから眠いなら寝ちゃっていいよ。後はこっちでやっておくから」

 「ありがとうございます。それでは…おやすみなさい」


 再びテントが閉じられ、中の灯りが消えた。

 そしてすぐに、静かな空間に微かな寝息が聞こえてくる。

 疲れているのは当然であろう。


 「(――さて、それじゃあこっちは会議を始めましょうか)」 



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