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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
精霊界騒動/精霊界の行く末
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104 女王降臨



 「――まさか、今更そっちから出向いてくれるとはな」


 地震、地鳴り。

 精霊界では珍しい現象に警戒の色を示す面々。

 だがそれも何事にも発展せずに治まったように見えた。

 ……その直後、今まで姿を見せず、声も出さずに居た精霊女王本人(・・)が出てくるまでは。


 「何でここに来てるのよ」


 それに一歩遅れて合流したアリア。

 同じ上位精霊であるイアスと解放されたファイリアを連れていた。


 「……女王様、サンはご一緒ではないのでしょうか?」

 「サンと貴方(イアス)の分体には別の仕事(・・・・)を頼みました」

 「……そうですか」


 イアスは何かを悟ったのか、表情に覚悟の色が見え始めた。


 「お久しぶりですねヤマトさん。先程はご挨拶も出来ずに申し訳ありません。そちらはピピさんと……トールでしたね。初めまして、私が精霊女王であるアクエリアと申します」


 そんな中で悠長に挨拶を交わしていくアクエリア。

 敵であれば絶好の隙にも見えるのだが、ネスにはその隙を突こうとする動きは見られない。


 「ファイリアも、お久しぶりね」

 「……手間を掛けさせたみたいだな。すまん」

 「やらかした(・・・・・)事に関しては今度(・・)お話しましょうか。今は彼と話をしなければならないので――」


 精霊女王の視線は、この場で唯一対峙しているネスへと移る。

 お互いを真っ直ぐに見る両者。


 「――散々他者任せで隠れていたお前が、どうして今更この場へと赴いた?」

 「この非常時に余計な苦労を持ち込んでくれた貴方がそれを言うのかしらね。大変だったのよ?それも区切り(・・・)が付いたからこうして出向いているのだけど」


 精霊女王達の対応していた、女神不在により重責の増した〔精霊界の維持〕という仕事は、それこそ一朝一夕で区切りの付けられるものでは無いはずだ。

 それも死の精霊ネスという《死霊魔法》に纏う瘴気を持ち込んだイレギュラーな存在がやって来ている今はなおの事。

 ならばその区切り(・・・)とやらは一体。


 「……そうか。まぁなんだろうと構わない。俺は俺の目的を果たすだけだ」

 

 これぞ本気とばかりに、今までになく力が増していくネス。

 恐らくはこの時、想定とは違ったタイミングではあるとはいえ、精霊女王と対峙した時の為に温存していた力があるのだろう。

 

 「大丈夫ですよヤマトさん。ネスの相手は私がしますから」


 二人の間に割って入ろうとしたヤマトを、すぐさま静止するアクエリア。


 「皆さん、少し下がっていてください」


 その指示に従い、当人たちを除く面々はすぐさまアクエリアの後ろへと下がっていく。

 静かな言葉の裏でアクエリアから感じ始めた力の気配。

 それを感じ取り、自然と体が後ろへと下がらせた。


 「根本的な所は昔のままみたいですね。不意打ちもせず律儀に宣言、ヤマトさん達の相手も避けようと思えば避けて、こちらへと真っ直ぐに向かう事も出来たでしょうに……外法に手を染め、存在そのものが堕ちても、根本的な真面目さと言うべきか、律儀さって変わらないものなんですか?」

 「……五月蠅い。黙って集中したほうがいいんじゃないのか?」

 「大丈夫ですよ。この期に及んで全力を出さない(・・・・・・・)相手に負ける程、精霊女王の持つ力はヤワではありませんから」


 ネスが精霊王の座を狙っているのは本気。

 その為にこうして対峙している。

 だがそれは本気ではあれど、ネスの全力では無いと断言するアクエリア。


 「……何を言っている?」

 「いえ、だって貴方、自動ゆえに止められない《魔力吸収》以外に〔死の精霊〕らしい力って全く使っていませんよね?どれも〔闇の精霊〕として元々持っていた力と〔死霊魔法使い〕として継いだと言う力ばかり。まぁ全体的な力の底上げはあったでしょうけど、死の精霊として得た独自の力は今までも、そして今も使う気無いじゃないですか」


 記憶を振り返るヤマト。

 死の精霊となったネスは、確かに《魔力吸収》以外に目新しい技を使っては居なかった。

 それがどんな思惑ゆえかは分からないが、ネスにはまだまだ出せる力があったようだ。


 「〔死の精霊〕として得た力がそれだけなんて言い訳は通用しないわよ?これでも精霊女王。精霊に対する眼だけなら誰のものよりも優れているという自負がありますから」


 ネスを見る眼は《鑑定眼》以上であると宣言するアクエリア。

 事実なら、ヤマトには視えない何かが視えている、もしくは感じ取れていると言う事だろう。

 だからこそネスが〔死の精霊〕としての力を大して振るっていない事に気づいた。

 そして力の差も把握している。 


 「勿論それを使う使わないは自由です。ですが、正直言うとこちらも色々と鬱憤が貯まってますので、そちらがどうであろうともこちらは手加減せずに行かせて貰うわよ」


 ちょっとした八つ当たり宣言。

 いや、その鬱憤というか苦労というか、その要因にネスも絡んでいる以上は正当なのか?

 とにかくアクエリアのその言葉と共に、急激に高まるアクエリアの力がこの空間を支配していく。

 質量など持たないはずのそれは、ヤマト達には明確な重さを感じさせる程だ。

 

 「皆さんごめんなさい。少し我慢しててくださいね」

 「ひゃうッ!?」


 更に増す力と共に、ピピから聞こえた可笑しな声。

 ふり向くと二つ目の尻尾が消え、隣にはトールの姿もあった。

 《精霊融合》が解けたようだ。


 「じょおうさまこわい」

 「……トール、急に離れるのは危ない。変な声出た、恥ずかしい……でもこれは確かにちょっと強すぎる?」

 「先輩にも羞恥心ってあったんだ……」

 「後輩君、それはどういう意味かなー?」

 「ここは精霊界で、アクエリアはそこに住む精霊の頂点。振るう機会は早々無くとも、このくらいは当然よね」


 人界とは違い、ここは精霊たちの力の満ちる精霊界。

 そこを纏め上げる精霊女王の力は、このホームグラウンドに限って言えば、それこそ勇者や魔王とすら肩を並べる事も出来るだろう。


 「それじゃあ悪いけど、覚悟しなさいね?」


 死の精霊と精霊女王。

 これからぶつかるその一騎打ちは、ただの一撃で決着が付く事になる。

 


  

  

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