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異世界で女神様の使い魔になりました。   作者: 東 純司
精霊界騒動/精霊界の行く末
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103 復活のトール



 「わたしの名前はピピ。あなたは?」

 「なまえ……トール……」


 とある昔のお話。

 まだピピが今よりも子供だった頃、冒険者となる前の出会い。


 「トール。お父さんかお母さんは一緒じゃないの?」

 「なにそれー?」

 「うーん、誰か一緒じゃないの?」

 「ルト…ずっといっしょだった。だけどいない」


 薬草取りでやって来た森の入り口。

 そこに居た、小さな子供。

 声を掛けない訳には行かず、とは言え子供にはどうしたものかと言う状況であった。


 「迷子?ここで待ってれば迎えに来るかな?けどあぶない場所にはかわりないし……」


 入り口付近とは言え、紛いなりにも魔物も住む森だ。

 例え大人にとって脅威度の低い場所であっても、子供には厳しい。


 「そのルトって人はここに迎えに来るの?」

 「ひとー?ひとじゃないよ?ルトは――」


 その時、森の中から聞こえて来た雄叫び。

 魔物の声に、ピピもルトも身を強張らせる。


 「まずいかも……トール、ここを離れよう!」

 「どこにいくのー?」

 「村。わたしの家があるの。魔物のけはいがしたらすぐに逃げる!それが一人で森に来るための約束事なの」


 同世代の中でも気配察知の感覚が優れていたピピは、その条件の下で森への立ち入りを許されていた。

 当然比較的安全な入り口付近のみだが、家の手伝いをするには充分な行動範囲だ。


 「やくそく……ぼくもルトとやくそくしたー!」

 「それはどんな……ごめん、一緒に来て!」


 魔物の気配が近づき、ピピはとにもかくにもこの場を離れる事を優先した。

 トールの手を握り、そのまま連れて森の外へと走り出す。


 「なんではしるのー?」

 「あぶないのが近づいてるから!」

 「あれのことー?」


 走る二人の後方、距離を詰めて視界に貼って来たのは〔ウルフ〕であった。

 脅威度で言えば単独のゴブリンと同程度。

 つまりは魔物中でも、獣と大差の無い低級。

 だがそれも、戦闘術を学び始めたばかりの子供には荷が重い相手だ。

 


 「あれあぶないのー?」

 「そうだよ!あぶないの!追いつかれたらかみつかれる!いっぱいケガしちゃうよ!だけど森の外にはでてこないから、がんばって走って!」

 「ならたおすー」


 繋いだピピの手を放し、一人立ち止まるトール。


 「トール!?」


 慌ててピピはトールの手を掴み直そうとするが、その手は透けて、通り抜けて握れない。


 「え?」

 「ぼく、『まだみじゅくだからふたつをいっしょにできない』ってルトがいってた」


 トールの言う二つとは、〔実体化〕と〔魔法行使〕の事なのだが、当時のピピは当然知る由もない。


 「えい!」


 そしてトールが両手を振ると、ウルフ目掛けて数本の雷が飛んで行った。

 威力で言えば過剰なのだが、その辺りの加減など全く気にしない。

 当然ウルフは撃破、後に残るのは黒焦げの何かだ。


 「……今の、魔法?」

 「まほう…ルトもいってたー!」

 「トールは魔法使いなの?」

 「なにそれー?」


 無邪気に笑い、そしてトールはハッキリと言葉にする。


 「トールは〔せいれい〕だよ?」






 「――『子供の頃に森で出会った精霊(トール)と仲良くなった』って一文だけだと、説明としては本当に最低限ですよね。今は細かく聞く余裕は無いので、また今度お話を聞かせてください」

 「分かったー」


 ネスと対峙するヤマト。

 その場へと復帰したピピは、一人の見知らぬ子供の精霊を連れていた。


 「それで、君がトール君?」

 「……おじさんだれー?」

 「ぐふッ!?」


 予想だにしなかったおじさん呼び。

 十六歳相当とは言え、日本人顔で異世界(こちら)ではそこから多少は若く見えるはずのヤマト。

 それがまさかのおじさん……。

 味方からの精神攻撃を食らってしまった。

 

 「トールにとって年上は全員おじさん。気にしなくていい……この人はおじさんじゃないよ。後輩君だよ」

 「その説明もどうなんですか?」

 「こうはい……げぼくー?」

 「……先輩?その子にどんな教育してるんですか?」


 ジト目でピピを見つめるヤマト。

 シロ以上ウーラ以下と言った精神の成熟度合いらしいトール。

 だがどうも何かずれている気がする。


 「……色々教えたのは父さんと母さん。たまに変な言葉が飛び出してくるのはご愛敬」

 「まぁ良いですけど……その子が先輩の〔契約精霊〕なんですね」

 「そう。色々あって眠りっぱなしだったのが、ようやくやっと目を覚ました」

 「その話も後で聞かせて貰えません?」

 「もちろん。だけど今は目の前のあれ」


 二人…いや三人が向き合いのはネス。

 死の精霊へと堕ちた存在だ。


 「なるほど、それはルトの……やはり時間が流れれば色々と変わるものだな」


 何処か寂しそうにトールを見つめるネス。

 だがその顔も、すぐに切り替わる。


 「……トール。行ける?」

 「いけるよー。こわいのたおすの?」

 「そう。そういう事だから三十(・・)でお願い」

 「三十でいいの?もっといっぱいがったい(・・・・)しないの?」

 「それで戻れなく(・・・・)なってたんでしょ?今は三十でいい」

 「わかったー!それー!」


 ピピとトール。

 二人が行ったのは《精霊融合》であった。

 話を聞くに、融合率三割。

 最低限の融合のようだ。


 「……尻尾増えてません?」


 狐人族であるピピには、元々尻尾が付いていた。

 一本だったそれが、今は二本に増えていた。


 「理屈は分からないけど、融合すればするほど尻尾が増える。過去最高は八本。〔完全融合〕なら九本目が出るかも知れない。……どうなるかは痛いほど身に染みてるから絶対にやらないけど」


 それはまるで九尾の狐の如く。

 とは言え完全融合は手を出してはならない領域。

 九尾は一生見る事は無いだろう。 


 「やろう後輩君」

 

 そして、ピピ組を含めての新たなラウンドが始まった。

 だがその時――。


 「……地震?」


 精霊界が揺れる。


  


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